鑑定スキル
不燃ゴミの山の中に首無し死体が混ざってると判って、俺が真っ先に可能性として思い浮かべたのは
「不燃ゴミ埋め立てを任されてる番人が殺人鬼、もしくは死体処理業を副業で兼ねてる」
という事だった。
番人がマトモな普通の人なら、自分が処理すべきゴミの中に人間の首無し死体が紛れ込んでいたら、絶対腰を抜かして大騒ぎ。
町全体を恐怖に陥れる大事件となるだろう。
だが冷静に考えてみよう。
不燃ゴミの山に死体が隠される事件が
「今回だけ、たまたま起きた」
と思うのは、希望的観測に過ぎる。
たまたま事件が起きて、それを部外者である筈の俺が知ってしまうというのは…
余りにも嘘っぽくてドラマチック過ぎる。
(和製サスペンスドラマじゃないんだ。この世界は)
普通に考えてーー
「不燃ゴミの山に死体が隠される事は慢性的に、番人の認知する環境下で何度も起きてきてる」
と考える方が自然だ。
今までにも何度もこうやって身元不明にされた首無し死体が不燃ゴミと一緒に山積みにされ、番人によって埋め立てられてきたのだろう…。
今回は俺がたまたま、その事実を発見した。
不燃ゴミ埋め立ての番人。
つまりは公務員の一人が犯罪者なのだから驚きである。
だがーー
一番の発見。
一番の驚きは
「人間の首無し死体の心臓→魔石orスキル」
という交換品選択肢だ…。
これが間違いとかじゃなければ
「人間の心臓からも魔石が採れる」
という事になる。
この事実を悪人が知ったら墓場に埋葬された死体という死体から心臓が抜き取られる異常事態が引き起こされるかも知れない…。
しかもだ。
「魔石orスキル」
という選択肢もある。
つまりは俺に至っては
「他人のスキルをゲットできる」
わけである…。
これは流石に…
(コワイ…)
と思ってしまった…。
だけど恐怖以上に好奇心もある…。
人間の首無し死体の心臓→魔石orスキル
空魔石→魔石or防火タイル
破損した結界魔道具→結界魔道具
の3点のみを「回収・交換」する事にする。
スキル
魔石
結界魔道具
それだけ得られれば上等だ。
他の品々はそのままにしておいた方が良さそうだ…。
死体も心臓だけが抜けてスキルに交換されても、おそらく外見は元より血塗れだろうから、番人が埋め立てにきた時に見ても違いには気付かないと思う。
(…ドキドキする…。自分で自分の心臓の音が分かるくらい心臓が暴れるって状況、作り話の中だけじゃなくって、本当にあるんだな…)
と思いながら
スキル
魔石
結界魔道具
といった交換品を得た…。
は良いが…
(…そう言えば、なんていう名前のどんなスキルなんだろう?)
という点での情報までは出なかった…。
スキルの起動形式によってはスキル名が分からなくても問題ないものもある。
身体能力がちょっとだけ上昇するタイプの常態起動型スキルだとスキル獲得した瞬間からスキルが起動しっぱなしになる。
選択起動型のスキルでも適正化選択の起動形式だと必要時に勝手に起動してくれるので、これまたスキル名を知らなくても問題ない。
だが選択起動型の任意選択起動形式のスキルだと、スキル名を唱えて起動させる事になるので、これはスキル名が分からないとせっかくゲットしたスキルを一生使えないまま終わる可能性もある…。
「スキル」として出てきた交換品は薄緑色の光の玉で、それがスーッと俺の胸のところに吸い込まれたので、ちゃんとゲットできたのだと思う。
(…早まった事をしたかな…)
と一瞬不安になった。
もしかしたら新しく他人のスキルを取り込んだことで【廃品回収】スキルが使えなくなったりしたかも知れない…。
不明な点が多過ぎて、そんな嫌な想像が脳裏をよぎる…。
(ともかく【廃品回収】スキルを再起動してみよう)
そう思って
「【廃品回収】」
と唱えるとーー
ブゥゥゥンと蜂の羽音のような音と共にこれまで通りに透明タブレットが目の前に現れてくれた。
これまでと違ったのは起動後の初期画面に
「回収対象選択」
「選択項目一覧表示」
「範囲指定表示」
の他に
「鑑定スキル」
と項目が増えている事だけだった…。
「………」
マジマジと画面を見詰めてしまった…。
何だろう…。
ノートPCにソフトウェアをインストールしてデスクトップ上にアイコンが増えたような、そんな感じの印象が思い浮かんだ…。
スキルというのはネット端末にインストールするアプリのようなモノ…。
そういう事なのかも知れない…。
思わず
「鑑定スキル」
のボタンをタップ。
すると
「鑑定スキルの起動形式の設定」
「常態起動型/選択起動型」
と選択肢が出た。
(えっ?起動形式も選べるの?)
と驚きつつ
「常態起動型」
を選択。
「保存しますか?」
「YES/NO」
という文字が出た。
設定を保存するという意味だろうと思い
「YES」
を選択すると、元の初期画面へ画面転換した。
「…何も変わらない…よな?」
視界に入る物全てに鑑定情報表示タブレットが付随する、という事でも無さそうだ…。
「でも、常態起動型なんだよな?これでも…」
(う〜ん…)
思わず首を傾げてしまう。
(ともかく、魔石が手に入った事だし、給水魔道具と結界魔道具に魔石をセットしてみて、ちゃんと魔道具が動くか動作確認してみよう…)
と思い、ストレージから給水魔道具を出そうと透明タブレットの画面に手を触れた途端に
「【廃品回収】スキル専用タブレット端末:所有者:イリシオ」
と別ウィンドウの透明画面が出現した。
「………」
(もしや…)
と思い、護身用に身に付けた短剣に触れてみると
「短剣:ランクF武器:所有者:イリシオ」
と出た。
常態起動形式の鑑定は触れる事で情報が出るようだ。
これはちょっとウザいかも知れない…。
早速、設定を
「選択起動型」
に切り替えた。
これだと多分
「【鑑定】」
とスキル名を口にする事で起動する筈。
案の定、俺の視線の先にある結界魔道具の情報が出た。
「結界魔道具:ランクC魔道具:動力OFF:所有者:イリシオ」
そう書かれた表示を目にしながら
(触れなくても、ジッと見詰めながら「鑑定」と唱えるだけで情報が出るなら、選択起動型の方が絶対使いやすいスキルだよな…)
と思った。
と同時に
(後ろ暗い所のある連中に対して「鑑定」と唱えて鑑定すると、それはそれでヤバい事になりそうな気はするが…)
と不安も感じた。
首無し死体の人が何故死体となって不燃ゴミの山に紛れ込まされていたのか…
何となく事情が分かってしまったような気もする…。
(…そう言えば、リサイクルで得られる景品は何故か日本語で商品名が書かれてたし…。「鑑定」スキルも「俺のモノ」になった以上、日本語で[鑑定]って唱えても起動するんじゃないかな?)
と、仄かな期待を感じて
「[鑑定]」
と日本語で口にすると
「[結界魔道具:ランクC魔道具:動力OFF:所有者:イリシオ]」
と日本語で情報が出た。
どうやらスキル名を唱える起動形式は
「情報表示する文字の言語指定」
を兼ねているようだ。
(うん。今後、鑑定スキルは日本語で[鑑定]と唱えて起動させよう。コレだと後ろ暗い連中に聴かれても相手を刺激する事には繋がらない筈…)
そう納得して、給水魔道具と結界魔道具の動作確認を行う事にした…。