第八十一話 疾走
和也達は大森林を疾走する。
四人共、武器を構えながら森を駆け抜ける。
ライサンの犬耳がピクッと反応。
「前方から来るぞ! カヤ!」
ライサンが叫んだ直後、カヤの前方の地面がボコッと盛り上がる。
土を巻き散らし、緑色の太いツタが地面から現れる。
ライサンの忠告を受け、迎え撃つ準備をしていたカヤは、即座に金棒を振り抜いた。
ツタは金棒に振り抜かれ、真っ二つに千切れた。
カヤは、勢いを落とさずにそのまま駆け抜ける。
他の三人も、カヤがツタを迎撃したことを横目に確認し、止まらず駆け抜ける。
ライサンがまた叫ぶ。
「次! カズヤとユリウス! また前方からだ!」
先程と同様に、緑色の太いツタが和也とユリウスの前方の地面から現れる。
和也は剣を水平に斬りつける。
ユリウスは、レイピアを一瞬の内に四度突き入れた。
ツタはあっと言う間に千切れ、無力化に成功。
和也とユリウスは、殆ど止まることなく駆け抜ける。
ユリウスが帽子を手で押さえながら叫んだ。
「もうすぐです! 皆さん、注意してください!」
ユリウスの警告に、他の三人は気を引き締める。
そして、少し開けた場所に出た。
目に飛び込んで来たものは、真っ赤な花弁。
半径五メートル程の巨大で分厚い花弁。
真っ赤な花弁には、紫と黄色の模様が浮かび、花弁の根元に無数のツタが蠢いている。
和也は、ユリウスから聞かされていた情報と照合する。
黒犬を撃破した翌日、夜が明けて出発した和也達。
森を進んでいる際に、突然、緑の太いツタが地面から出現。
出現したツタを和也達は苦も無く撃退。
その後、ユリウスがその怪物について説明をした。
その正体は植物の怪物。
ツタを幾ら斬り捨ててもキリがない。
本体を叩かなければ、ツタの猛攻は終わらない。
その本体が今、目の前に居る。
赤い花弁の追跡者
無数のツタで、縄張りに足を踏み入れた獲物をどこまでも追いかける、赤き捕食者。
無数のツタが一斉に和也達を襲う。
鋭いツタの先には、強力な神経毒。
ツタに刺されれば最後。心臓が麻痺し、数分の後に死に至る。
和也達はツタを華麗に躱す。斬り落とす。叩き落す。突き落とす。殴り落とす。
全てのツタを排除することに成功。
赤い花が激しく蠢いた。ツタを全て失い、怒りを露わにしている。
赤い花の中央部、獣の牙が合わさったような形をした部位が開いた。
その部位から、上空に向け大量に何かを放った。
それは、硬質な緑色の弾。人の拳ほどの大きさの緑弾が、大量に空に打ち上げられる。
ライサンが目を見開き、叫ぶ。
「まずい! 降ってくるぞ!!」
緑弾は上空で爆ぜた。全ての縁弾が爆ぜ、上空で爆音が轟く。
縁弾の破片が地に降り注ぐ。
爆発のエネルギーを受け、途轍もない速度で緑の破片が降る。大気を切る高い音が鳴り響く。
大量に降り注ぐ破片を、全て躱すのは不可能。
和也は神意を発動して叫ぶ。
「全員、俺の近くへ集まれ!!」
仲間が破片のダメージを受けても即座に回復できるように、なるべく自分の近くへ集める。
和也以外の三人は、即座に和也の指示に従った。
和也の近くに集まり、防御の構えを取る。
破片が背の高い樹木を抉り、穴をあける。
破片はそれでも尚、威力を落とさずに和也達に降り注ぐ。
「咲き誇る水流の花冠」
ユリウスがレイピアの先を上空に向け、魔術を放った。
渦を巻く水の花弁が大量に咲き誇る。
水の花弁は、ユリウス達の上空に咲き誇り、破片から身を守る盾となる。
破片は、激しく渦を巻く花弁に飲み込まれ、砕け散る。
やがて、緑の破片の雨が止み、和也が飛び出した。
「ありがとう! ユリウス!」
ユリウスの技量に驚きつつ、一先ず感謝を述べる。
ユリウスのお陰で瞬時に攻撃に移れる。
剣の間合いに、赤い花を捉える。
剣を下段に構え、力を溜める。
その時、赤い花が大きく揺れた。
プシューと音を立て、花の中央部から紫の粒子が飛散する。
それは、毒の粒子だ。
