表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
99/163

第九十八話  焦燥爆弾

 ライサンは通りを歩いていた。


 以前より人通りが少ないように感じる。

 それに、心なしか人々の表情が暗いように思う。

 どうやら、大軍を失った影響が国民にも波及しているようだ。


 散っていった兵士にも帰る場所があり、家族がいた訳で、残された家族のことを思うと心が痛む。


 「家族か……」


 謁見の間での出来事を思い出す。

 ガオエン家に振り回される和也のことだ。


 「ハハッ……」


 乾いた笑いが口から漏れた。


 ガオエン家は強引にでも縁談を進めるつもりだ。

 和也は抵抗を見せていたが、相手が悪すぎる。

 泣く子も黙る百戦錬磨の大王は、強引な姿勢を崩さない。

 更にその妃は、穏やかで優しいが、瞳の奥に意志の強さを秘めている。


 そして、じゃじゃ馬娘。

 こうと決めたらそこへ向かって一直線。

 我が道を行く鬼の姫。

 当の本人が一番乗り気だ。


 ガオエン家は和也の意志を殆ど無視して、話を進めている。

 今晩は和也とカヤの未来を祝して宴を開くようだ。


 和也の試練は、まだまだ続く。


 「カズヤ、お前がどの道を歩もうと、俺はお前の味方だからな」


 空を見上げそう呟く。

 その言葉には、少しばかりの憐みが含まれていた。


 「それにしても、縁談か……」


 和也のことを不憫に思いつつも、自分のことを顧みる。

 自分もいい歳だ、そういうことも真剣に考えねばならない。


 まずは、相手を見つけねばな。

 しかしな。


 ライサンは考える。

 自分ではそのつもりは全くないのだが、いつも同じ理由でふられてしまう。


 戦いのことしか頭にない戦闘馬鹿。

 デリカシーに欠ける戦闘馬鹿。

 強くて恰好良いけど、やっぱり戦闘馬鹿。


 まあ、そんな感じでふられてきたのだ。


 恋愛とは難しいものだ。

 修行すればどうにかなるものでもないし、武術のように型や技がある訳でもない。


 いや、ひょっとしたらあるのかもしれないが、それは自分には習得不可能であろう。


 ライサンにとっては、大岩を砕くより難しいことであった。


 そんなことを考えながら、和風建築の平屋が並ぶ通りを進む。

 人の流れに身を任せて歩を進めていると、広場に辿り着いた。


 天凱の間。


 この島で最も広く、最も有名な広場。

 広場の中央には、円錐の形をした巨大な塔。


 その塔は、翠の鉱石の塊だ。

 捻じ曲がりながら天に伸びているその塔は、確か妖精の塔と呼ばれていた筈だ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 その女は、虚空を見詰めていた。


 薄紫でセミロングの髪が風に揺れている。

 服装は、袖の無い白いニット。下は黒いブーツに黒いズボン。


 ハッキリとした顔立ちの美人だが、その表情は暗い。

 

 女は深く溜息をついた。


 「はぁ……結婚したい……」


 ここのところ、働き詰めの毎日。

 仕事に追われ、プライベートの時間を持てていない。

 恋だ愛だのに現を抜かす暇はなかったのだ。


 それでも、女は仕事が嫌いな訳ではなかった。

 むしろ好きと言えるだろう。

 そうじゃなければ、とっくのとうに辞めている。


 仕事にはやりがいを感じているし、同僚、上司にも恵まれている方だろう。

 女は少しでも成果を上げる為に努力し、邁進した。


 どうやら自分には才能があるようで、その才能を十分に生かせる今の仕事に、喜びさえ感じているのかもしれない。


 そういう訳で、もう一度言うが、恋だ愛だのに現を抜かす暇はなかったのだ。


 いや―――、それは言い訳か。


 「どうせ、誰も私なんか見向きもしないか……」


 言葉にすると、余計に暗い気持ちになってしまう。

 しまった、と思うがもう遅い。

 いい加減自分もいい歳だ。


 早く人生の伴侶を見つけたいと思いつつも、ネガティブな気持ちに邪魔をされる。

 こんな根暗な自分など誰も相手にしないだろう。


 ああ……私はこのまま、まともに恋愛もできずに死んでいくんだ。

 

