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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第八十八話  連携

 「キヒヒッ、此処だ」


 ルグリが薄ら笑いを浮かべながら言った。


 ここは、郷の端に位置する結界の境界線付近。 

 目の前には苔むした遺跡。


 遺跡の石垣には、樹木の根がびっしりと張り巡らされている。

 樹木と一体化した遺跡だ。


 和也達は、ルグリを先頭に遺跡のアーチを潜り、内部に侵入した。

 内部に明かりは無いが、陽光が入り口から入り込んでいるため、内部の様子を確認することが出来た。


 遺跡の中には、地下へ続く幅の広い階段があった。

 その階段を見て、和也が呟く。


 「これが、ダンジョンの入り口……」


 「なんだ? 怖じ気ついたのか? おいおい、頼むぜえ」


 ルグリが小馬鹿にしたように言った。

 和也は余計な反論はせず、肩を竦めて見せた。


 「そんな訳ないでしょ! グダグダ言ってないで、さっさと道案内しなさい!」


 カヤがピシャリと言い放つ。


 「おお、こわっ」


 ルグリはおどけた様子でリアクションを取った後、カヤに反論する。


 「だけどよお、此処から先は、アンタらが前だ。当然だろう? 今は、俺達がアンタらの依頼主だからよ」


 「ふん、分かったわよ。先に行けばいいんでしょ」


 ルグリとメリラの依頼、それは、このダンジョンにて聖者の雫石を手に入れることだ。

 それを手に入れる見返りとして、アネモス香の情報を得ることになっている。


 ユリウスが浮遊する光(フロート・ライト)を発動し、先頭に立った。

 その後に、ライサン、和也、カヤが続き、少し間を空けてルグリとメリラが続く。


 和也は、嫌な予感がしてイーリスと通信を試みた。

 返事が返ってこない。

 やはりか……。

 どうやら、ダンジョン内は通信圏外、ということらしい。

 此処から先は、イーリスのサポートは受けられない。


 長い階段を降りると、広い空間に着いた。

 石の壁に、土の地面。壁は樹木の根に浸食され、壁と根が一体化している。


 石の壁がぼんやりと緑に輝いており、浮遊する光(フロート・ライト)が無くても周囲を見渡せることが出来た。


 何の光だろう?  


 和也が不思議そうに輝きを見ていると、ユリウスが説明してくれた。

 なんでも、粉末状にした輝く魔石が壁に混ぜ込まれているようだ。

 その加工の難易度は高く、手間も金も掛る。


 一体、誰が何の為にそんな事をしたのか。

 そもそも、このダンジョンの存在自体、不可解だった。


 誰が造ったのか、どうやって造られたのか、方法も理由も不明。

 ダンジョンには、怪物が自然に湧き、貴重な魔石や宝が眠ると言われている。


 未だ解明されぬ、この世界の謎。


 そして、ダンジョンの脅威が和也達に襲い掛かる。


 ライサンがパーティーに告げた。


 「皆! 構えろ!」


 ライサンの警告により、パーティーは戦闘態勢を取る。

 和也は剣を抜き、カヤは背中に背負う金棒の柄を握りしめる。

 ライサンはガントレットを打ち鳴らし、ユリウスはレイピアを体の正中線に沿うように構えた。


 ルグリとメリラは後ろで待機し、ことの成り行きを見守る。


 その怪物は、暗闇から現れた。

 広場の奥、闇の中から異形が姿を現す。


 怪物は、人の女の姿をしていた。

 青白い肌に、極彩色の細い触手が何重にも巻き付いている。

 真っ赤な瞳。くすんだ赤色の髪。


 そして、その怪物を怪物たらしめている、大きな特徴があった。

 下半身は、人のソレではない。

 極太で、極彩色の触手が胴体から何本も生えており、それが足の代わりを務めている。


 極太の触手に支えられ、怪物は直立しながら床を滑るように移動する。


 「なんだ……あれは」


 異形の姿を見て、和也が呟く。 

 ユリウスがそれに答えた。


 「あれは、蛇腹の魔女(エキドナ)