どんなに強靭な怪物であろうと、一呼吸で必ず死に至る、猛毒の霧。
和也は毒霧を全身に浴びる。
赤い花の姿をした怪物は、勝利を確信した。
獲物はすぐに動かなくなり、その後は緩やかに死んでいくだろう。
そうやって、数えきれないほど獲物を屠ってきた。
これで無事だった者は存在しない。
赤い花は勝ち誇る。
赤い花弁が、半分に別たれていることに気付かずに。
どれ程の猛毒であろうと、和也には関係がない。
碧の輝きを纏い、一撃で怪物を両断。
両断された赤い花弁は、瞬時に枯れ果てて動かなくなった。
「素晴らしい……」
ユリウスの口から、思わず声が漏れた。
ユリウスは、碧色の瞳を輝かせる。
これが、噂に聞く神力の行使者か。
驚くべき強さ、恐ろしいまでの才能。
魔力操作、戦闘での立ち回り、状況把握と判断力、すべてが一級品。
修羅場を潜り抜け磨き上げられた和也の戦闘力は、神の領域に踏み込みつつある。
ユリウスは心の中で和也に称賛を送り、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「素晴らしいですよ、ネフェリオ様」
ユリウスから少し離れた位置で、ライサンとカヤが和也を称える。
「流石だな、カズヤ」
「もう! かっこいいじゃない!」
和也を褒めながら、和也の背中をバンバン叩くライサンとカヤ。
「いや、皆のフォローがあったからさ」
「謙遜は必要ないぞ!」
「そうよ! 照れちゃって!」
「い、いや、ホントに……って、痛いって!」
さっきからずーっと背中を叩かれている。しかも割と強めに。
「ハハハハッ!」
「アハハハッ!」
大口を開けて笑うライサンとカヤ。
こいつら……ワザとなのか? そんなんだろ? そうだよな?
和也が抗議しようとしたその時、ユリウスが静かに近づいてきた。
「こうもあっさりと赤い花弁の追跡者を退治するとは、驚きました。あれは、この森の強者。並みのパーティーでは手も足も出ないでしょう。このユリウス、感服致しました」
ユリウスはそう言って、胸に手を当て腰を曲げる。
和也はそんなユリウスを見てクスッと笑う。
相変わらず芝居がかった態度。物腰丁寧だが、真意の読み取りにくい森人族。
だが、そんなユリウスに助けられたのは事実。
「ありがとうユリウス。助かったよ」
和也に続き、ライサンとカヤもユリウスに謝辞を送る。
「うむ。ユリウスよ、お前の魔術と剣術には助けられた」
「ほんとにすごいわ! あのブワーッてなってグルンってなる魔術!」
「皆さん……。お褒め頂き光栄の至り。ああ、かつてこれ程の充足感を味わったことがありましょうか!? 良き隣人に巡り合えた! 神よ! この導きに感謝します!」
ユリウスは片膝を付き、両手を広げ祈りを捧げる。
「だから、大袈裟だって」
和也は冷静にツッコミを入れる。
そのツッコミで笑いが訪れた。
「アハハッ。カズヤったら冷静過ぎ。ていうかユリウスも何よそれ。面白いわ!」
「流石だカズヤ。絶妙の間だった。うーむ、俺も精進が足りんな」
「いやはや、お恥ずかしい」
空気が和む。
思えば、このパーティーでこれほど空気が緩んだのは初めてなんじゃないだろうか。
和也は思う。これは良い兆候だと。
そして、そんな緩んだ空気が、再び張り詰めた。
地面が突然盛り上がり、土の中から何かが飛び出した。
その者の瞳は、宝石のように緑に輝いている。白目は無く、緑一色の瞳だ。
手足があり、頭が一つ。ひょろりとした体系。人型ではあるが、確実に人間ではない。
全身灰色で、その表面には木目が浮かぶ。
まるで、枯れ木が人の形を取ったような姿。
その木人が八体、地面から現れた。木人達は、和也達を取り囲む。
和也がユリウスに問う。
「ユリウス、こいつらは何だ?」
「……」
「ユリウス?」
ユリウスは木人達を警戒したまま、和也達に告げる。
「まずいですね……」
神妙な顔をして、レイピアを抜く。
「彼らは樹木の精霊。この森の主です」




