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「要らないもの」

挿絵(By みてみん)


裏通りの野糞回収。

凄まじい量の収穫だ。


俺の衛生観念がシッカリしてたら

ショック状態になりそうな不潔極まる環境だと思う。


この国は日本と違って雨が少なく空気が慢性的に乾燥してる。

野糞もいつまでもベチャベチャしてない。


あと色々と感覚が鈍感。

人間皆で全員一斉に衛生観念が麻痺してる。


俺の場合は前世でも衛生観念が緩かったので

尻がカユイ時には普通に素手で尻を掻いて

尻を掻いた手で普通に手掴みで菓子を食ってた。


しょっちゅう下痢してたけど…

「自分の行為と自分の体調を関連付けて考える」

という相関性把握の思考回路自体が欠けてた。


一生を通じて知的障害者だった俺は、自分自身の不衛生さと自分自身の下痢症状との相関性を否定していた。


アホだなぁ…

と、しみじみ思うが。

こういう不衛生極まる異世界を生き抜くのには丁度いいアホさだったと今なら思う。


今にして思うと前世の俺の家族は色々と価値観が俗世離れしてたと思う。

延々と俺の尻を拭き続けるウチに俺の両親は(特に母は)糞という排泄物を「物質」として見るようになっていた。


「糞=汚い」

という条件反射的な俗世感覚ではなく

「体内通過した摂取物の残り滓」

という物の見方。


俺がトイレットペーパーを無駄にし続ける行為も

「木は生え続ける。紙の材料は使っても使っても生み出される」

という考え方をしていた。


「我々人間が消費・浪費しているものは本当は何なのか?」

という問いに

「我々人間が消費・浪費しているものは可逆性であり可能性である」

と回答するのが岩田家流だった。


俺は重度の知的障害者であるだけでなく

先天的な自閉症でもあったので…


しょっちゅう意識が盲目的衝動に呑まれて

突然大絶叫して暴れ出したり

自分の頭を床や壁に打ちつけたり

自分で自分の頭を叩いたりしていた。


自閉症児の親は鬱になったり自殺しやすいというが…


「リラックスしている時間に急に絶叫されて自傷行為を見せつけられる」

というショッキングな体験が繰り返されることで


「心から安らぐ、心から安心するという精神安定基盤が壊される」

という事なのかも知れない。


自閉症児の親が

身内からも切り捨てられ

世間からも差別されながら

自殺もせず

家庭内を地獄に変えるでもなく

淡々と生き抜こうとすれば…

どうしても俗世離れした価値観になっていくのだと思う。


母も父も

「毒への耐性を付けるために敢えて毒を微量摂取しては毒出しを繰り返して、毒出し効率を上げようとする人もいるんだし…

凛君はバイ菌だらけの手で物を食べて下痢して、排泄効率を上げる訓練を自覚なくやってるのかも知れない…」

とか深読みしてくれてたっぽいのだ…。


(単に俺がアホだっただけなのだが…)


俺から見て前世の俺の家族は

「善い感じに壊れてた」

と思う。


俺が不衛生な異世界へ転生するかも知れないと知ってて

前世の俺の不衛生極まるアホっぷりを許容してたのだとしたら…

「すげえな。予言者か?」

と褒め称えるしかない。


母は特に

「なんでそんな事が分かるんだ」

と怖くなるくらいに事象を先読みしたような事を言う人だった。


家族との会話の中で

「色白で妙に目が真っ黒な人は生霊を飛ばしてくる」

とか

「猿っぽい元ヤンキーみたいなヤツに関わると、ソイツがこっちに向けた偏見のイメージが自分に貼り付いてくる」

とかシレッと変な事を言う霊感ババアだった。


そんな感じでちょっと普通と違う壊れ方をしてた家族だった。


お陰で俺は

「野糞まみれの裏通りを前世の清潔社会の記憶を持ったまま普通に闊歩できてしまう」

のである。


前世でアホのろくでなしだったからこそ

前世の記憶があっても

不潔で文明未発達な社会にカルチャーショックを受けずに済むのだという…。


とにかく

「犬も歩けば棒に当たる」

ではなく

「3歩あるけば野糞に当たる」

というノリの野糞量なのだ。


(…町長は何で冒険者ギルドに「通りの清掃」の依頼を出さないんだろうな…)

と、ちょっと心配になってしまった。


考えてみれば、数年前までは、表通りも裏通りも、たまに低ランク冒険者達が清掃依頼を受けてて、野糞を回収してた気がする…。


ちょうど俺が冒険者になった頃くらいから「通りの清掃」が依頼される事もなくなり、「公衆便所の清掃」依頼も依頼回数が減って、報酬額も減ったような…。


三年くらい前から、やたら公共の福祉に投入されてた公金の額が減った、という事なのか…。

(税金は減ってない筈なのにな!)


