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ストライキ?

挿絵(By みてみん)


ログハウスは暗くなってから出すので、日が暮れるまでは時間がある。


(今日は昨日と別の焼却炉を回ってみるか…)

と思った。


我らが町ヴァロブラは街道沿いにある。

港町マンナから北上した場所。


人口が少ない世界ではそこそこの規模の町だと言えるのかも知れない。

過疎村とかだと住人が10数人という事も珍しくない世界。


ヴァロブラはざっと見て1200人以上の町民が暮らしている他、近隣の村から野菜・果物、特産品を売りにやって来る人達が滞在する。

近くに低ランクダンジョンがあるので近隣の町や村から低ランク冒険者が集まってダンジョン探索の拠点にしてもいる。

街道をゆく馬車の馬を休ませ、人間の方も休憩がてら食事を摂るのに丁度いい町なので商人ギルドも繁盛しているし、結構発展してる町だと思う。


町の東西南北に焼却炉がある。


南側にある焼却炉のみがチェック済み。

なので今日は先ず西側の焼却炉を見て、北、東と周りたい。


沢山のゴミがあると仕分けに時間が取られるが、番人がまめに燃やしていると、そこまで溜まってはいない筈。


ともかく行ってみるに限る。


12歳で孤児院を出て三年間も冒険者として雑用仕事をしてきたので、戦闘力は無いものの歩き回る体力だけはある。

周るだけなら複数のゴミ集積所を周っても全然体力的に問題はないのだ。


足取りも軽く早足で西焼却炉前のゴミ集積所まで向かうと…。

結構な量のゴミが山積みになっている。


(…今まで気にした事も無かったけど。ゴミを燃やす焼却炉の番人は真面目に仕事をするタイプの人間じゃない、という事なのだろう…)

と思った。


それぞれの焼却炉にそれぞれ番人がいる筈なので、南と西が示し合わせたかのように怠け者だという事が気にはなるが…。


(俺からすれば有り難い…)


早速、回収。

と言っても、この場で交換品を選ぶのは時間的に勿体ない。


ストレージへ保存して、次のゴミ集積所へと向かう。


北焼却炉のゴミ集積所も西ほどではないがゴミが溜まっていた。

それもストレージ保存。


次いで東側へ向かい、東焼却炉のゴミ集積所のゴミも回収。

ここでも山積みのゴミをゲット。


それにしてもニオイがキツイ。



(こんなにゴミを溜めて苦情が出ないものなのか?)

と気にはなるが…


もしかしたら近隣住民へ嫌がらせするためにわざとゴミを溜めて虫が湧くようにしてる可能性もあると思う。

クズな人間なんて何処からでも湧くものだ…。



地球世界にもクズな人間が少なからずいた。


わざと嫌がらせしておいて

ウッカリしてたと嘘をつき

何度でも嫌がらせを繰り返し

嫌悪感と悪意を表明し

コッソリ溜飲を下げるような陰湿な人間が…。


俺が障害者だったので俺の家は障害者世帯に該当していたが…

陰湿な悪意表明は常に降りかかっていた。


近所でも他の障害者世帯には様々な特別扱い優遇措置が取られていたが、俺の家は何故かそういった優遇から外されていた。


団地の自治会の陰湿さは露骨だったのだ。


他の障害者世帯は役員免除されていたし、回覧板を回す順番もすぐ隣へ回す順番が組まれていたのに…

俺の家だけそういった役員免除は適用されず、回覧板を回す順番も一番最後にされて、わざわざその年度の自治員宅まで回覧板を返しに行かなければならないようにされていた。


我が家の車を止める駐車場の前に違法駐車する車があっても誰も注意しない。

皆で容認していて野放し。


嫌われ者が迷惑させられる分には

「他人の不幸は蜜の味」

と思って皆でほくそ笑みながら楽しむ

というのが、あの団地の伝統だった。


玄関ドアの新聞受け取りポストには、何故か虫が入れられていた事がある。

新聞受け取りポストの蓋がカタンと開けられる音がしてすぐにスプレーか何かをシューッと噴射したような音がした事もある。


ガスメーターボックスに自転車の空気入れを入れておいたら盗まれる。

その代わりのように、うちのガスメーターボックスは工事業者が使用してた角材が何故か詰め込まれ、公共用物置、もしくは皆様のゴミ置き場、のような状態にされていた。


母が角材を団地内道路の向こう側の広場のすみへ移動させると、すぐに管理人が押しかけて来て

「勝手に動かさないでくれ」

と苦情を言いに来た。


「皆様のためのゴミ置き場」

という状態を我慢せずにおくと

「謝罪してもらえるのではなく何故か逆に謝罪を要求される」

のだ。

意味が分からない程の堂々たる差別正当化。


玄関ドアの脇に濡れた傘を立てかけておけば、盗まれるか、もしくは小便をかけられるという事態につながった。


ピンポンダッシュされていた時期にーー

母が犯人を追いかけて現行犯で捕まえた事があった。

犯人は近所の中学生だったので中学校へ通報したところ、同じ団地の中学生9人組の仕業だと判明。

何故か犯人の親の一人が我が家まで押しかけてきた事もあった。


普通なら「ウチの子がスミマセン」と謝ってもらえる場面だったのだろうが…

地域ぐるみで特定障害者世帯を差別するクズな集団の一味は考え方も一味違う。


「よくも学校に通報したな!お前らみたいな嫌われ者一家は黙って泣き寝入りしておくべきだろうが!ウチの子の内申書に悪影響が出たらどうしてくれるんだ!謝れ!学校に取りなしの電話をしろ!」

