第八十二話 若人のために
木人の細長い腕が、真っ直ぐに胸の高さまで持ち上がる。
細い腕の先には、先が尖った細い指。
その指先が伸び、ユリウスに襲い掛かる。
ユリウスは、伸びた五本の指先を躱し、レイピアの連撃を放つ。
正確に突き出されたレイピアは、指を次々に破壊。
その後、ユリウスは木人の方へ疾走。
木人のもう一方の指先が伸びて迫ってくるが、それも鮮やかに躱し、レイピアを思いっきり木人の胸に突き入れた。
木人の胸に穴が開く。
続けざまに木人の顔にレイピアを突き入れ、顔にも穴を穿つ。
胸と顔を穿たれた木人は、ボロボロと崩れ落ちた。
木人単体は、そう脅威ではない。
攻撃は速くないし、耐久力は低い。ダメージを与えれば、脆く崩れ落ちる。
ユリウスが周囲を見回すと、木人達は全て崩れ落ちていた。
流石です。
ユリウスは仲間達に称賛を送る。
しかし。
再び地面が盛り上がり、また木人達が現れた。
木人は樹木の精霊の眷属にすぎない。
大元である樹木の精霊を撃破しなければ、無限に眷属が湧いてくる。
広大なドリュアスの森から無尽蔵にエネルギーを取り込む樹木の精霊は、自身の尖兵を幾らでも作り出すことが出来る。
樹木の精霊を見つけ出し、討ち滅ぼさなければ、いずれこちらの力が尽きる。
「ユリウス! こいつらの本体はどこだ!?」
和也は敵の攻撃を躱しながら、ユリウスに叫ぶ。
流石ですね。
もう敵の本質を見抜くとは。
そう、目の前の敵をどれだけ倒しても意味がない。
そして、和也が問う大元の居場所。それこそが、敵の最も厄介な特性。
樹木の精霊は自然と同化し気配を遮断する。
気配を辿ることは不可能。
つまり、手当たり次第に広大な森を探さなければならない。
「分かりません! どこかに潜んでいる筈ですが、気配を辿ることは難しい!」
ユリウスの答えに、他の三人は戸惑いを見せる。
樹木の精霊と接触した場合、森の外へ逃げ出すのがセオリー。
だが、すでに森の深部まで進んでいる。
ならば、このままゴールを目指す。
「このまま進みます! 皆さん、私についてきてください!」
ユリウスの言葉を聞いて、他三人は一斉に頷く。
ユリウスが先に駆け出し、他三人は後に続く。
逃げ出すユリウス達に、一斉に木人の指先が迫る。
「はあッ!」
しんがりを務めるライサンが、腰を捻り回転蹴りを繰り出す。
複数の指先は脛当てに迎撃され、散り散りに破片を巻き散らす。
左右から突然、現れる木人。
左をカヤが金棒で破壊し、右を和也が剣で斬り裂く。
ユリウスはチラッと後方に目をやり、仲間の戦いぶりを確認する。
いける。このパーティーならば、問題はない。
そして同時に考える。
樹木の精霊のことは警戒していた。
故に、樹木の精霊の縄張りを避けて森を進んでいたのだ。
それなのに何故、見つかったのか。
思考を巡らし、そして思いつく。
黒犬が出現したあの遺跡か。
あの遺跡は樹木の精霊の縄張りではない筈だが、思えば、妙なことが起きていた。
遺跡に張り巡らされた術式の気配。あれは、樹木の精霊の仕業か。
コボルト達を唆し、黒犬の復活を企んだ。
結果的にそれは成功した訳だが、黒犬は直ぐに滅ぼされた。
森に踏み込んだ一人の人間によって。
樹木の精霊はその人間を脅威と捉えた。
その結果、今こうして、人間とその仲間を排除しようとしている。
しかし何故、樹木の精霊は黒犬の復活を企んだ?
自然に考えるのならば、戦力が必要だったから。
しかし何故、そのような戦力が必要なのだ?
分からない。
この森で何かが起ころうとしている。
ユリウスはそこで思考を止める。
目の前に木人が大量に現れた。その数、二十体。
「氷柱の七重奏」
即座に魔術を発動し、七体撃破。
「輝く矢」
和也が魔術を放つ。輝く矢は三体を串刺しにした。
残り十体。
十体の指先が一斉に伸びる。
ユリウスの前に躍り出る紅い影。
カヤは金棒を振る。
金棒の乱舞。
全ての指先を叩き落し、木人に向かって跳ねる。
「どっせい!」
その掛け声と共に、次々に木人を粉砕する。
ボロボロと崩れ落ちる木人達。
カヤは十体の木人を一人で粉砕し、和也達の方を向き「ブイ」といって指でピース。
得意げなカヤの後方から、新たな木人が出現。
和也が叫ぶ。
「カヤ! 後ろだ!」
カヤはニヤッと笑い、身を翻す。
「大丈夫!」
身を翻した勢いそのまま、金棒を水平に振るう。
木片が弾ける音と共に、木人の体が粉砕される。
カヤはまた和也達の方を向き、ウインクする。
「ねっ! 大丈夫!」
「……ったく」
和也は呆れたように嘆息するが、その口元には笑みが浮かんでいた。
ユリウスは感じた。
カヤの雰囲気が変わった。
憑き物が落ちたように、邪悪な気配が消えている。
まだ油断するきらいはあるが、以前あった危うさが鳴りを潜めている。
面白いものです。
若人の成長に目を見張る。
それは、自分にはないものだ。
森人族として悠久の時を生きる自分には、とうに失われたもの。
懐かしき輝きに触れ、眩しさと希望、そして哀愁を覚える。
「では、私は若人のために、道を切り開くとしましょう」
レイピアを構え、力強く踏み出した。




