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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第九十二話  推断

 和也が台詞を言い終わると同時に、碧の輝きが消え失せた。

 アスクレピオス・ノヴァの効果時間が切れたのである。


 和也の背後に、降り立つ影が二つ。


 「やったわね! カズヤ!」


 「流石だな」


 ライサンとカヤが和也を称える。


 「いや、二人のお陰だ」


 この和也の発言は、謙遜から出たものではない。

 真実であった。


 ミラージュとキメラが転移した後、和也は即断した。


 今、奴らを逃せばまずいことになる。

 敵はアスクレピオス・ノヴァのことを知っている。

 即ちこれは、綿密に練られ、仕組まれた悪事。


 敵の思うように事が進めば、厄介なことになるだろう。


 だから和也は、カヤに頼んだ。

 敵の捜索を。


 カヤはそれに応えた。カヤならば、それが可能だ。


 和也の頼みを受け、カヤの額が深紅に輝いた。

 その深紅の輝きは、人の目を象っていた。

 カヤの額に、第三の目が現れたのである。


 これこそが、カヤに隠された異能の力。

 カヤの第三の目は、透視能力を発動した。

 

 六神通天眼(ろくじんつうてんげん)


 鬼人族の王家の血を継ぐ者に、ごく稀に現ると言われる異能。

 この異能の力が開花した者達は、例外なく悲劇の最期を迎えたと言う。


 異能の力に振り回され、精神に異常をきたすためと言われているが、真偽の程は定かではない。


 この異能は、忌み嫌われし呪われた力である。

 それが、鬼人族達の共通認識であった。


 そのため、現王家はカヤの異能を秘匿した。

 故に、カヤのこの力のことを知る者はごく僅か。


 この異能は、秘中の秘。

 カヤはそれを和也に明かした。


 信頼の証として。


 カヤの力でキメラとミラージュの位置を捕捉。和也とライサンで協力し、床や壁を破壊。

 最短ルートでここまでやってきたというわけである。

 

 「畜生……畜生……」

 

 キメラは片膝をつき、肩で大きく息をしている。

 体の正面には深い傷が走っており、大量の血が地面に溜まっている。


 このままでは、まず助からない。

 キメラの命は風前の灯火であった。


 「もう一度問う。お前達は何者だ? 大人しく吐けば、傷を治してやる」


 「ちっ……」


 「どうした? 早くしなければ死ぬぞ」


 和也はキメラを脅しつつも、キメラの後方にいるミラージュに視線をやった。

 ミラージュは頬に手を当てて、困ったような表情で佇んでいる。

 今のところ、何かアクションを起こすつもりはないようだ。


 キメラは顔上げ、和也を睨みつける。

 顔は青ざめ、額に汗を浮かべているが、敵意は薄れていないようだ。


 キメラは和也を数秒睨みつけ、口から唾を吐いた。

 唾液と血が混じったソレは、和也の頬に付着する。


 「てめえら全員……吹き飛べ」


 キメラの体が赤く発光。

 熱を持ち、体が膨れがる。


 「カッハッハッ! カーハッハッハッハッハッ!!」

 

 哄笑を響かせて、キメラの体が弾け飛ぶ。

 大爆発が発生した。

 熱波が荒れ狂い、衝撃が発生し、爆音が響いた。


 和也は咄嗟に神意を発動し、爆発によるダメージを相殺。

 砂埃が巻き上がる中、周囲を見回した。


 「ライサン! カヤ! 無事か!?」


 ライサンとカヤの姿が見えない。

 砂埃の中、必死に目を凝らす。


 「ライサン! カヤ!」


 居ない。返事もない。

 和也は焦る。冷や汗が吹き出る。


 二人の捜索を始めるため、脚を踏み出した。


 グラッと体が揺れ、膝を付いてしまう。

 

 「くそっ、力を使いすぎたか」


 和也は、体力の限界を迎えていた。

 脚が動かない。


 更に不運が襲う。


 地面に亀裂が入る。

 爆発の衝撃で地面が崩落しようとしていた。


 「まずいな」


 体力の限界を迎えたこの状態で、崩落に巻きこまれるのはまずい気がする。


 死ぬだろうか?


