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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第八十二話  若人のために

 木人の細長い腕が、真っ直ぐに胸の高さまで持ち上がる。

 

 細い腕の先には、先が尖った細い指。

 その指先が伸び、ユリウスに襲い掛かる。


 ユリウスは、伸びた五本の指先を躱し、レイピアの連撃を放つ。

 正確に突き出されたレイピアは、指を次々に破壊。


 その後、ユリウスは木人の方へ疾走。


 木人のもう一方の指先が伸びて迫ってくるが、それも鮮やかに躱し、レイピアを思いっきり木人の胸に突き入れた。


 木人の胸に穴が開く。

 続けざまに木人の顔にレイピアを突き入れ、顔にも穴を穿つ。


 胸と顔を穿たれた木人は、ボロボロと崩れ落ちた。


 木人単体は、そう脅威ではない。

 攻撃は速くないし、耐久力は低い。ダメージを与えれば、脆く崩れ落ちる。


 ユリウスが周囲を見回すと、木人達は全て崩れ落ちていた。


 流石です。


 ユリウスは仲間達に称賛を送る。


 しかし。


 再び地面が盛り上がり、また木人達が現れた。



 木人は樹木の精霊(ドライアド)の眷属にすぎない。

 大元である樹木の精霊(ドライアド)を撃破しなければ、無限に眷属が湧いてくる。


 広大なドリュアスの森から無尽蔵にエネルギーを取り込む樹木の精霊(ドライアド)は、自身の尖兵を幾らでも作り出すことが出来る。


 樹木の精霊を見つけ出し、討ち滅ぼさなければ、いずれこちらの力が尽きる。


 「ユリウス! こいつらの本体はどこだ!?」


 和也は敵の攻撃を躱しながら、ユリウスに叫ぶ。


 流石ですね。

 もう敵の本質を見抜くとは。

 そう、目の前の敵をどれだけ倒しても意味がない。

 

 そして、和也が問う大元の居場所。それこそが、敵の最も厄介な特性。


 樹木の精霊は自然と同化し気配を遮断する。

 気配を辿ることは不可能。

 つまり、手当たり次第に広大な森を探さなければならない。


 「分かりません! どこかに潜んでいる筈ですが、気配を辿ることは難しい!」


 ユリウスの答えに、他の三人は戸惑いを見せる。


 樹木の精霊と接触した場合、森の外へ逃げ出すのがセオリー。

 だが、すでに森の深部まで進んでいる。

 ならば、このままゴールを目指す。


 「このまま進みます! 皆さん、私についてきてください!」


 ユリウスの言葉を聞いて、他三人は一斉に頷く。

 ユリウスが先に駆け出し、他三人は後に続く。


 逃げ出すユリウス達に、一斉に木人の指先が迫る。


 「はあッ!」


 しんがりを務めるライサンが、腰を捻り回転蹴りを繰り出す。

 複数の指先は脛当て(グリーヴ)に迎撃され、散り散りに破片を巻き散らす。

 

 左右から突然、現れる木人。

 左をカヤが金棒で破壊し、右を和也が剣で斬り裂く。


 ユリウスはチラッと後方に目をやり、仲間の戦いぶりを確認する。

 いける。このパーティーならば、問題はない。


 そして同時に考える。


 樹木の精霊のことは警戒していた。

 故に、樹木の精霊の縄張りを避けて森を進んでいたのだ。

 それなのに何故、見つかったのか。

 

 思考を巡らし、そして思いつく。

 黒犬が出現したあの遺跡か。

 あの遺跡は樹木の精霊の縄張りではない筈だが、思えば、妙なことが起きていた。


 遺跡に張り巡らされた術式の気配。あれは、樹木の精霊の仕業か。

 コボルト達を唆し、黒犬の復活を企んだ。


 結果的にそれは成功した訳だが、黒犬は直ぐに滅ぼされた。

 森に踏み込んだ一人の人間によって。


 樹木の精霊はその人間を脅威と捉えた。

 その結果、今こうして、人間とその仲間を排除しようとしている。

 

 しかし何故、樹木の精霊は黒犬の復活を企んだ?

 自然に考えるのならば、戦力が必要だったから。

 しかし何故、そのような戦力が必要なのだ?

 分からない。

 この森で何かが起ころうとしている。


 ユリウスはそこで思考を止める。


 目の前に木人が大量に現れた。その数、二十体。


 「氷柱の(セプテット・)七重奏(アイシクルショット)


 即座に魔術を発動し、七体撃破。


 「輝く矢(グローイング・アロー)


 和也が魔術を放つ。輝く矢は三体を串刺しにした。


 残り十体。

 十体の指先が一斉に伸びる。


 ユリウスの前に躍り出る紅い影。


 カヤは金棒を振る。

 金棒の乱舞。


 全ての指先を叩き落し、木人に向かって跳ねる。


 「どっせい!」


 その掛け声と共に、次々に木人を粉砕する。

 ボロボロと崩れ落ちる木人達。

 カヤは十体の木人を一人で粉砕し、和也達の方を向き「ブイ」といって指でピース。


 得意げなカヤの後方から、新たな木人が出現。

 和也が叫ぶ。


 「カヤ! 後ろだ!」


 カヤはニヤッと笑い、身を翻す。

 

 「大丈夫!」


 身を翻した勢いそのまま、金棒を水平に振るう。

 木片が弾ける音と共に、木人の体が粉砕される。


 カヤはまた和也達の方を向き、ウインクする。


 「ねっ! 大丈夫!」


 「……ったく」


 和也は呆れたように嘆息するが、その口元には笑みが浮かんでいた。


 ユリウスは感じた。

 

 カヤの雰囲気が変わった。

 憑き物が落ちたように、邪悪な気配が消えている。

 まだ油断するきらいはあるが、以前あった危うさが鳴りを潜めている。

 

 面白いものです。


 若人の成長に目を見張る。

 それは、自分にはないものだ。

 森人族として悠久の時を生きる自分には、とうに失われたもの。


 懐かしき輝きに触れ、眩しさと希望、そして哀愁を覚える。


 「では、私は若人のために、道を切り開くとしましょう」


 レイピアを構え、力強く踏み出した。

 

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