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前世の記憶

挿絵(By みてみん)



聖杯カリス

魔術儀式における大窯とルーツを同じくする聖具。


伝説では

「城砦に秘蔵され、天使達が齎す不思議な力を秘めた聖餅ホスチアを生じさせるもの」

だとされる。


天使達が齎す不思議な力ーースキルーー。


それはホスチアを食べる事で一生に一度だけ得られるものである。



********************


「俺は前世では日本という国に暮らしていた日本人だった」

と思い出したのはスキル授与式の真っ最中だった…。


********************



スキル授与式ーー。


この世界では誰もが受ける事の出来る儀式。


やたらと声が響く構造になっている聖堂で司祭が詩篇を呪文のように唱え続ける事1時間くらいか…。

その間、スキル授与を受ける15歳の少年少女は一切のお喋りが禁じられている。


スキル授与式は

「春分・秋分」

の日に行われるので年に二回ある。


この国では15歳になって初めて訪れる春分か秋分の日にスキル授与式を受ける事になる。


この日ばかりはどんなお喋りな子も無事にスキルを得るまで黙っていなければならない。


司祭の詠唱を遮るようなお喋りをする者は聖堂から引きずり出されて、その日はスキル授与を受けられない。


次の機会まで(約半年後まで)待たされる事になるし、実際に何人かの人間がそうやってスキル獲得が遅れている。


「一定時間沈黙を守れるお利口な子供」

だけが15歳になって初めて訪れる春分か秋分で

つつがなくスキル獲得できるのである。


そんな儀式の最中。


司祭の詠唱が響き渡る聖堂の中で大人しくしていると…

フワフワした妙な感覚が起こって

自分の意識が微妙に自分の身体からズレていくような

不思議な錯覚が起きた。


ーーと同時に


(ああ、そうか…。生命というものは、生き物というものは、肉体と霊魂との一体化で成り立ってるのだな。それこそ司祭の説法の中の作り話という訳ではなく、本当に…)

と理解できた。


それにしても不思議なものだ。


司祭が儀式を行う事で

聖杯カリスの中に聖餅ホスチアが生み出される」

現象も、それを食べた人間にスキルが宿る事も。


(不思議だな…。何故誰も疑問に思わないんだろうか?)

そう思ってしまってから


おのずと

(それ以外を知らないから)

(この世界以外の世界を知らないから)

という答えが出てきて


(それなら俺は何故不思議だと感じてしまうんだろう?)

(何故疑問に思ってしまうんだろう?)

とも思った。


そして

(それ以外を知っているから)

(この世界以外の世界を知っているから)

という答えもまた自動的に引き出された。


その途端にーー


封じられていたような記憶が自分の中にドッと溢れてきて

「自分が前世で地球という世界の日本という国に住んでいた」

事が思い出されたのだ。


とは言っても

思い出はそんなに多くもなく

鮮明でもない。


自分が前世では

「生まれながら脳に奇形があって先天的に自閉症で知的障害者だった」

という事。


「自分自身の本当の知性のほんの一部も発揮出来ず、常に意識にモヤが掛かったような状態でいつも癇癪を起こしてワガママに生きてた」

という事。


「家族の足を引っ張る情けない生き方で人生を終えていた」

という事を思い出した。


死後にはーー


「それまでの人生を客観的に捉える視点で人生を振り返った」

ので自分でも

「不毛極まる人生だった」

と、ただただ実感した。


その時に

理解してしまったのだ。


「世界には、社会には、正の遺産と負の遺産があるのだ」

と。


障害者として親兄弟に迷惑をかけて生きて死に

最期の最期まで感謝の念も持たず

ひたすらに自分本位でワガママを通し続けた。

あの人生ーー。


どうにもならない不幸を背負って生きた者達はあの世界の負の遺産を背負って生きていた。


集合意識は木の年輪のように若い魂を内側に護り古い魂を外側に押し出して風雨に晒させる。

大きな集合意識は巨木が多くの樹皮を纏っているように多くの魂を外縁に置いている。


俺も俺の家族もそうした外縁に置かれていたのだ。


(クソみたいな人生だった…。クソみたいな世界だった…。俺はあんな風に生きたかった訳じゃないのに、まるで呪われていたかのように、あんな風にしか生きられなかった…)


「他の者達に当たり前のように与えられているものなら、俺にも与えられる筈だ」

という思い込みのせいで俺は家族を恨み憎んでいた。


クソみたいな人生を

生きて

死んだ。


前世の両親も弟も

善人とまでは言えないまでも

決して悪人ではなかった。


だが俺はアイツらが

「俺の言いなりにならない」

時には…

いつも心底から憎悪を向けた…。


身内の人生をドン底に引き摺り下ろさずにはいられない悪意。

それにずっと憑かれたままだった。


まるで地獄の召喚だった。


(…家族だったアイツらは俺を恨んでるんだろうか…。間違いなく俺を軽蔑して迷惑に思ってはいたんだろうが…。恨んで憎んで呪ってるんだろうか…)


前世の親兄弟の顔を思い浮かべてみてーー

すぐに答えを受け取る。


全てを諦めて

全てを受け入れているような

そんな表情をしたかつての家族が

首を横に振るのが目に浮かぶ。


咄嗟に

(ああ…多分、この想いはアイツらと同じだ)

と感じた。


救いのない

余裕のない

報われない環境では

本来なら愛し合うべき家族ですら憎み合う。


地球世界のようなクソ世界を去る時に必要になる魂の禊…。


「愛せなかった…」

という想いは俺もアイツらも同じ。


「愛したかった…」

という想いですら俺もアイツらも同じ…。


それが解ってしまって、思わず涙がこぼれたーー。



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