表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
88/163

第八十七話  夜光の中

 「多分、あんたは誤解しているだろうけど、私達エルフは高潔、清廉を尊ぶ種族だ。そして、他者との関りを最小限にし、日々を慎ましく生きる者達さ。私含め、ユリウスや穴倉の住人は、例外中の例外」


 ヘレナは続ける。


 「そういうこともあって、必然だったんだろうねえ。私とユリウスが出会ったのは。あぶれ者が、あぶれ者と出会う。自然な成り行きさ。私達は不思議と馬が合った。しばらく一緒に、世界を見て回ったりもした」


 懐かしむように、語りは続く。


 「あいつと私で吟遊詩人の真似事をして、日々の身銭を稼ぐ。あいつが演奏し、私が唄う。稼げる時もあれば、からっきしの時もあって、それでもあいつは、いつも楽しそうに笑っていた」


 和也は、ユリウスの様子を頭に思い描いた。

 楽しそうに演奏するユリウスを。


 ヘレナは、煙管に溜まった灰を受け皿に落とし、また喋り出した。


 「そうやって世界を旅したのさ。そして、その時に出会ったんだ。あの男に」


 「あの男?」


 「ああ。有翼族の男。名前は―――、ネフェリオ」


 「なるほど……その時に出会ったのか……」


 「おや? ネフェリオのことを知っているかい?」


 「ええ、まあ」

 

 「そうかい。ならネフェリオの説明は省かせてもらおう。まあもっとも、私はネフェリオのことは良く知らないんだけどね。……それで何故だか、ユリウスはネフェリオに心酔していった。そうしてそのまま、あいつは、ネフェリオに付いて行ったのさ……」


 ヘレナの口調は穏やかであったが、どことなく棘が含まれているように和也は感じた。


 「まあ、結局のところ、私もユリウスのことを理解していなかったのかもしれないねえ。共に過ごした時間はそれなりに長いけど、そうさねえ、あいつの深い部分には、私は触れられなかった。言葉にすると、そんな感じかね」


 「そう……ですか」


 有益な情報を聞けたとは思う。

 だけど、核心には至れなかった。

 ヘレナでさえ、ユリウスのことは掴みきれないと言う。

 それならば、短い付き合いである俺達が、ユリウスを理解するのは無理な話か。


 「だけどねえ」


 ヘレナは、前髪で隠れていない右目で和也を見据える。


 「あいつの楽しそうに音色を奏でる姿、あれこそが、あいつの本当なんじゃないか、と私は思っている。―――だから、少しぐらいは、信じてみても良いのかもしれない。そう思うよ」


 和也は、ヘレナの言葉に頷く。

 それは、和也も思っていたことだったからだ。

 ヘレナからのお墨付きをもらい、和也は安心した。


 「いや、すまない。訂正しよう」


 「訂正?」


 「信じてみても……じゃないね。信じてやってくれないかい? あいつのことを」


 ヘレナの優しい声音が、和也の耳に響いた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 


 和也は、静かな夜の中、一人歩いていた。


 ヘレナから聞いた話を整理しながら、神秘の森を歩く。

 月明かりが夜を薄く照らす。

 月の光が空中を漂う粒子を輝かせ、昼にも増して幻想的な景色が広がっていた。


 しばらく歩いていると宿が見えた。

 四角形で木造の簡素な宿だ。

 宿の壁には魔石灯が掲げられており、暗闇を照らしている。


 和也は、魔石灯の光に吸い寄せられるように、真っ直ぐに歩を進める。

 魔石灯の光の範囲から外れた位置に女が居た。

 その女は、壁に背を預け月を見ている。


 「……起きてたのか、カヤ」


 和也が声を掛けた。

 カヤは唇を尖らせて、拗ねたように言う。


 「どこ行ってたのよ?」


 「……ああ、ちょっと散歩にだよ」


 「嘘ばっか」


 すぐに見抜かれた。まあ、別にいいか。


 「ヘレナさんのところだよ」


 「何で?」


 「うん。ユリウスの昔話を聞きにな。ちょっと興味があって」 


 「変なの。それなら、直接ユリウスに聞けば良いじゃない?」


 「……そうだな」


 それは、ヘレナにも言われた事だ。

 だけど、ヘレナの問いとは意味合いが違う。

 ヘレナは、裏に隠された思惑を暴くために。カヤは純粋に、不思議に思ったから。

 それぞれ和也に質問をした。


 カヤは不思議そうにしている。

 カヤの言葉には裏が無い。言葉に含みを持たせない。

 そういうところは、ライサンと似ている。


 純粋なカヤに、和也は笑みを向ける。


 「今日はもう遅い。中に入って休むとしよう」


 カヤの肩を軽く叩き、和也は宿の扉に手を伸ばす。

 和也の纏う外套が、後ろから引っ張られた。

 カヤが指で外套の裾を引っ張ったのだ。


 「……ねえ、カズヤ」


 「ん?」


 「もっと私を頼ってよ。私ってそんなに頼りないかな?」


 「……いや、そんなことはないさ。頼りにしてい―――」


 和也が言葉を言い終わる前に、カヤが和也に抱きついた。

 後ろから、和也の腰に両腕を回す。


 「私、カズヤを見てるって言ったよ。約束したんだから。だから、もっと見せてよ。もっと話してよ。もっと頼ってよ。」


 静かに言うカヤの声には、確かに熱がこもっていた。

 和也はカヤの腕を優しく振りほどき、カヤの方を向いた。

 

 独断専行は俺の悪い癖だな。


 「すまない。確かにカヤの言う通りだ。反省するよ」


 すると、カヤは顔を綻ばせ、嬉しそうに言った。


 「そうよ! 反省すべきだわ! カズヤ、良いこと? 私は、貴方の力になってみせる!」


 「あ、ありがとう」


 力強いカヤに気圧される。

 嬉しかった。こうも純粋に気持ちをぶつけられては、流石に悪い気はしない。


 そして和也は、ふと思った。

 カヤは、俺が宿に居ないことをどうやって知り得たのだろう?

 普通に考えれば、俺の部屋に訪れて、俺が居ないことに気付いたのだろう。


 だけど……。


 和也には不可解だった。以前から思っていたことだ。

 だから、和也はカヤに質問してみることにした。


 そして、カヤは口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