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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第九十話   合成獣

 ユリウスは不敵に笑い、指をパチッと鳴らした。

 それを合図に壁の光が強まり、広間全体がハッキリと見通せるようになった。


 和也は、広間の奥に誰かが居ることに気付く。

 そして、和也より先にルグリが声を上げた。


 「メリラ!」


 広間の奥には、メリラが居た。

 手と足を拘束され、地面に寝かされている。


 メリラが叫んだ。


 「ごめん皆! ユリウスにやられた!」


 いつになく真剣な様子で言うメリラの声が、広間に反響する。


 ユリウスはメリラに近付き、無理やり立たせた。

 そして、メリラの首元にレイピアを近づける。


 ユリウスの行動の真意が読み取れず、怒りをぶつけるように、和也がユリウスに問いかけた。


 「ユリウス! 何が目的だ!?」


 「下手な行動は避けてください。メリラの首をブスリといきますよ?」


 「ふざけんじゃないわよ! この、卑怯者!!」


 カヤが怒り爆発させた。眦を吊り上げ、ありったけの怒りを込めてユリウスにぶつける。


 カヤの怒りで、和也は幾分、冷静になることが出来た。

 自分もあのように怒りを爆発させているのかと、客観的になることが出来たからだ。

 こんな状態では、打開策を打ち出すことは無理だ。冷静になれ。


 「ユリウス! もう一度問う! 何が目的だ?」


 ユリウスは碧色の瞳で和也を見据え、不敵に笑う。


 「カズヤさん、武器を置いてゆっくりと前進してください。ゆっくりとです」


 「何故だ?」


 「質問は認められません」


 「……」


 和也は、さっと目線を周囲に走らせた。

 前方にはユリウスとメリラ。距離は五メートル程度。

 左後方にはライサンとカヤ。二人との距離は二メートル程度。

 そして、右後方にはルグリ。手を伸ばせば届く距離に居る。


 和也は、少しだけ目を閉じる。

 この広間に静寂が訪れた。この場に居る者達は、和也の行動を注視している。


 静寂が和也の心を更に冷静にする。

 そして、思い出した。

 ヘレナの言葉を。


 信じてやってくれないかい? あいつのことを。


 だから和也は、信じることにした。

 ユリウスのことを。


「本当にどうしたんだ、ユリウス! 今までのお前は、全部嘘だったというのか!? お前と最初に出会った時、共に観客を沸かせたじゃないか! 思い出せ、A New Worldだ! あの演奏も、全部嘘だったのかよ!」


 「そうですね、全て嘘です……と、言えば満足ですか? 質問は認めらないと言った筈です」


 「…………それだけか?」


 「はい?」


 和也は確信した。

 今の自分の言葉には、明らかにおかしな点があった。


 全神経を集中してユリウスを観察していたから分かる。

 ユリウスは、そのおかしな点に何の反応も示さなかった。

 

 「すまないが、お前の言う事は聞けない」


 「……聞けない? では、メリラがどうなっても良いと?」


 「ああ。残念だが、好きにしろ。俺達とメリラは、利害関係で成り立つだけの関係だ。別に仲間って訳じゃない」


 「……ほう。驚きましたね」


 ライサンとカヤは、和也の台詞を聞いて驚くが、事の成り行きを見守ることにした。

 きっと、和也に何か考えがある筈だ、と。


 「おい! ふざけるな!」


 ルグリが騒ぎ立てる。

 だが、和也はそれを無視。


 和也の予想外の返答に、流石のユリウスも次の行動を決めかねている様子。


 和也は、頭をフル回転させる。

 先程ユリウスに言った、「A New World」

 これは、明らかな間違い。

 正しくは、「Life is an illusion」

 全くの別物だ。この間違いにユリウスは顔色一つ変えなかった。


 これが意味するところは一つだ。

 つまり、目の前に居るユリウスは偽者。


 そして、それが真実だと仮定し、今、何が起きているかを考える。

 これまで起きたことを思い出し、思考する。


 不審点が幾つかあった。 


 それまで後方に下がっていたメリラが祭壇を見つけた途端、前に飛び出したこと。

 地面の崩落の先には、ユリウスしか居なかったこと。

 そして、ユリウスを追いかけて辿り着いた先には、メリラが拘束されていたこと。


 和也は、あえて仮定してみることにした。


 メリラがわざと、ユリウスを地面の崩落に巻き込んだのだとしたら。

 魔術的な術を使って、何者かがユリウスに変装しているのだとしたら。

 今メリラが拘束されているのは、メリラの自作自演だとしたら。


 そして、ルグリとメリラが共謀し、俺達を陥れようとしているとしたら。


 仮定に次ぐ仮定。

 

