【廃品回収】
儀式も終盤に入り、子供達が一人一人名を呼ばれて司祭の前まで進み順番に祝福を受ける。
首を垂れた姿勢でシャラシャラと笏丈に付いた鈴が頭上で鳴らされる。
「清め」
なのだと何故か判った。
次いでいよいよ聖餅が一口大に切り分けられ、これまた一人一人、口へ押し込まれる。
それをよく噛んで飲み込むと砂糖とは違う甘みを感じた。
(コメをよく噛んで食べた時にほんのり甘く感じてたのと似てる…)
と思った。
前世でいう米粉パンのようなものを連想してしまった。
因みにこの世界は地球でいうところの中世ヨーロッパ風。
水分の無いガチガチの固いパンを食べる食生活なので
聖餅はかなり特殊な美味い食べ物だと言える。
(本当に聖杯の中に湧くものなのかな…)
俺がこの世界の不思議現象について考えている間も
粛々と儀式は進み
司祭は再び詩篇を詠唱していた。
そのうちに聖杯が内側から光を発して、聖堂内に光が溢れた。
どういうカラクリなのか判らないが、この世界では
「そういうもの」
という解釈で皆が納得する。
(こんなんで本当に「スキル」なんて宿るのかな?)
と思わないでもないが…
こういった疑い深さはおそらく地球世界で
「不思議な現象など全て気のせい」
「全て科学法則で説明がつく現象ばかり」
と散々刷り込まれたからだと思う。
あの世界は物理法則が絶対化されていて
人は生まれ落ちた環境を絶対化して生きるしかなかった。
しかもあの世界では
「弱者にはゴーレム効果を振りかける。弱者が無能化するように」
「強者にはピグマリオン効果を振りかける。強者が有能化するように」
といった
「能力面においても格差を拡大させる取り組み」
が世界ぐるみで絶賛推進されていたことが
今更ながら判る…。
(…この世界ではどうなんだろう?やっぱり弱者には屑スキルを与えて強者には当たりスキルを与えるような鬼畜仕様なのか?…あのクソ世界みたいに…)
俺がそう思っているとーー
司祭の助手が魔道具らしきものを運んできて
「スキルの確認をします」
と告げた。
一人一人また順番に名前を呼ばれて魔道具の前までゆき
「腕力向上(微)」
「視力向上(微)」
「聴覚向上(微)」
「嗅覚向上(微)」
「脚力向上(微)」
「暗視力向上(微)」
「自己回復力向上(微)」
などなど、宿ったスキルを読み上げられていた。
魔道具の画面らしき所にスキル名が浮かぶ。
魔道具の性質次第では「(微)」の付く能力向上は全て
「一部能力向上(微)」という表示になるらしい。
(不親切極まりないと思う)
要するに、この国の教会は
「近隣国と比較すると」
これでも国民に対して親切だという事だ。
俺の前に並んでいたヤツが終わって、俺の番が来た。
恐る恐る魔道具の前に行くと…
「廃品回収」
と言われた。
?????
ちょっと意味が分からない…。
廃品…つまりゴミ。
それを回収するスキル…。
それってつまりは
「ゴミでも漁ってろや!ケケケ」
という悪意満々のスキルなんじゃ…
俺が茫然とすると
司祭も助手も気の毒そうな視線を向けた。
だが俺の次のヤツなんかは
「大食い」
と言われたし…
授与されるスキルには
「意味の分からない変なスキル」
もあるという事だ。
殆どの者が何かしらの身体能力の向上に(微)と付いた微妙な能力向上のようなのだが…
「脱毛」
とか出た時には流石に唖然とした…。
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無事にスキルを獲得できたのは良いのだが…
【廃品回収】で今後の生活をどうするべきか、ちょっと悩ましい。
何せ俺は孤児。
孤児院は
「最長でも15歳の前日までしか子供を保護しない」
という事もあり、大抵の子供は12歳で孤児院を出て、冒険者登録して冒険者として身を立てている。
勿論、俺も12歳の時から冒険者稼業で暮らしてきた。
と言っても未成年の低ランク冒険者が受けられる仕事など低賃金の雑用。
食事も出ない素泊まり用の安宿で寝泊まりして一日一食食べるだけの生活で三年間凌いできた。
15歳で受けられるスキル授与式は社会の底辺で生きる者にとって
「一世一代のチャンス」。
得られるスキル次第で
「適性のある職種へ転職」
して工房や道場へ弟子入りする事が可能になる。
聖堂を出る時に渡される
「スキル獲得証明書」
がスキル次第では然るべき職業路線への通行手形代わりになるという訳だ。
その点、【廃品回収】というスキルは微妙…。
要は「ゴミ回収・ゴミ漁りが適性職業だ」と言われてるようなものだ。
(そう言えば、前世の廃品回収は主に「チリ紙交換」とか呼ばれてて、古新聞や古着をロープで縛って纏めて持って行くとトイレットペーパーをくれてたんだったよな…)
前世の俺は自閉症者でもあり、時折大絶叫して暴れ回っていたが…
普段は奇行を繰り返しつつ大人しく過ごしていた。
トイレのトイレットペーパーを千切っては窓のサッシレールに詰め、千切っては詰め、の繰り返し…。
窓のサッシレールに紙類をギチギチに詰めて窓の開け閉めを妨げる事が何故か日々の日課、ほぼ生き甲斐のようなものになっていたのだ。
毎日大量にトイレットペーパーを消費していたので…
前世の俺が一生の間でどれだけの量のトイレットペーパーを窓のサッシレールに詰めて無駄にゴミにしてしまったのか…
考えると恐ろしいものがある。
(…我ながら資源の無駄使いの激しい不毛な障害者だった…。俺があの社会で健常者として生きてたら、普通にそんな障害者、殺してたんじゃないのか?)
と思わないでもない。
この世界は誰も偽善に耽らない。
この世界の障害者は普通に切り捨て対象であり
普通に虐待され
普通に短命だ。
社会は正直で残酷。
その分、潔い。
その分、紛らわしくない。
誰もが分かりやすい素朴な人間だ。
(ーーともかく、実入りの良い仕事へ転職できそうなスキルでも無かったし、今後の身の振り方をちゃんと真剣に考えておかないとな…)
と思いながら素泊まり用の安宿へトボトボ帰る事にした…。
【予定】
全58話完結予定です。