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「痒いところに手が届かない」のが当たり前

挿絵(By みてみん)


(この町に居る間はちゃんと宿屋に泊まるようにしよう…)

と思うと共に


「別の町に行った時には宿屋を探す必要がない」

のだという事も思った。


とりあえず、この町の野糞をあらかた回収し終えたら、しばらくはこの町に用はない。

理想としては複数の町を渡り歩いて野糞を回収しがてらチリ紙を売り歩き、2、3ヶ月してまた回ってくるとか、そういうサイクルでやっていきたい所だ。


(チリ紙も2、3ヶ月分を古道具屋に預けておいて、次に回って来た時に売れた分だけカネを受け取るって形にしたいところだな…)

早速交渉が必要になるが。


(…まぁ頑張って野糞を回収しておくさ)

何せチリ紙はリサイクルポイントで買えるカタログにも載っている。


木の枝を拾ってチリ紙に交換するより余程効率が良い。

何せ野糞のリサイクルポイントは高い。


カネは売れた分を後からもらうようにするのだから古道具屋には全く損はない。

単に「場所を貸してもらう」ようなものだ。

道具屋は俺へ払った金額に二割増しの金額で客に売ってる。


売れない物を置いて場所を取る訳でもなく、仕入れに代金が掛かる訳でもないのなら、普通に了承してくれると思う。


今日午前中に野糞を回収しまくって午後からはリサイクルポイントで古道具屋へ卸す2、3ヶ月分のチリ紙を買って、古道具屋へ交渉に行けば良い。

「売れる」という事は分かった筈なのだから…。



「成る程。2、3ヶ月分をコッチで保管しておいて、売れた分のカネを後からお前さんに払う。そういうやり方にしたいって訳かい。

ウチはそれで構わないが、それだとお前さんは2、3ヶ月後になってやっと纏まったカネを受け取れるが、それまでカネが得られなくなる。

その間、どうやって身を立てる気なんだ?」


「元々俺は冒険者だからな。スキルでチリ紙を出せる特技が出来たのは副業と思う事にするよ。

どうせ武器や防具を買う時にはまとまったカネが要るんだ。ソッチで得られるカネはそういった装備関連に回すとして、日々を暮らす日銭は冒険者稼業で稼ぐさ」


「そうか。それなら良いが。…だがお前さんが冒険者稼業の方で何かあれば紙を仕入れられなくなるな。…出来るだけ危険な仕事はせずにおいてくれよ」


「心配してくれてありがとうございます」


「ああ。互いに頑張って稼いで身を立てていこうな」


そう言われて思わず笑顔になった。

人間、商売上の利害の一致があると、人間ちゃんと互いを思いやれるものだ。


と言っても、古道具屋のオヤジは元々俺達孤児にとって良い人だった。

オヤジ自身も孤児で冒険者としてそこそこ稼いで古道具屋を始める資金を溜めたという話だ。


何の価値も示せずに、何の利害の一致も示せない状態では、ずっと孤独だと感じていたが…

真っ当に商売して、真っ当に生きれる社会の輪に組み込まれる事は案外気持ちの良いものだと思った。

こういう社会順応の心地良さは多分、古道具屋のオヤジもまた体験してきたものなのだろう。


緩い損得勘定の絆で繋がった人間関係。

無償の愛情みたいな胡散臭いものとは無縁で、だからこそドライで心地良い。

そして心地良いからこそ、この環境を、この町を護りたいという気持ちを持てる。


まぁ、だが、善良な人達にも邪心はあるので注意は必要ではある。

人を見る目が無い人達は必然的に邪悪の片棒を担がされるのだ。



パン屋のオバサンなんかも基本的に善良な良い人ではあるのだが…


非モテ男がいつまでも独身で居ると

「カノジョの一人もできないのかい」

とか無神経な事を平気で言ったりしている。

(俺はまだその手のモラハラをされる年齢ではないけど、いずれ言われるようになる)


