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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第八十六話  支払うべき物は

 この世界には、二つの面が存在する。


 小奇麗な建前と薄汚い本音。

 輝かしい大通りと日の当たらぬ路地裏。

 規律と怠惰。秩序と無秩序。

 光と闇。表と裏。


 そして穴倉は、エルフの郷レガリア・カリアスの裏の部分である。


 地下深くに存在するそこは、裏に生きる者達の集いの場。

 和也達は、ヘレナに導かれ穴倉へと至った。


 和也は注意深く周囲の様子を窺う。

 それなりに広い空間だが、天井は低く、圧迫感を感じる。

 壁に掛けられた魔石灯は僅かであり、薄暗い。


 床は舗装されておらず、土が剥き出しになっている。

 簡素な木製の机と椅子がまばらに置かれ、エルフ達がひそひそと語らっている。

 人数は十人前後。空席が目立つ。


 ヘレナはゆったりとした歩調で、隅の席へ近づく。


 「調子はどうだい? クズども」


 ヘレナの挨拶に反応したのは、席に座る二人のエルフ。


 「おいおい、いきなりご挨拶だな」


 最初に反応したのは、長い髪をした、瘦せ細った男のエルフ。

 濁った目をして、薄ら笑いを浮かべている。

 ボロボロの緑の衣装を纏っており、見すぼらしい雰囲気が拭えない。


 「キャハハ! いきなり酷いじゃん」


 次に反応したのは、ショートヘアの女のエルフ。

 派手な化粧をして、軽薄そうな態度。

 幾らか身なりは小奇麗だが、清潔さはあまり感じられない。


 「ふん。元気そうだね、ルグリ、メリラ」


 ルグリと呼ばれた、薄ら笑いの男が返事する。

 

「キヒヒヒ、まあ、ボチボチやってるよ。……で、大所帯で何事だ?」


 「こいつらは、私のクライアントさ」


 ルグリの濁った目が、和也達を値踏みする。


 「なほどなあ……で、何の用だ?」


 「アンタらなら、何か情報を持っているんじゃないかと思ってね。東の国のゴタゴタは、アンタらの得意分野だろう?」


 「キャハハ! うけるんですけど!」 


 「キヒヒ! ああ、傑作だ!」


 厭らしい笑い声を上げるルグリとメリラ。


 ヘレナは、怪訝な顔をして問い掛けた。


 「何が可笑しい?」


 「何が可笑しいかって? そりゃあ可笑しいさ。だってそうだろう? それは、本当に東の国の話なのかい?」


 「どういう意味だい?」


 ルグリは問いに答えず、椅子を揺すりながら薄ら笑いを浮かべる。

 ヘレナは痺れを切らし、怒声を上げた。


 「おい! どういう―――」


 「待ってください」


 和也がヘレナを手で制止して、ルグリに言う。


 「それはつまり、事の問題は東ではなく、この国で起きているという事でしょう?」


 ルグリは和也の発言に、より一層、笑みを深くする。


 「キヒ。悪いけど、これ以上は答えられない。ここから先は、対価が必要だ」


 ……こいつ、何かを知っているな。

 それとも、これはブラフなのか。


 思わせぶりな発言につられ、いざ対価を支払ったら最後。カス情報を掴まされる。

 そういう可能性もあり得る。


 和也は、ヘレナとユリウスの様子を窺った。

 ユリウスは目深にフードを被り、後方で沈黙している。

 ヘレナは眉間に皺をよせて、腕を組んで不機嫌そうだ。

 カヤは大人しくしているが、ライサンが横に張り付いてしっかり監視している。


 ヘレナと目が合った。

 ヘレナは和也に頷く。

 ここから先は、ヘレナに任した方が良さそうだ。


 「良いだろう。幾ら必要だい?」


 「そうだなあ。この情報の価値は大きい。それなりに値は張る……と言いたいところだが」


 「なんだい?」


 「今欲しいのは金じゃないのさ。見たところ、アンタら腕が立ちそうだ。協力してくれるかい? 迷宮の奥にある、聖者の雫石を手に入れることにさ」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 この世界には、人智を越えた神秘が存在する。 

 ダンジョンもその一つだ。


 凶悪な怪物が蔓延り、自然の罠が張り巡らされた危険地帯。

 そして、ダンジョンには往々にして、希少な宝が眠るという。

 

