第八十三話 小さな一員
大勢の木人が地面から現れる。
ユリウスは正面突破を避けて、左側へ逸れることを選択。
そして目の前に一体、木人が現れるが、即座にレイピアで粉砕する。
「まずいですね……」
木人の出現頻度が高い。
樹木の精霊は我々を逃がすつもりはないようだ。絶対に逃がさない、という強い意志を感じる。
一体何故、我々にこれほど執着するのか。
ユリウスにはその答えが分かっていた。
和也だ。
敵は和也を狙っている。
敵は、和也が持つ神の力、碧の輝きに魅入られている。
何としても神の力を手に入れる。
そういった執念を感じる。
そして、また前方から木人が大勢出現。
「しつこいですね」
ユリウスは余裕の表情を作るが、頭では必死に思考を巡らせる。
既に半日以上森の中を駆けている。
流石にパーティーに疲れが見え始めている。
目的地までは、まだ少し距離がある。
夜になっても敵の追跡が止むことはないだろう。
このままでは、こちらの体力が持たない。
さて、どうするか。
「ユリウス」
横から名前を呼ばれた。
その方向へ視線を移すと和也の姿があった。
ユリウスは、余裕の笑みを浮かべて問いかける。
「おや? どうされました?」
「今の状況を教えてくれ」
ユリウスの顔から笑みが消える。
「……鋭いですね」
「やっぱり、まずい状況か?」
「ええ、率直に言ってまずいかと。このままでは、我々の体力が尽きてしまいます」
「……」
黙る和也。
ユリウスは視線を前に戻して考える。
情報を共有したは良いが、この局面を覆すのは難しいだろう。
そもそも、敵に有利な条件が揃いすぎている。
樹木の精霊は森と一体化している。
森と感覚を共有することで、途轍もない索敵能力の高さを有する。
加えて、自然エネルギーを取り込むことで、無限に眷属を生み出す凶悪な能力。
広大な森を隠れ蓑にして、気配を完全に断つ狡猾さ。
これまで森に踏み込んだ大勢の獲物を仕留めて来た、この森の絶対強者。
思案するユリウスへ和也が声を掛ける。
「俺に案がある」
そう言った後、和也は意識を集中した。
天空の宮殿ウラノス。
「ふんふんふんふ~ん」
イーリスは上機嫌で鼻歌を歌っていた。
食堂の机上には、湯気の上がるハルモニア茶。
その横には、皿に乗るふわふわ生地のケーキ。
イーリスはケーキに甘い蜜を大量にかけて、ニッコリと笑みを浮かべる。
「これなのですよ、これこれ」
このケーキと甘い蜜は、エイナから貰ったものだ。
ソルランド王国の獣人の居住区画への物流が大幅に改善したことで、様々な物資が入ってくるようになった。
この甘未と調味料もその一つだ。
イーリスはエイナに感謝を捧げた。
「頂きま~す」
と、口を大きく開けて、手づかみでケーキを口に運ぶ。
その時、頭の中で声が響いた。
「イーリス! 聞こえるか!?」
イーリスは思わず飛び上がった。
「は、はひっ!」
イーリスが慌てたのには理由がある。
甘い蜜を大量に掛けたイーリススペシャルは、常々、和也から注意を受けていた。
体に悪いから程々にしておけよ、と。
マスターの目を盗んで豪遊していた訳だが、そのマスターから突然の通信。
まさか、悪事がばれたか。
と、一瞬だけ焦るが、すぐに冷静さを取り戻す。
流石にそんなわけないだろう。
イーリスはケーキを飲み込んで返事をする。
「こ、こちらイーリス! どうしたのです?」
「ああ、突然すまない。頼みたいことがある」
和也はイーリスに今の状況を伝えた。
樹木の精霊と遭遇し戦闘中。
このままでは、体力と魔力が持たない。
「そ、それは大変なのです!」
「そうだ。だから頼む、俺の意識とリンクし、樹木の精霊の敵意を逆探知してくれ」
「了解なのです!」
イーリスは残されたケーキを丸呑みし、ハルモニア茶で一気に胃に流し込んだ。
その後、マスターと意識のパスを繋げる。
すぐに繋がった。
頭の中に碧の道筋が浮かぶ。
道筋を辿り、最も輝きの濃い場所に接触。
ここが和也の意識の中枢。
この中枢から、敵の悪意を読み取る。
あった。
すぐに見つけた。
赤黒い、悪意の感情。
「……これは」
悪意に混じって執着と呼べる、燃えるような赤い感情。
これだけ感情の色が濃いのならば、辿るのは容易い。
イーリスは、頭にあるイメージをそのまま和也に伝えた。
「カズヤさん!」
和也の目の前に迫った指先を、ユリウスがレイピアで突き刺す。
指先は脆く崩れ落ちる。
和也は、ユリウスに名を呼ばれ意識を引き戻す。
「ありがとう、ユリウス」
「一体どうされたのですか? 突然、呆けたように」
「すまない。だけど、道は開けた」
和也はニヤッと笑い、パーティーに向かって叫んだ。
「皆! イーリスが敵の大元を突き止めた! 俺についてきてくれ!」
「やるな! ちびっこ!」
「アハハッ! 戻ったら沢山、褒めてあげるからね! イーリス!」
ユリウスは、パーティーの雰囲気が変わったとに驚く。
皆、顔が明るくなり、瞳に希望の色が灯る。
そして理解した。
あの小さな少女も、間違いなくパーティーの一員なのだ。
戦う場所は違っても、同じ方向を向いて一緒に戦っている。
ユリウスはフッと息を吐くように笑い、和也に先導を譲ることにした。
「カズヤさん! ここから先は、貴方に託します!」