ずっとこの町で暮らしてて…

それでいて施政に関して全く目が向いて無かった。



「何を言っても無駄だと思い知らされたし、事実指摘し改善を求める事で命の危険すら感じたから、施政に口出しする事も、施政に着目する事もやめた」

という状態と


「初めから『施政に口出しする事も、施政に着目する事も、してはならない』という刷り込みがある」

という状態は別物だ…。


この町ーー

実は闇が深いのかも知れない…。


とは思うものの

(…俺に出来ることはひたすら野糞を回収してリサイクルポイントを貯める事だよな…)

とも思う。


不燃ゴミの山に埋もれていた首無し死体…。

不燃ゴミを埋め立てる番人が騒ぎもせず事件にもならないのなら、この町ではこれまでもずっと誰か殺されて密かに死体も処分されてたって事だ。


異世界版ゴ⚪︎サムシティーかよ?

って感じだが…


多分

「人の命が軽い社会」

という現実は、この世界の通常モードなのだろう…。


地球世界でも

「行方不明者」

の大半が

「死体の見つからない殺人事件被害者」

だったし。


被害者達はホント

「報われないよな…」

と思う。


だが、俺はダークヒーローさながらに悪に立ち向かう気はない。


被害者側が

「自分達が何に巻き込まれて、何によって殺されたのか」

という部分で真実を知る気がないなら


「求められてもいない助けを施すのはリスクが高い」

という不条理が降りかかるだろうと思うのだ。


そんなの嫌だし。

冗談じゃない。


ダークヒーローの運命は

「救おうとした人達から悪だと勘違いされて背中から刺される」

ような目に遭うのが定番だ。


悪に苦しめられ搾取されてた筈の人達が

悪に尻尾を振って

悪に敵対するヒーローを裏切る。


「因果応報だけが、狂った人間を、狂った世界を、正気に戻して、救うことができるんだ」

と、そう思う。


物理的には俺は野糞拾いして

町の清潔化に貢献してるが


町の人達に対しても

この世界の人達全般に対しても

無条件の貢献や甘やかしをする気はない。


俺という存在は地球世界においては

「要らないもの」

だった。


「要らないもの」

以外の何者にもなれなかった…。


俺を受け入れてくれたこの世界は俺を再び

「要らないもの」

として更に他の世界へ捨てられるような事もない筈。


まぁ、俺という存在がまたゴミとして捨てられたところで…


こうやってゴミを宝に変えるスキルを持って

しぶとく生きてしまうんだがな!


ーーゴミのように野糞のように、あの世界から捨てられた俺…。


そんな俺が

野糞拾って

町の清潔化に貢献して

一体何やってるんだろうな…。


しかも、昼飯食ってからの

午後からの裏通りでの野糞回収量は凄まじい…。


だけど

(こういう因果応報もあるんだな…)

と感じる。


自分の尻も自分で拭けなかった俺が他人様の排泄した野糞を回収して回る。

大量のトイレットペーパーを無駄にゴミにして捨ててた俺がスキルで紙を作り出す。

前世での不可抗力な生き方と、今世のスキルの仕様との間に全く関連が無いとは思えない。


社会貢献も公共奉仕もした事がなかった

(というかできなかった)

俺が、この世界では野糞回収して社会貢献している。


(この世界の神様の思惑は深い…)


俺は黙々とスキル画面を操作して作業したが

日が暮れる頃になっても町の西側の裏通りの野糞を全部は回収しきれなかった。


それでも真面目に回収し続けた事で随分と綺麗になった…。


野糞回収数。

午前中23個。

午後298個。


カセットコンロ等を景品交換して29ポイントまで減ったリサイクルポイントが3009まで増えた…。




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