 ルグリとメリラは、その宝を欲している。

 そのため、危険なダンジョン探索の同行を要求してきたのだ。


 和也達は、その要求を呑んだ。

 荒事ならそれなりに自信がある。

 持ち合わせの少ない和也達にとっては、寧ろありがたい申し出であった。


 和也は、柔らかいクッションが敷かれたベットに寝そべり、天井を見つめる。


 ここは、エルフの郷の宿屋。


 この郷に結界がある以上、旅の者は殆どいない。

 それでも、ユリウスのように定住地を定めずに、さすらうエルフ達も存在する。

 だから、需要は少ないがゼロではないのだ。

 

 決して豪華とは言えない宿屋だが、不満は感じない。

 この世界に来て、だいぶ逞しくなったと自分でも思う。

 雨風がしのげて柔らかいベットがあれば、もう言う事はない。


 和也は、部屋で一人、深く溜息を吐く。


 「随分、遠い所まで来てしまったな……」


 今更ながらに、実感が湧いてくる。

 マカリステラ、ジェノ海洋国家連合、エルフの郷と、短期間で三か国を訪れた。

 どこの国も趣があって、とても刺激を受けた。

 惜しむらくは、どの国も観光で訪れた訳ではないことだ。

 

 ただ純粋に観光を楽しめないことが、心から悔やまれる。

 今まで溜まりに溜まった、色々なことが溢れてくる。


 感情の波に溺れそうだ。

 それと同時に、強い倦怠感と眠気に襲われる。


 この波に身を任せ、今日は意識を失ってしまおうか。

 誘惑に囚われそうなるが、和也は両手で自分の頬を叩き、活を入れた。


 ベットから起き上がり、軽くストレッチをする。

 そして、軋む木の床を踏みしめながら、部屋の扉に近付いた。


 そっと扉を開けて、和也は歩き始める。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 


 コンコンと扉をノックする。

 静かな夜にノックの音が響く。


 「誰だい?」


 部屋の主から反応があった。

 和也は、軽く咳払いし返事をする。


 「俺です。和也です。夜分遅くにすみません。少し良いでしょうか?」


 しばらくの間の後、返事があった。


 「……入りな」


 和也は取っ手に手を掛けて、静かに扉を開く。

 薄暗い空間をゆっくりと進む。

 最初にこの部屋を訪れた時と同じ位置に、ヘレナは座っていた。


 煙の臭いが鼻を刺激する。

 ヘレナの口から煙の線が吐き出される。煙の線は、次第に広がり空を漂う。


 「悪いけど、私は娼婦じゃないんでね。そのつもりなら帰んな」


 「なっ! い、いや! 違いますよ!」


 「冗談だよ。とりあえず座りな」


 和也は心の中で舌打ちをする。

 しまった。乗っけからペースを握られてしまった。


 設置されている椅子に座り、心を落ち着ける。


 「それで? 何の用だい?」


 「はい。ユリウスのことです。ヘレナさんは、ユリウスとは昔からの知り合いなんですよね? あいつに関して、知っていることを教えてください」


 「なんだい。変な子だねえ。それなら直接、本人に訊けば良いじゃないか」


 「それは……」


 それはその通りだ。

 だけど……。


 「信用出来ないかい? あいつが?」


 和也は言葉に詰まる。

 そうなのかもしれない。でも、それだけではない。


 「それもあります。でも、あいつのことを信頼したいと思う自分も居ます。だから、俺は知りたいんです。あいつのことを」


 「……ふん。良いだろう。それじゃあ、これは追加依頼ということにしておこう」


 「ありがとうございます」


 「礼なんて要らないさ。対価を頂ければね」 


 「……持ち合わせはありません」


 「なんだい、それじゃあ話にならない」


 その瞬間、和也の体が碧の輝きに包まれる。

 眩い輝きが、薄暗い部屋を照らす。


 「情報には情報で。俺は、俺の情報を貴方に提供します。その見返りとして、ユリウスの情報をください」


 「……驚いたねえ、これは……」


 ヘレナは目を見張り、碧の輝きを見つめる。


 無言の時間が流れた後、ヘレナは軽く咳払いをした。


 「驚いたよ。あんたには大いに興味はあるけど、あんた達からは、すでに十分すぎる程の対価は頂いている。それには及ばないよ」


 ヘレナは魔石を取り出して和也に見せつける。それは、ユリウスが差し出したドライアドの魔石だ。

 

 「えっ?」


 「あんた、素直だねえ。もう少し粘ることを覚えな。時として、情報は金より価値があるよ」


 しまった。またやられた。

 交渉術は相手の方が上手だ。


 「勉強になります」


 「よろしい」


 そうして、ヘレナは話し始めた。

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