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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第九十三話  氷塊

 和也の予想通り、イグサ・ハーロンはヴィクシャルン帝国の間者である。


 和也は騙されていた。

 イグサは、和也との信頼関係を築き上げ、和也から情報を聞き出したのだ。


 その情報から和也を危険だと判断し、エルフの郷へと向かうよう誘導した。

 罠に嵌めるために。


 和也は騙されていたのだ。

 ジェノ海洋国家連合軍のマカリステラ自治国への侵攻の時期さえも。


 今から半日ほど前、ジェノ海洋国家連合軍の大艦隊が出撃した。

 和也達は間に合わなかったのだ。


 侵攻を阻止するために、危険を冒してまでエルフの郷に侵入した和也達の努力は、徒労に終わってしまった。

 

 ジェノ海洋国家連合、西部方面海上にて。


 二百隻の大艦隊が海を進む。

 その大艦隊の後方、一隻の軍艦にウツギ・シェラドは居た。


 「司令! 波は穏やか、天候良好、航行は順調! 方位北西を維持、であります!」


 若い兵士がウツギに告げた。

 ウツギは「よろしい」と一言。


 若い兵士は敬礼し、部屋を後にする。

 軍艦に設けられた一室で、ウツギは大きく溜息を吐いた。


 航行は順調。

 このペースを維持できれば、マカリステラまでは、あと三日と言ったところか。


 既に腹は括ってある。

 この作戦の結末がどうなろうと、全ての責任を取る覚悟だ。

 それが、この作戦を指揮するウツギに残された最後の矜持。


 軍の中でどれほど高位の階級であろうと、大王の命令は絶対だ。

 一介の軍人が逆らえる訳などないし、そのつもりもない。


 思う所がないわけではないが、それとこれとは別の話。

 私情は挟まない。感情には流されない。任務は完遂されるためにあるのだ。

 三十年以上の軍人生活を支えて来た、自身の中心にあるものを再び見つめ直す。


 それでも、一つだけ引っかかるものがあった。


 「イグサめ……何を考えておるのだ」


 イグサはこの作戦に反対だった筈だ。

 そのイグサが突如、意見を変えて大王に侵攻を急ぐよう進言を始めたではないか。


 イグサの真意が分からない。


 ウツギはイグサ程の努力家を見たことがなかった。

 名家の血筋に驕ることなく、日々、血の滲むような努力を行ってきた傑物。


 ウツギはそんなイグサを特別に目を掛け指導してきた。

 時に、その指導に熱が入りすぎてしまったことは認めよう。


 だが、それは全て期待の裏返し。


 イグサとは、良好な関係であるとは言えないかもしれない。

 それでも、ある種の信頼関係は築かれている。


 そう思っていた。

 その筈だった。


 再び疑問が湧き上がる。


 「イグサ……」


 ウツギの呟きが部屋に響く。


 再び部屋が静まり返った時、ソレは起こった。

 部屋の外から聞こえた破裂音。


 軍艦が破壊される音。海水が跳ねる音。地鳴りのような音。

 船が大きく揺れ、船員たちの叫び声が聞こえる。


 「何事だ!!」


 ウツギは立ち上がり、船室から飛び出した。

 そこで、信じられないものを見た。


 「なんだ……これは……」


 それは、氷だった。

 天を貫くほどの巨大な氷塊。


 無数の巨大な氷塊が突然、海に出現した。

 すでに複数の軍艦が氷塊に貫かれている。


 氷塊は次々に出現。

 前方の軍艦が氷塊に貫かれた。


 大量の木片と海水が弾け飛ぶ。

 巨大な氷塊に日光を遮られ、影に覆われる。


 船員達は半狂乱。

 これでは、指揮系統は機能しないだろう。


 「これは、敵の罠か……」


 聞いたこともないが、時限式の大規模術式であろう。

 こうなっては、侵攻どころではない。


 それどころか、こうも一遍に軍艦と兵士を失っては、ジェノ海洋国家連合の軍事力は、大きく低下してしまうだろう。


 「このウツギ、一生の不覚」


 そして、この瞬間、全てが繋がった。

 

 「イグサ……」

 

 その呟きを最後に、船は氷塊に貫かれた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 

 「謝らねばならないことがあります」


 ダンジョン入り口の遺跡で、突然ユリウスが言った。


 「どうしたのよ? 急に」


 いつになく真剣な顔をするユリウスにカヤが問い掛けた。

 眠そうに欠伸を漏らし、続けざまに言う。


 「眠いから、手短にしてくれると助かるわ」


 空気を読まないカヤの発言にユリウスは微笑む。


 「フフッ、かしこまりました」


 和也とライサンは、黙ってユリウスの言葉を待つ。


 「貴方達は、私のことを信じてくれた。ならば、私はそれに応えなければなりません」


 一呼吸して続ける。


 「私は知っています。ネフェリオ様が今、どこで何をしているかを」


 和也とライサンは、その発言に驚いた。

 座り込んだ状態で、和也が応答した。


 「……やっぱり、知っていたのか」


 「ええ。口止めされていたのですが、私の独断でお話しします」


 ライサンが怪訝な表情で問う。


 「良いのか?」


 「構いません。私は、貴方達の信頼を勝ち取る方が重要だと判断します」


 「……分かった。ならば、頼む」


 その時、突然、和也の頭に声が響いた。


 「……カズヤさん、聞こえますか?」


 呼び声の指輪を通して、声が頭に響いたのだ。

 和也は反射的に立ち上がり叫んだ。


 「ネフェリオ!」


 皆の視線が和也に集まる。

 和也は手をかざし、ユリウスに少し待つよう意思を伝える。


 ネフェリオは続ける。


 「今、どこですか?」


 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 突然なんなんだ? 色々と聞きたいことがある!」


 「申し訳ないですが、時間がないのです。今、どこですか?」


 穏やかな口調ではあったが、ネフェリオの声には焦りが含まれているような気がした。

 和也は渋々答える。


 「どこって、エルフの郷だよ。お前がユリウスに命じたんだろ?」

  

 「やはりそうですか。ユリウスには今回の件、詳細は伝えていません。情報漏洩を防ぐために」


 「なんだ? 一体、何の話をしている?」


 「詳しくは後で説明します。直ちにそこから離れてください。出来るだけ遠くに」


 「だから、どうして!」


 話が見えず苛立つ和也。


 「我々は失敗したのです。その怒りは甘んじて受け入れましょう。とにかく、今は―――」


 その時、空から高い音が聞こえた。

 笛のような高い音が、上空で鳴り響いている。


 そして、爆発音。空が白く発光。

 世界が白い世界に変化した。


 視界が白で覆われる。


 和也の意識は、そこで途切れた。

これにて第三章は終了です。まだ続けていきますので今後ともよろしくお願いします。

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