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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
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第九十四話  薄紫の使者

 エルフの郷レガリア・カリアスから約二十キロメートル西方、とある森林地帯。


 「ここ……は……」

 

 目覚めた時、見知らぬ場所に居た。

 見知らぬ天井、見知らぬベッド、見知らぬ部屋。


 和也は、ベッドの上で上半身を起こした。

 部屋をぐるっと見回す。

 この部屋の家具はベッドのみ。


 壁は丸太で出来ている。

 木の温もりが感じられるログハウスという印象の部屋だ。


 和也は、覚醒しきらぬ頭で考えてみた。

 自分は何故ここに居るのかと。

 ここに至るまでの経緯を思い出してみる。


 空が白く発光し、真っ白な世界に放り込まれたところまでは覚えている。


 「ダメだ、そこから思い出せない。というか―――」


 和也の心臓が跳ねる。眠気が完全に消し飛んだ。


 「皆は無事か!?」


 シーツを退かし、飛び起きようとする。


 すると、部屋の扉が開かれた。


 「なんや? 目覚めたんか?」


 そう言って、見知らぬ男が部屋に入ってきた。


 体格は長身で細身。髪は薄紫。長い前髪で視線が隠されており、どこを見ているのかいまいち判別出来ない。


 服装は、黒いブーツに黒いズボン。紫で模様が描かれたゆったりとした白いローブを纏っている。

 年齢は若いと思われる。二十代中盤ぐらいか。


 「……貴方は、誰ですか?」


 和也は、突然現れた謎の男に向かって問いかけた。

 男は訛りのある喋り方で和也に答えた。


 「なんやねん、そのリアクション。つまらんへん。もっと、此処は何処だ!? お前は何だ!? みたいなリアクション取ってくれてもええねんで?」


 「……そ、それはすみませんでした」


 取り敢えず謝ることにした。


 内心、焦ってはいる。

 まず仲間達の安否が気になるし、この男に聞きたいことが山ほどあるのだが、その焦りをそのまま表に出しても碌なことにならないことを経験上理解している。


 和也の冷静な反応を見て、長身の男は肩を竦めた。


 「まあええわ。まず言うとくわ。キミのお仲間は、全員無事や。僕がキミをこの秘密基地(セーフハウス)に運んだんやで。感謝してや」


 「―――全員無事!?」

 

 「せや」


 「あ、ありがとうございます。何とお礼を言ってたら良いか」


 「かまへんよ。ちなみに、キミのお仲間達には外の様子を探ってもらっとる。もうすぐ戻ってくるんちゃうかな?」


 和也は軽く息を吐き、胸を撫でおろす。

 仲間の無事を聞き、取り敢えず安心した。


 そうすると、今の状況と目の前の男への疑問が湧いてくる。


 「あの、すみません。まず貴方のお名前を聞いても良いでしょうか? 俺は、和也と言います」


 「ああ、ええよ。僕はコルバス。称号は『(カラス)』よろしゅう頼むで」


 「その称号というのは?」


 「別に意味はないで。何となくこういうのテンション上がるやん? 僕がネフェリオ様に提案したんや」


 「―――ネフェリオ!?」


 和也は理解した。コルバスと名乗るこの男は、ネフェリオの使徒だ。


 そうだ、エルフの郷でネフェリオから通信が入った直後、白い世界に包まれたのだ。

 ネフェリオは言っていた、そこから離れろと。


 「一体どういうことだ? 今の状況を説明しろ!」


 コルバスがネフェリオの使徒だと判明し、和也は口調を変えた。

 この男に助けられたのは事実だが、そもそもの話、ネフェリオが初めから全部説明してくれていれば、こういった事態にはなっていなかったかもしれない。

 和也は、ネフェリオに対する苛立ちをこの男にぶつけたのだ。


 「ははっ。ネフェリオ様、だいぶ嫌われてるでこれ」


 「助けられたことは感謝するよ。それでも、あんたがネフェリオの使徒だって言うんなら―――」


 「ええよ、ええよ。そっちの態度の方がやり易くてええわ。僕のことを信頼する必要もない。でも安心してええ。全部説明するから」


 「そうか、だったら―――」


 「カズヤ!!」


 突然、部屋の扉が勢いよく開かれ、名前を呼ばれる。


 「カヤ!」

 

 カヤは和也の様子を確認すると、勢いよく和也に飛びついた。


 「ちょっ、カヤ、抱きつくなって……」


 「カズヤの馬鹿!!」

 

 「なっ、なんだよいきなり!」


 そこで、カヤに続きライサンが部屋に入ってきた。


 「覚えていないか? カズヤ。お前は、エルフの郷で異変が起きた時、神意を使って俺達を守ろうとしたんだ。多分、それですべての力を使いきったんだろう。それからずっと眠り続けてたんだ」