 ―――いや、死なない。大丈夫だ。俺は諦めない。


 亀裂が大きくなり、地面が崩れ落ちる。

 浮遊感を感じ、重力に捕らわれる。

 必至に右手を伸ばすが、右手は空を掴むだけ。


 ―――パシッ。


 という音と共に、和也の右腕が掴まれた。


 和也の右腕を掴んだ人物は、和也の体を引き上げた。

 引き上げられた和也は、両膝をつき、助かったことに安堵する。


 呼吸と脈拍が少し落ち着き、和也は顔を上げた。


 「ありがとう。助かった……ユリウス」



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 ダンジョンから脱出した時には、すでに日が暮れていた。


 「ようやく……出れたな……」


 和也は、額の汗を拭い地面に座り込む。


 「大丈夫か?」


 座り込む和也にライサンが問い掛けた。


 「ああ、大丈夫だ」


 「ふう……私は、まだまだ動けるわよ」


 強気に言うカヤであったが、その顔には疲労の色が滲んでいた。


 「皆さん、お疲れさまでした」


 ユリウスは余裕綽々といった様子。

 和也は、座り込んだままユリウスを見上げる。


 「改めて礼を言うよ、ユリウス」


 ダンジョンではユリウスに助けられた。

 ユリウスは、キメラとミラージュの罠に嵌り、ダンジョン地下深くへ転移させられてしまったらしい。

 その後、上を目指し、なんとか和也達の元に辿りつくことが出来たのだという。

 そしてそれは、キメラが自爆する直前のタイミングであった。

 水の防御魔術でライサンとカヤを衝撃から守った後、崩落に巻き込まれようとする和也の腕を掴み、それを阻止した。


 和也達三人は、最後の最後でユリウスに助けられたのである。


 「いえ、私は不覚を取り、敵の罠に嵌ってしまった。自分の不甲斐なさに打ちひしがれておりますよ」

 

 「そんなことはないぞ、ユリウス。兎に角、全員無事で脱出できたんだ。まずは、そのことを喜ぼう」


 ライサンがユリウスをフォローする。


 全員……か。

 

 和也は思う。

 ダンジョンに入った時の人数から、二人も減っている。


 一人は自爆。もう一人は行方不明。

 結局、あの二人の正体は分からなかった。

 だけど、推測できることはある。


 あいつらは、俺の力のことを知っていた。

 アスクレピオス・ノヴァの時間制限のこともだ。


 アスクレピオス・ノヴァのことを知る者は少ない。

 それなのに、あの二人は知っていた。


 それは何故か?


 素直に考えるのであれば、アスクレピオス・ノヴァのことを知る者から情報が漏れた。


 この力を知る者達、それは、和也を除くと優斗、セリス、イーリス、ライサン、エイナ、リーラ、ゼピロス、カヤ、ユリウス、イグサ。


 和也はあえて、この中の誰かが、意図的に情報を漏らしたと仮定する。


 では、それは誰か。


 単純な消去法だ。


 まず、今この場にいるメンバーは違うだろう。

 キメラとミラージュに殺されかけたのだ。

 この二人と協力関係にはないと思われる。


 優斗、セリス、イーリス、エイナ、ゼピロスも違うと思われる。

 今更、この者達が裏切る理由が分からない。

 俺を排除したいのならば、もっと早くにアクションを起こしても良い筈だ。

 ソルランド王国のゴタゴタに乗じて、俺を陥れる機会は幾らでもあっただろう。

 よって、除外することにする。


 リーラはどうだろう。

 動機は十分だが、拘束されている状態なので物理的に不可能だ。

 密かにネフェリオに情報を漏らした可能性はある。

 だとしたら、ネフェリオが裏で糸を引いているのか?

 いや、こんな回りくどい方法を取る理由が分からない。

 それに、使徒であるユリウスは白だ。ネフェリオも白と見てよいだろう。

 よって、ネフェリオに連なるリーラも白と考える。


 残った者は一人。


 ジェノ海洋国家連合軍、西部方面特殊作戦工作部隊隊長、イグサ・ハーロン。


 「イグサさん、そういう……ことなのか……」


 こう考えれば、辻褄が合う。


 イグサの正体、それは、他国のスパイ。

 ジェノ海洋国家連合軍の幹部でありながら、他国へ情報を流す工作担当官(ケースオフィサー)


 キメラとミラージュとイグサは同じ組織に所属していると思われる。

 その組織とは、どこの組織か。

 恐らくは、現在、ジェノ海洋国家連合軍の情報を最も欲しているであろう者達。


 それは、マカリステラ自治国、もしくは、ヴィクシャルン帝国。

 確証はないが、恐らくは後者。そう考えた方が自然だろう。


 つまり、キメラ、ミラージュ、イグサ、これらの者達、その正体は―――ヴィクシャルン帝国の間者だ。

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