 ルグリとメリラが騒ぎ出す。


 「おいおいおい、マジかよ。やばいんじゃねえか!?」


 「マジやばいんですけど」


 ルグリとメリラの反応から察するに、強敵のようだ。

 和也達は、相手の出方を窺う。


 蛇腹の魔女(エキドナ)も慎重に和也達を観察してる。


 先に動いたのは魔女だ。

 蛇腹のような極太の触手が、先頭のユリウスを襲う。


 ユリウスは触手を躱し、レイピアを突き出した。

 甲高い音が響く。

 レイピアは触手に弾かれた。


 和也は理解した。

 硬質で、柔軟な特性を持つ触手。

 それが、この敵の最大の武器だ。


 和也が飛び出した。駆け出して、魔女に近付く。

 魔女はそれに反応した。


 二本の触手で和也を攻撃。

 和也は、剣で迎撃。剣で触手を吹き飛ばすが、硬質な触手を切断することはかなわない。

 魔女は、即座に別の触手で和也を襲う。


 和也は後方に飛び、触手を躱す。


 「なるほど、これは厄介だな」


 硬質な触手が鉄壁の守りを築き上げている。

 十本以上ある触手が、それぞれ意思を持ったように動いて襲ってくるため、本体に近付くことさえ難しい。


 敵の攻撃はいたってシンプル。触手をしならせ、相手を叩く。

 それだけで、大抵の相手は叩き潰されるだろう。

 強靭な触手は、それを可能とする。


 シンプルが故の強さが、そこにはある。


 和也は考えた。強敵だが、倒すことは出来るだろう。

 アスクレピオスの(アスクレピオス・)新星(ノヴァ)を使えば、事はすぐに済む。


 だけど、本当にそれで良いのか。

 切り札をこんなに序盤で使って良いのだろうか。


 そこで和也は、カヤの言葉を思い出す。


 もっと、私を頼って。


 それを思い出して、自然と口角が上がる。


 「ライサン! カヤ! ユリウス! 頼む! 俺を援護してくれ!」


 名を呼ばれた者達は、それぞれ返事をする。


 「任せろ! 俺が道を切り開いてやる!」


 「どーんと、任せなさい!」


 「フフッ、了解です」


 和也は飛び出した、仲間達を信じて。

 魔女は真っ赤な瞳に殺意を宿し、和也を睨んだ。


 口から蛇が威嚇するような声を発し、触手を二本しならせる。


 「邪魔よ!」


 カヤが金棒を振るい、二本の触手を弾く。

 和也は止まらない。


 次に四本の触手が和也を襲う。

 ユリウスが高速でレイピアを触手に叩き込む。

 レイピアと共に、氷柱の(セプテット・)七重奏(アイシクルショット)が触手に放たれる。

 四本の触手が吹き飛んだ。

 開かれた道を和也は進む。脚に力を込めて、速度を上げる。


 近付かれて危機感を感じた魔女は、残りの六本の触手を使ってガードを固めた。

 体の前で触手を交差させ、鉄壁の壁を作り出す。

 そして魔女は、鉄壁の壁を攻撃に転用した。

 鉄壁の壁が和也に迫る。


 ライサンが和也の前に飛び出す。


 「地点(ちてん)弦月(げんげつ)」  

 

 腰を屈め、力を溜めた後、身体を上に跳ね上げた。

 身体のバネを推進力にして、右拳が地面から放たれる。

 ガントレットが六本の触手に叩き込まれた。


 鋼を叩いた音が鳴り響き、六本の触手が大きく揺れた。

 だが、それでも触手のガードは崩れない。


 「まだだ!」


 ライサンが叫んだ。

 空に跳ね上がった身体を、くるっと縦に回転。

 数回転した後、膝を曲げ、グリーヴを前に突き出した。


 「天破(てんぱ)流星脚(りゅうせいきゃく)


 グリーヴが六本の触手に命中。

 ボコッと金属がへこむような音がした後、触手が吹き飛んだ。


 和也は前に躍り出た。

 魔女の真っ赤な瞳と視線を交差させる。

 魔女の瞳は驚愕に見開かれている。


 そして、魔女は邪悪に笑った。

 魔女は口から一本の触手を吐いた。


 これは他の触手とは違い、細く先が鋭い。


 和也は意表を突かれた。

 スピードが乗った体は、急には止まれない。

 グサッと触手が和也の腹に突き刺さる。


 内臓に突き刺さり、和也の口から血液が溢れた。

 魔女まであと二メートルの位置まで接近した所で、和也の体が止まった。

 魔女は勝利を確信し、邪悪な笑い声を上げる。


 そして、次は和也が笑う番だった。

 ニヤッと笑った後、怒りを爆発させる。


 「痛てえんだよ! クソがあッ!!」


 怒声を上げ、前進。

 腹に触手を突き刺したまま、魔女へ近づく。

 普通であれば致命傷の傷も、和也には関係がない。


 体を回復させながら前へ。

 魔女は、今度こそ何も出来なかった。


 目の前の異常者に恐怖する。

 それは、魔女が産まれて初めて感じた感覚であった。

 強者たるこの魔女には、無用と思われていた感覚。


 その感覚に自分自身で驚き、思考が停止する。

 そして、それ以降、思考が機能することはなかった。永遠に。


 魔女の首が刎ねられた。

 首が飛び、体を支える触手は力を失う。

 魔女の体が崩れ落ち、地面に腹を打ち付けた。


 後方に待機していていたルグリとメリラは、信じられないものを見たような顔をしていた。


 「おいおいおい、マジかよ。なんだよこいつら」


 「うっそ、ありえないんですけど」


 ルグリとメリラは呆気に取られている。

 和也達の強さに驚愕する。


 「こりゃあ、正解だったようだな……」


 ルグリは、自分の観察眼に称賛を送る。

 そして、口元を歪め笑顔を作った。すでに癖になってしまった、薄ら笑いを。

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