 「そ、そうだったのか……」


 和也にはその記憶が無かった。

 咄嗟に神意を使い、皆の盾になろうとしたってことか……。


 和也は、和也の胸で顔を埋めるカヤの肩をそっと叩く。


 「悪かった、カヤ。ライサンも心配かけてすまない」


 「もう……ほんとよ」


 「くーう! 羨ましいやん、カズヤはん。美女にそんな風に心配されるとは、男冥利につきるやんけ」


 コルバスが茶化すように言う。


 「そうだ、コルバス。何が起きているのか説明してくれ」


 「はいよ。簡潔に説明するで。エルフの郷で起きた発光と爆発やけど、あれはヴィクシャルン帝国の兵器や」


 「兵器?」


 「せや、ヴィクシャルン帝国はとんでもない物を発明しよった。一発で周囲何十キロも吹き飛ばせる魔導式の爆弾。その名はプロメテウス。ネフェリオ様が言うとったけどな、そう言うのをカク爆弾って言うんやってな」


 「嘘だろ……核爆弾だって……」


 この世界は魔力や魔術があるためか、科学技術の進歩は元の世界に比べて遅れている。

 そんな中、ヴィクシャルン帝国は核爆弾を造り上げたという。

 とんでもないことだ。

 そんな物を自国の都合で好き勝手使ったのでは、世界は無茶苦茶になる。


 「まあ、とんでもない兵器やけど、そう何度もポンポン打てる物でもないらしいで。エネルギーの充電期間が必要らしくてな、次に発射出来るようになるには、あと一年くらい掛かるらしいで」


 それを聞いて喜ぶべきか否か。一年に一回しか使えないとしても十分、凶悪な兵器だ。

 それだけの破壊力を持っている。


 ライサンが難しい顔をしてコルバスに言う。


 「なあ、コルバス。そのカク爆弾ってやつが危険な兵器だと言うのは理解した。それで、お前達はどうやってその情報を手に入れた?」


 「あー、それはネフェリオ様がヴィクシャルン帝国に潜入して掴んだ情報や。実は以前から帝国に色々と邪魔されとってな、僕らと帝国は敵対関係にあるんや。敵を良く知らんと勝てへんっつーことで、ネフェリオ様が筆頭と姉ちゃんを伴って、帝国に潜入を試みたっちゅーわけや」


 「なるほど……そういうことか……」


 「どうしたの? カズヤ?」


 一人呟く和也に、カヤが問い掛けた。


 「俺達は囮だったんだ。そうなんだろ?」


 和也はコルバスを睨んだ。

 コルバスは肩を竦めて言う。


 「おーこわ、そんな睨まんとってえや。けど、まあ、その通りや。キミ達は囮や」


 ライサンが怪訝な顔で問う。


 「どういうことだ?」


 和也がその問いに答える。


 「俺達はネフェリオに争いを止めろと依頼されて、あちこち駆け回っただろう? だけどそれは、ヴィクシャルン帝国の監視の目をネフェリオから逸らす役目を果たしていたんだ」


 「そういうことや。監視の目がキミ達に向いとる間に、ネフェリオ様はヴィクシャルン帝国に潜入できたっちゅう訳や」


 監視の目、それは複数であり、その中にイグサも居たのだろう。


 俺とイグサさんが出会ったのは、偶然なんかじゃなかったんだ。

 帝国側からすれば、俺達はネフェリオと接触した謎の人物。

 その謎の人物のことを探ろうと、偶然を装い近付いたのだ。

 

 くそッ、まんまとやられた。イグサさんにも、ネフェリオにも。


 「それじゃあ、ネフェリオにとっては、アネモス香のことも、鬼人族がマカリステラに侵攻することも、どうでも良かったっていうのか?」


 「いや、それはちゃう。その件については、ネフェリオ様も頭を悩ましとったんや。せやけど、下手に動いて帝国の奴らに隙を見せる訳にはいかんかった。せやから、キミらには期待しとったと思うで」


 「ふん……どうだかな」


 「そう拗ねんでええやんか。あの人は分かりづらいところがあるけど、キミらのことは高く買っとるみたいやったで」


 和也は眉間に皺を寄せて、なげやりに考える。

 どうでもいいさ。あいつの評価なんぞ。


 「それで……あんたらは、これからどう動く? いや、待て、エルフの郷はどうなった?」


 「それは―――、彼に聞いた方がええな」


 コルバスは、この部屋の扉を指で指し示す。

 それと同時に扉が開かれた。


 「只今、戻りました」


 碧色の瞳。若葉色でウェーブのかかった髪。美しい顔立ち。

 扉を開いたのは、ユリウス・ブランストロノームだった。

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