 そう思うと死にたくなる。


 そうだ。

 どうせいつか死ぬのだ。じゃあ、今死んだって変わらないじゃないか。


 そう思いつつも、後ろめたい気持ちもある。

 家族のことだ。残していく家族の顔を思い浮かべる。思い浮かぶのは、弟の顔。


 ごめんね。お姉ちゃん、先に逝ってるから。


 そこで、眼下を見下ろした。


 「……なんだろう?」


 何か騒がしいな。それに、皆こっちを見ている。

 もしかして、私を馬鹿にしているのだろうか。

 この歳で恋愛の一つも出来ない私を。


 そうだ、きっとそうだ。


 くそう。

 これ程、無様なことはない。

 私だって精一杯頑張ってきたんだ。

 馬鹿にされる謂れが何処にある。


 くそう。

 だったらしょうがないよね。

 皆が私を馬鹿にするんなら、しょうがないよね。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 少年が空を見上げ、傍らにいる母親に訊いた。


 「ねえ、あの人、なに?」


 母親は唖然とした。


 全長五十メートルの妖精の塔。

 その天辺付近のカドの部分に、腰を下ろして座っている女が居た。


 何をするつもりだろう。

 いや、それ以前にどうやって上ったのだ。


 次第に野次馬が集まってくる。

 塔に上る謎の女に、皆の視線が集まる。


 誰かが声を張り上げた。


 「おーい! あぶねえから降りてきな!」


 そう叫んだ男は、野次馬達を押しのけて前に飛び出た。

 そして、再度叫ぶ。


 「あぶねえって! 降りてこいってんだ!」


 叫ぶ男の目の前に、突如、拳ほどの大きさの赤い球が現れた。

 赤球の表面には、紫色の魔方陣のような模様が描かれている。


 「あん? なんだこりゃ?」


 その瞬間、赤球が爆ぜた。

 衝撃が巻き起こり、爆音が鳴る。

 熱が大気を灼いた。


 広場にパニックが巻き起こる。

 野次馬達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 男は腰を抜かした。突然の出来事に心臓が飛び跳ねた。地面に尻をついたまま動くことが出来ない。


 突然起こった爆発。男は生まれて初めて、明確に死を意識した。

 そして、疑問に思う。

 何故、自分はまだ生きているのだろう。


 男の疑問は、爆煙が晴れた時に解消される。


 「無事か?」


 若い獣人の男がそこに居た。

 灰色の髪。精悍な顔つき。逞しい体躯。


 素人目に見ても分かる。

 一流の戦士の風格。


 「に、兄ちゃんこそ無事なのかい?」


 男は声を絞り出した。

 獣人の戦士は答える。


 「俺は大丈夫だ。それより、此処から逃げた方がいい」


 「わ、わかった。ありがとう兄ちゃん。この恩は忘れねえ」


 「構わないさ」


 男が去った後、ライサンは空を見上げる。

 ライサンは咄嗟にベイオルフの(プレイズ・オブ・)賛歌(ベイオルフ)を発動していた。


 そうしなければ、真正面から爆発を受けるのは難しかっただろう。

 防御力が上がっている今ならば耐えられる。


 だがそれでも、爆発に耐えれるのは、あと数発が限度だろう。

 さっきの爆発は、それ程の威力だった。


 空を見上げ、一人呟く。


 「あの女がやったのか?」


 分からないが、そうとしか考えられない。

 ライサンは、腰を落とし力を溜める。

 そして、力を開放し跳躍。

 塔のカドを足場に、飛び跳ねながら上を目指す。


 女は、飛び跳ねる獣人の男を視認した。


 「何あれ……すごい」


 獣人の男は、垂直に飛び跳ね、途轍もない勢いで上ってきている。

 幾ら獣人の身体能力が高いからって、あんな芸当など出来るものか。


 間違いなく強者。規格外の戦士。


 女は疑問に思う。

 何故、それ程の強者が私に向かって来ているのだろう。


 そうか。


 女は理解した。


 あの獣人も、私を馬鹿にする一人か。

 わざわざ塔に上ってまで、私に罵詈雑言を吐きたいというのか。


 「分かったよ。それならしょうがないよね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