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命大事に

挿絵(By みてみん)


宿屋でも同様にロッカの前でスキルを使い、紙を出して見せた。


「…すごいスキルだったんだな…」

と目を見開いて呆然となったロッカに


「紙の需要って、一つの町だとたかが知れてるだろ?」

と言って、今後の身の立て方を話した。


ロッカもサンティ同様に

「そういうのは商人ギルドに卸して各地で売って貰えば良いんじゃないのか?旅は危ないんだぞ…」

と、渋い顔をした。


なのでやはり同様にーー

ゴミ箱の串や木の枝から商品を生み出せるのだから材料は現地調達できる事、身軽に旅を出来るので魔物や盗賊に遭遇しても逃げ切れる可能性が高い事などを説明した。


「…命は、一つしかないんだぞ…」

とロッカが寂しそうに呟くが…


その気持ちが判るくらいには

(この世界では命の価値が軽い…)

という事を理解してはいる。


寿命が短く

脅威も多く

誰も彼もが短絡的で刹那主義的。


死が身近な世界だ…。



日本はそれとは真逆で

寿命が長く

大勢の人達が短気を自戒していた。


まぁ勿論、何にでも限界はある。


生き延びるために短気を自戒して

悪を見て見ぬフリをして

欺瞞に耽って疲れきった魂は

「欺瞞のない、人間心理が総体的にシンプルな世界」

へと転生したいと望むのだろう…。


俺は

「命大事に」

という情緒的感情を理解してる。


だけどそれ以上に

「正気を大事に、正道を大事に」

と思ってしまう…。



「…心配してくれて、有り難うな。だけどこの町に引きこもって暮らすには俺は多分世間知らず過ぎるんだと思う。

未成年ならまだしも、もう15歳だし。この町以外の場所にも行ってみたいんだよ」


俺がそう言うとロッカは頷いた。


心配してくれてる人達に心配してくれて有り難うとお礼を言うべきなのは、それが安心させる言葉でもあるからだ。


「ウザったく感じられる制限や抑制の中にある善意を汲み取れるだけの感受性は持ってる」

と態度と言葉で示す事自体が相手を安心させてやれるのだ。


世の中の善意を汲み取れない

世の中の悪意に気付かない

そんな人間が独り立ちしても犬死にするだけだ。


「俺は大丈夫だ」

と言葉にする代わりに

「心配してくれて有り難う」

と言葉にする。


そんなやり取りが

そんな日常が

今の俺には愛しい…。


前世の自分を思い出してしまった俺だからこそ


世の中の善意を汲み取れず

世の中の悪意に気付かず

独り立ちが許されずに保護され続けた俺だからこそ


認めてくれなかった家族を逆恨みし続けた俺だからこそ

感謝するべき人に感謝して独り立ちしていける環境が愛しい。


「…本当に有り難う…」

俺がそう言うとロッカは顔を逸らした。


目尻に涙が光ってる気がしたが…気のせいだと思う事にする…。



********************



この町ヴァロブラは街道沿いの町。


街道を南に行くと港町マンナだが

街道を北に行くとを十字路になっている。


近辺の町々を巡回するルートとして

街道を北に進み十字路を左折して西に進み

次いで南下して海岸沿いに出て

海岸沿いを東へ進んでマンナを過ぎながら

次いで北上し左折。

街道の十字路を南下してヴァロブラへ戻る。

というルートを辿るつもりだ。


小規模の行商隊が辿るルートでもあるので道は整備されてる。


魔道具で姿を消したまま街道をマウンテンバイクで進めば盗賊に襲われる心配はない。


聴覚の鋭い魔物の耳は誤魔化せないだろうが…

【廃品回収】スキルは生きた魔物でさえ「回収」で殺せるのだ。


ログハウスに立て篭もった状態で「回収射程圏内」に入って来た魔物を「回収」で殺せば問題ない。


早目に魔物の接近に気づいて

早目にログハウスに立て篭もる必要はあるが…

気配察知スキルは優秀だ。


初めのうちは慣れないし、戸惑う事もあるだろうが

慣れれば別に問題なく旅が出来る気がする。


ロッカとサンティに限らず

宿屋の主人やギルドの受付や

孤児院の職員など

世話になった人達には出立前にチリ紙を配った。



「2、3ヶ月もすれば戻って来るけど。…行ってきます」

と挨拶して、普通に歩いて門を出た。


人の姿が見えなくなってから魔道具で姿を消してマウンテンバイクを取り出した。


「さて。行くか…」


不謹慎だがワクワクする。


この世界は地球とは違う。

ちゃんと俺を受け入れてくれてる。

俺が自分自身の可能性を試したいと思う気持ちを尊重してくれてる。


自分に何が出来るのか未知数で

だからこそワクワクする。


前世で俺は何もできなかったが

その分、この世界では自分にやれる事をやりたい。


「人間なんて、衣食住が満たされて、他人から親切にされる、他人に親切にできるっていう、たったその程度の事で幸せだと感じられてしまえるくらい、本当は単純で素直な生き物なんだよ」


という「人生の真理」が「本当に人生の真理としてそのまま現実化する社会」を「俺自身の手で現実創造していく」ために…


ちゃんと足掻いてやる…。


そう決意しながら俺は自転車のペダルに足をかけた…。




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