 ユリウスを信じて欲しいというヘレナの願いと、ユリウスを信じたいという己の思いが、和也を導いた。


 和也は、行動することにした。

 剣を抜き、即座に体を回転させる。

 右後方に居るルグリへ剣を振るった。


 カン! 甲高い音が鳴った。


 音の発生原因は、剣と触手がぶつかったため。

 剣を振るったのは和也。

 そして、触手を使って防御したのは、ルグリだった。


 ルグリの腕は触手に変形していた。触手で剣を弾いたのだ。

 その触手は、極彩色をしていた。まるで、蛇腹の魔女(エキドナ)の触手のように。


 「キヒッ」


 ルグリが笑った。薄ら笑いを浮かべて。


 「おいおいおい。マジかよお前。そんなに殺意を込められちゃあ、マジで防御するしかねえだろうがよお」


 和也は、剣先をルグリに突き付けた。


 「やっぱりそうか。お前は、いや、お前達は何者だ!」


 ルグリの反応と異形の姿。やはり、こいつらは何かを隠している。


 ルグリが悪態をついた。


 「ったくよお。おい! どうする! メリラ! いや―――、ミラージュ!」


 ミラージュと呼ばれた女。

 和也がメリラだと認識していた女は、ニヤリと笑み作った。


 「キャハハハ! こうなったら、しょうがないんじゃない?」


 メリラの体がぶれた。

 蜃気楼のようにメリラの体がぼやける。

 そして、蜃気楼が晴れた時、メリラとは別の女がそこに居た。


 「やっほ~、素敵なお兄さん。久しぶりね」


 その女は、この場の緊迫する空気を無視して、間延びした口調で喋った。

 和也は、その女のことを思い出せなかった。


 誰だ? どこで出会った?


 「あれ~? 忘れちゃったんですか~? ひどーい、キスまでしてあげたのにー」


 その言葉で和也は思い出した。

 茶色がかった黒色の髪。少し眠そうに見える目。間延びした喋り方。

 マカリステラでイグサと初めて出会った日、夜の店で接客をしていた女だ。


 「どうしてあんたがここに居る!? どういうことだ!」


 その時、ルグリが気だるそうに言った。


 「あー、もう面倒くせえ」

 

 そして、ルグリは跳躍し、メリラの隣に並んだ。

 常人ではありえない跳躍力。


 ルグリの脚が膨れ上がり、膨れた筋肉が衣服の下から浮かび上がっている。

 更に、猛禽類のような鋭い鉤爪がブーツから飛び出していた。


 「ミラージュ、こうなったらもう殺すしかねえ。いいよな?」


 「ん~、しょうがないかな~。いいんじゃない? それじゃあよろしく、キメラ」


 メリラ改め、ミラージュがそう言い終わると同時に、ユリウスの体がぶれて消え去った。


 「幻影……か」


 やっぱり、俺達は騙されていたんだ。このミラージュって女に。 


 「カズヤ、やるしかないな?」


 「やってやろうじゃない!」


 ライサンとカヤは、すでに戦闘態勢に入っている。

 

 「ああ、やるぞ。ライサン、カヤ」


 和也達の戦意を受けて、ルグリ改めキメラは、口角を吊り上げた。


 「カハッ、やる気満々かよ。いいぜ、ぶち殺してやる」


 その口調は、以前のルグリとは別物であった。

 猫背気味だった背筋はピンと伸び、覇気の無かった顔には、闘志が浮き出ている。


 キメラは、自分の首を捻りポキッと音を鳴らす。

 キメラの体に異変が起きた。


 顔面が大きく歪む。

 頬骨が大きく突き出し、額がへこむ。

 目玉が飛び出し、鼻が曲がる。

 ボキッ、ボキッと音を立てながら、顔が変形していく。

 

 鋭い眼光、高い鼻、逞しい顎。

 彫りの深いその貌からは、以前の繊細で陰気な雰囲気は消え去っていた。


 変形はまだ終わらない。

 次は、体が変化する。


 左腕がぶるっと震え、虎のような猛獣の頭部に変形。

 腹から太い怪物のツノが四本生え、纏う衣を突き破る。


 すでに膨れ上がっている脚の筋肉が更に膨れ、衣服がはち切れた。

 右上は触手。左腕は猛獣の頭部。腹にはツノが生え、脚は猛禽類の強靭な筋肉と鋭い鉤爪。


 その姿は、人に非ず。


 合成獣(キメラ)、そう呼ばれる怪物がそこに居た。


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