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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第七十七話  バトルアンドトラブル

 カヤの戦闘力。

 今まで、まともな戦闘経験が無かったとは、とても信じられない。


 勢いの良い踏み込み。怪物に臆せず、凶器を振り抜ける精神力。

 そして、鬼人族の類まれなる剛力。


 どれをとっても一級品。まさに戦闘の鬼。戦鬼を体現している。


 カヤは振り返り、満面の笑みを浮かべる。


 「どう? 私も結構やるでしょ?」


 そう言って金棒を振るい、金棒に付着した怪物の血を払う。


 美しい顔が愉し気に歪む。


 怪物蔓延るこの森においては、頼もしい戦力が増えることは喜ばしい事ではあるが、怪物を撲殺し、喜ぶカヤの姿勢に、和也はどこか危うさを感じた。


 「いや、素晴らしい! お見事ですよ! カヤさん」


 ユリウスはカヤに称賛を送る。

 カヤはその称賛を素直に受け取り、腰に手を当て自慢気な顔。


 和也は隣にいるライサンに尋ねた。


 「ライサン。今のどう思う?」


 今のカヤの戦いぶり、ライサンがどのような印象を抱いているのか気になった。


 「そうだな。戦闘力は申し分ない。並みの怪物相手ならば遅れを取ることは無いだろう。―――だが」


 「ん?」


 「だが、あれでは武とはいえないな。あれでは只の暴力。信念なき力は、只の力に過ぎない。それ以上でもそれ以下でもない」


 ライサンが、和也の中にあった思いを言葉にしてくれた。

 そうだ。カヤの戦いには信念がない。 

 敵を屠ることに特化した自分本位の力。

 怪物相手には、あるいはそれでも良いのかもしれない。

 だが、信念なき力は振り下ろす先を見誤りやすい。

 その矛先が、誤った方向に向く危険性をはらんでいる。


 思案する和也にライサンが声を掛ける。


 「大丈夫だ、カズヤ」


 「え?」


 「俺もカヤを推薦した一人。責任はちゃんと持つ」


 「……分かった。俺も気にしておくさ」


 ライサンの頼もしい一言に、和也の心が和らぐ。

 気持ちを切り替え、皆に先へ進むように促すことにした。


 突然ライサンが叫んだ。


 「上だ! 備えろ!」


 ライサンの叫びに、全員が上に目を向ける。


 和也は見た。


 太い樹木の上に、醜悪な怪物が居た。

 二足歩行で小柄な体格。

 濁った瞳、剥き出しの牙、犬のような顔をしており、全身茶色の毛皮で覆われている。

 革の鎧を装備したその怪物は、弓を構え矢を引き絞る。


 計八体。和也達を囲むように、樹木の上に配置している。


 「いつの間に!?」


 怪物は音も無く樹木に上り、狩りを遂行する。

 単体の戦闘力が低い彼らは、気配を絶って獲物に近付き、毒の矢で獲物を狩る。

 

 彼らの名は、醜悪な森の妖精(コボルト)

 狡猾な森の狩人である。


 和也は冷静に状況を見る。


 敵の数は八。数はこちらの倍だが、俺達の戦闘力であれば問題はない筈だ。

 イメージする。飛んできた矢を叩き切り、即座に敵に接近する様を頭に描く。


 何も問題はない。


 敵の気配で分かった。矢が放たれる気配。


 「来るぞ!」


 和也が叫び、パーティーに注意を促す。

 だがそれは、無駄に終わる。


 「氷柱の(セプテット・)七重奏(アイシクルショット)


 ユリウスが魔術を発動した。

 ユリウスは腰からレイピアを抜き放ち、目の前で構えを取る。

 ユリウスの周囲に七本の氷柱が現れる。

 鋭く尖った切っ先の氷柱が敵へ放たれた。


 氷柱の速度に、コボルト達は反応できなかった。

 革の鎧をあっさりと貫通し、正確に心臓を貫いた。


 一瞬にして七体の怪物は絶命。

 怪物は残り一体。

 その一体は、突然の出来事に混乱している。


 ライサンはその隙を逃さず、即座に飛び上がり怪物へ接近。


 「ギエッ!?」


 しわがれた声が怪物から漏れた。

 ライサンのガントレットが煌めく。

 ガントレットは、乾いた音を立て、怪物の頭を吹き飛ばした。


 確実に怪物は死んだ。

 これで脅威は取り除かれた。

 あまりにもあっさりと。


 和也はユリウスを観察。

 レイピアを腰の鞘に戻し、帽子を触り位置を調整している。

 その顔には余裕の表情が浮かんでいた。


 どうやら、相当場慣れしているようだな……。


 ユリウス本人から聞いていた通り、近接はレイピア、中距離は魔術に切り替えて戦う魔術剣士。

 剣術の方はまだ分からないが、魔術の実力は本物だ。

 一瞬にして七体の怪物を屠ったあの魔術の威力と精度。


 やはり、侮れないな。


 和也はユリウスに対しての警戒を強めた。

 彼がネフェリオの使徒である限りは油断は出来ない。


 警戒しつつ、先に進むことにした。

 和也は皆に声を掛けた。 


 「よし! 皆、先に進もう!」

 

 和也の掛け声に、一同は同意。

 周囲を警戒しつつ、歩を進める。


 そして、また問題が発生。


 プシューと言う音を立てながら、白煙が発生。

 和也達は、一瞬にして白煙に覆われた。


 「なっ、なんだ!?」


 パーティーに動揺が走る。

 ユリウスが叫ぶ。


 「これはコボルトの罠です! まだ伏兵がいたのでしょう!」


 ユリウスの叫びで和也は状況を理解する。

 視界が煙で覆われ、周囲の状況が確認できない。

 和也は焦るが、すぐに冷静さを取り戻す。

 それは、これまで修羅場を潜り抜けて来た戦士の自信。


 感覚を研ぎ澄ませる。

 敵が間合いに踏み込んでくれば、視界不良など関係ない。

 即座に斬り捨てる。

 腰に装備した剣の柄を握り、構える。


 そのままじっと耐えた。敵が飛び込んでくるのを待つ。


 だが、結局は何も起こらなかった。

 やがて煙が晴れ、視界がクリアになる。


 敵の狙いが分からず頭に疑問が浮かぶが、皆の無事を確認することを優先した。


 「全員無事か!?」


 「俺は問題ない!」

 

 「私もです」


 ライサンとユリウスが反応した。

 カヤから反応がない。


 「カヤ? ……カヤ! どこだ!?」


 周囲を見回したが、カヤの姿がない。

 和也の背中に冷や汗が流れる。

 心臓が早鐘を打ち、呼吸が乱れる。


 考えられることは一つしかない。


 「うそ……だろ……」


 カヤは、コボルトの伏兵に攫われてしまった。

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