カノジョがいる、嫁がいる

そういうリア充を「一人前」と見做し


カノジョがいない、嫁がいない

そういう非リア充を「未熟者」と見做す価値観だ。


当人のワガママや人格の破綻のせいでカノジョができない結婚もできないのなら確かに非モテは未熟者と同義にあたるのだろうが…


勝手に偏見が作り出されて一方的に疎外されて非モテ状態に置かれている者に対して、未熟者扱いでマウント取りながら「精神的に成長しろ」とモラハラまで振りかけるのは…

流石にいかがなものかと思う。


前世では弟が職場などでやられまくってたモラハラだ。


俺みたいな兄がいる事でイジメられ続けて、当然、女からも避けられていたのに、その上、周りの差別による独り身を当人のせいにされていたのだ。

アニメオタクになって二次元女子にしか興味を持てなくなったのも仕方ないと今更ながら解る…。


(人ってなんで貧乏な嫌われ者を差別しておいて、被差別環境による対人不具合の責任まで被差別者に背負わせる物の見方をし続けてしまえるんだろうな…)

と、本当に納得がいかない。


地球世界の中で日本だけがおかしかったのか、世界全体がおかしかったのか、俺には分からない。


知的障害もあり積極的に情報を仕入れていたりもしていなかったので、死後に正気になって自分の人生を分析してみても、あの世界に関する情報は不足していた。


あの世界に居た頃の俺はただただ

「溺愛されたい」

と切望していたのだ。


「自分がどんなダメ人間でも自分という存在を肯定して欲しい」

「自分がどんな鬼畜でも自分を護り庇って欲しい」と。


そんな依怙贔屓・猫可愛がり環境を身勝手に欲していた。


だけど普通に生きてたら

自分の親切も

他人の親切も

「痒いところに手が届かない」

のが当たり前。


「痒いところに手が届く」

ような甘やかしを受けられるとしたら

「そこには罠がある」

可能性が高い。


他人から恨まれても仕方ない悪人達が家族・子供を大事にするのは

「自分に向けられている恨み・呪いの矛先を家族・子供へ誘導する」

呪詛転嫁のような目的が潜在的にある。


「呪いを身代わりに背負わされる代わりに悪人から猫可愛がりされる」

そのカラクリが見えずに

「ただただ溺愛される対人環境切望して無いものねだりし続ける」

ような人間はバカの極みだ。


俺はその類の救いようがないバカだった。

本当に何も分かってなかった。


正攻法で愛されたいなら

「愛する値打ちのある人間になろう」

「先ずは自分で自分を愛せるような自分自身であろう」

「自分以外の人を愛そう」

と自分を変える努力をするべきだった。


客観的に見ても

「愛せるような要素が皆無の人間」

だったくせに…

愛されない事に腹を立てていた。


「俺を愛さない社会など要らない」

「俺を愛さないこんな国要らない」

と激しく思い込んでいた。


前世の親達の

「痒いところに手が届かない」

淡白な愛情が

「社会的裁量権の無さゆえ」

「罪無きゆえ(呪いを転嫁する必要がないから)」

だと納得できた時にやっと

「余裕のない人達に溺愛して欲しいと望む事の見当違い」

を理解できた…。


前世の家族との間には

粘着な愛情などなく

粘着なしがらみもない。

淡白な愛情と

厳しさがあった。


「どうして愛してくれないんだ!」

という憎悪を拗らせて生きて死に


「愛し合いたかった」

という叶わなかった想いが残った。


愚かだった自分を自覚できるようになった観点。

魂の知恵。

人生を終えて、それが培われた。


俺の意識がその状態にまで引き上げられた。


その意識次元上昇現象自体が

「愛情があったからこそのものだ」

と今では理解できている。


「一生ずっとアンタの味方で居たいから、犯罪者にはならないで欲しい」

と母が弟に言った事がある言葉を思い出した。

それは俺にも向けられ続けていた想いだ。


家族と味方で居続けたいから

悪い事をしない

悪い事をさせない


それは猫可愛がりも溺愛もない

「本物の」

「人間の」

「人間に対する愛情」。


それが与えられた事に気が付いたからーー


俺はもう二度と

「痒いところに手が届かない愛情に物足りなさを覚えて道を踏み誤る」

ような事をせずに済む。


(…母ちゃん、親父どん、恭君。今なら俺は、お前らの気持ちが分かる気がするよ。自分以外の人間の気持ちが分かる気がするよ。お前らのお陰で…)


そう想う想いが俺の中にある限りーー


俺はもう二度と

求める値打ちのない粘着で低次元な依怙贔屓を求めて狂う事はない。

道を踏み誤っている連中を美化したり羨やんだりする事もない。


俺はーー

俺の魂はーー


人間の皮をかぶった獣だった状態から

「本物の人間」へと非可逆的に変化してしまったのだから…。




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