(言い方はもっと婉曲だったが内容的にはそんな感じ)

という押し付けのために押しかけて来ていたのだった…。


泣き寝入りする以外の選択肢を与えた覚えはないぞ、という堂々たる差別なのだが…

当人にしてみれば

「あの家には何をしても良い」

という嫌悪感を皆で共有して気が大きくなっているだけで、特に変わったことをしてる自覚もなかったのだろう。


玄関のドアを誰かに蹴られるような事もその後続いたが、現行犯で捕まえない限り、何処に通報するべきかも分からない状態。

警察に言っても捜査も何もしてくれなかった。


ウチのベランダのすぐ下の地面に野糞をされた事も数度あったが…

人目が無い訳ではない、人通りもある場所だ。


「野糞シーンを通行人に見られる」

リスクを冒してまで

「嫌がらせのためにわざわざ野糞をする」

という行動が本気でキチガイじみて気持ち悪かった。


隣の家が犬を飼えば早朝5時半に管理人が

「犬の鳴き声がうるさい!お宅だろう!」

と濡れ衣で犯人だと決めつけて怒鳴り込んできた事もあった。


団地では集合ポスト周りにチラシが散乱していることが多かったが、母ははじめ拾って掃除用具入れの中のゴミ袋へと入れて片付けてやっていた。

すると何故か

「自分の家のゴミを掃除用具入れのゴミ袋へと捨てる人がいる」

だのと言い出すヤツが湧いて、その後は掃除用具入れに鍵が掛けられるようになった。


全くもって全てが普通ではなかった。


全てが悪意的で

全てが陰湿で

善悪が捻じ曲げられていて

全てが嘲笑的だった。


ウチが自治員をさせられた年度には「団費を払わない」ようなクズも湧き、無償労働の自治員を公金啜る公務員か何かと勘違いして何かと苦情を言いまくるモンスタークレーマーも湧いた。


不思議なことに

毎度毎度

誰もクズやモンスタークレーマーを批判しなかった。


むしろ「もっとやれ」「もっと苦しめろ」とばかりにクズやモンスタークレーマーの味方をして、我が家に不可抗力のストレスを与えて、地域ぐるみでイジメ抜いた…。


そんな外道がウジャウジャいたのが、あの日本の底辺社会の実情だった。


味方がいない

コネがない

貧乏

嫌われている


そんな人間には「弱者殺しの法則」のようなものが普通に降りかかり、自殺するまで延々と嫌がらせが繰り返される。


何十年もそんな悪意と嫌がらせと嘲笑に晒され続けたせいもあり…

俺も俺の家族も「人間というものに対する認識」がかなりシビアになった。


事実を事実として認識する

希望的観測はしない

期待しない

淡々と事実のみ勘定に入れて現実対処する


俺と俺の家族にとってリアルにおける人生は

「機械的、事務的にならなければ生きられない」

「情緒主義的に現実を受け止めると悔しさで発狂する」

ような陰惨なものだった。


だからなのだろう。


両親も弟も「異世界ファンタジー」を好んでいた。

母と弟は小説投稿サイトで小説を書いてたようだった。


リアルの人生では情緒主義を徹底して封印。

機械的に事務的に対処。


自分の中の心…他人との優しさ思いやりのキャッチボール。

そういった温かいものは全部

「自分が作った小説の中の世界で主人公が体験するための宝物」

に位置付けたのだ。


ひどく歪んだ現実逃避だと思う。

だけど

「現実社会に対して完全に心を閉ざす」

生き方をしなければ自棄になって犯罪に走るか自殺するしかなくなる。


日本は、あの地球世界は

そこまで底辺の日本人をイジメ苦しめ歪めていたのだ。


こっちの世界は人間の寿命は短く文明も未発達。

人々の人間性も性格もシンプルだ。

真綿で首を絞めるような婉曲的な自殺教唆環境より

もっと分かりやすく潔い。


だが

「この世界に悪意が存在しないという事はない」

だろう。

嫌がらせは普通に起こる筈。


わざとゴミ焼却せずにゴミを溜めて腐臭を近隣に漂わせ虫を湧かせる。

そういう嫌がらせを東西南北の番人が示し合わせてやっていても不思議はない。


(…給金に不満がある、とかそういうのが原因のストライキの一種なのかもなぁ…)

と予想はできる。


俺にとっては実にタイミングの良い、有り難い展開ではある。


丁度いい具合に日も暮れてきた。

(柳林へ戻ってログハウスを出せる頃合いだな…)

と思い、墓地奥の柳林へ向かって走った…。



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