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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第七十八話  眠れる獣

 森の中に開けた場所があった。


 朽ち果てた遺跡がひっそりと存在し、本来の用途は失われて久しい。

 遺跡の周囲で蠢く者達がいる。

 その者達―――、コボルトの集団は準備を進めていた。


 何の意味があるのか、石を積み上げ、動物の血液で木々に模様を描く。

 口から長い舌を出し、意思の読み取れない濁った目で、淡々と作業を続ける。


 コボルト達を観察しながら、カヤは思う。


 ……退屈ね。


 カヤは自由の利かない自分の状態を、もう一度確認する。

 遺跡に背を向けた状態で、地面に打ち付けられた杭に、縄で体を縛られている。

 体に何重にも縄を巻きつけられ、ちょっとやそっとじゃびくともしない。


 カヤは早くも後悔した。

 自分の選択を。


 森でコボルト達を撃退したあとのことを思い返す。

 伏兵が白煙を放った後、白煙に紛れ、コボルトがカヤに接近してきた。

 カヤは金棒で叩きのめすつもりであったし、実際出来た筈だ。


 だが、カヤはその時、思いついてしまった。

 敢えてコボルトの好きにさせてみるのも面白いかもしれない、と。


 そうすれば、何か面白いことが起きる気がした。

 だから、敢えて抵抗せず、コボルトに攫われることにした。


 コボルトに担がれて到着した場所は、石が台形に積み上げられた謎の遺跡。

 初めて見る物に最初こそ興奮したが、すぐに飽きてしまった。


 遺跡は動くことも変化することもない。

 コボルト達も、黙々と作業をこなすだけ。


 「ふあぁ~」


 と、大きなあくびが出てしまった。

 瞼も重くなり、眠気が襲ってくる。


 身動きできない状況だというのに、まるで緊張感の無いカヤ。

 

 このまま寝てしまおうかと考えたが、流石にそれはまずいか、と思い止まる。

 見飽きたコボルト達の行動。退屈だが、惰眠を貪ることも出来ない。


 何もすることがない状態。

 であれば、カヤの取る行動は一つしかなかった。


 「じゃあ、やるとしますか」


 カヤは、白く輝く己のツノに意識を向ける。

 すぐに魔力の供給が始まる。

 膨大な魔力が体に巡る。


 体に力を入れる。


 「フンッ!」


 掛け声と共に、何重にも巻かれた縄がブチッと音を立て千切れた。


 「ギエッ!?」


 「ギエエッ!!」


 「ギエッギッ!」


 拘束していた筈の獲物の行動に度肝を抜かれ、コボルト達が一斉に騒ぎ出す。


 カヤはすぐに動いた。

 まず、近くにいたコボルトの頭を拳で吹き飛ばす。

 間髪入れず、別のコボルトの首を掴み、思いっきり投げ飛ばした。

 ビュンと言う風を切る音が鳴り、数体のコボルトを巻き込みながら大木に衝突。

 ベチャと大木に叩きつけられ、あっと言う間に肉片と化した。


 コボルト達は、ようやく動き出した。

 短剣や弓を手に戦闘態勢を取る。その数、約二十体。


 「アハハッ! かかってきなさい!」


 カヤは両手を広げ、コボルト達を挑発する。

 その顔には、邪悪な笑みが浮かんでいた。


 そして、殺戮が始まった。


 

 数分後、この場所は、血と肉が巻き散らされた凄惨な現場と化していた。


 カヤはぐるっと周囲を見回す。

 辺りには、遺跡と樹木、コボルトの亡骸。


 「もう終わりなの? 退屈ね」


 金棒を肩に担ぎながら、溜息を吐く。

 戦闘中に金棒をコボルト達から取り返したが、これなら素手でも良かったかもしれない。


 あまりにもあっさりと終わってしまい、拍子抜けだ。


 「さて、これからどうしようかしら」


 和也達と合流しなければならない。

 ここで待つか、こちらから探しに行くか。

 カヤは思案する。


 この時、カヤは気が付かなかった。

 コボルト達の血が大地に染み込み、大地に設置された陣が反応し、薄く輝いていることを。


 コボルトの血は陣を通り、ある一点へと送り届けられる。

 その陣は遺跡に続いている。陣の終着点は遺跡だ。


 陣が血で満たされ、条件は整った。


 それは、血によって覚醒した。

 遺跡が突然、弾け飛んだ。


 遺跡の内部から、それは姿を現す。


 「ウガガガガガガアアアアアアアッ!!!」


 その怪物は、雄叫びを上げた。

 

 黒い毛並み。朱色の瞳。

 丸太のように太い四肢、四足歩行の巨大な黒犬。


 そして、最たる特徴がある。

 その怪物は、頭部が二つ。


 双頭の獣は、鋭い眼でカヤを捉えた。


 「なによ、あれ」


 カヤは流石に驚いた。目の前に突然現れた、異形の怪物。

 その迫力に、常人ならば一瞬で戦意を喪失してしまうだろう。


 だが、カヤは笑う。


 「最高!」

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