第七十七話 バトルアンドトラブル
カヤの戦闘力。
今まで、まともな戦闘経験が無かったとは、とても信じられない。
勢いの良い踏み込み。怪物に臆せず、凶器を振り抜ける精神力。
そして、鬼人族の類まれなる剛力。
どれをとっても一級品。まさに戦闘の鬼。戦鬼を体現している。
カヤは振り返り、満面の笑みを浮かべる。
「どう? 私も結構やるでしょ?」
そう言って金棒を振るい、金棒に付着した怪物の血を払う。
美しい顔が愉し気に歪む。
怪物蔓延るこの森においては、頼もしい戦力が増えることは喜ばしい事ではあるが、怪物を撲殺し、喜ぶカヤの姿勢に、和也はどこか危うさを感じた。
「いや、素晴らしい! お見事ですよ! カヤさん」
ユリウスはカヤに称賛を送る。
カヤはその称賛を素直に受け取り、腰に手を当て自慢気な顔。
和也は隣にいるライサンに尋ねた。
「ライサン。今のどう思う?」
今のカヤの戦いぶり、ライサンがどのような印象を抱いているのか気になった。
「そうだな。戦闘力は申し分ない。並みの怪物相手ならば遅れを取ることは無いだろう。―――だが」
「ん?」
「だが、あれでは武とはいえないな。あれでは只の暴力。信念なき力は、只の力に過ぎない。それ以上でもそれ以下でもない」
ライサンが、和也の中にあった思いを言葉にしてくれた。
そうだ。カヤの戦いには信念がない。
敵を屠ることに特化した自分本位の力。
怪物相手には、あるいはそれでも良いのかもしれない。
だが、信念なき力は振り下ろす先を見誤りやすい。
その矛先が、誤った方向に向く危険性をはらんでいる。
思案する和也にライサンが声を掛ける。
「大丈夫だ、カズヤ」
「え?」
「俺もカヤを推薦した一人。責任はちゃんと持つ」
「……分かった。俺も気にしておくさ」
ライサンの頼もしい一言に、和也の心が和らぐ。
気持ちを切り替え、皆に先へ進むように促すことにした。
突然ライサンが叫んだ。
「上だ! 備えろ!」
ライサンの叫びに、全員が上に目を向ける。
和也は見た。
太い樹木の上に、醜悪な怪物が居た。
二足歩行で小柄な体格。
濁った瞳、剥き出しの牙、犬のような顔をしており、全身茶色の毛皮で覆われている。
革の鎧を装備したその怪物は、弓を構え矢を引き絞る。
計八体。和也達を囲むように、樹木の上に配置している。
「いつの間に!?」
怪物は音も無く樹木に上り、狩りを遂行する。
単体の戦闘力が低い彼らは、気配を絶って獲物に近付き、毒の矢で獲物を狩る。
彼らの名は、醜悪な森の妖精。
狡猾な森の狩人である。
和也は冷静に状況を見る。
敵の数は八。数はこちらの倍だが、俺達の戦闘力であれば問題はない筈だ。
イメージする。飛んできた矢を叩き切り、即座に敵に接近する様を頭に描く。
何も問題はない。
敵の気配で分かった。矢が放たれる気配。
「来るぞ!」
和也が叫び、パーティーに注意を促す。
だがそれは、無駄に終わる。
「氷柱の七重奏」
ユリウスが魔術を発動した。
ユリウスは腰からレイピアを抜き放ち、目の前で構えを取る。
ユリウスの周囲に七本の氷柱が現れる。
鋭く尖った切っ先の氷柱が敵へ放たれた。
氷柱の速度に、コボルト達は反応できなかった。
革の鎧をあっさりと貫通し、正確に心臓を貫いた。
一瞬にして七体の怪物は絶命。
怪物は残り一体。
その一体は、突然の出来事に混乱している。
ライサンはその隙を逃さず、即座に飛び上がり怪物へ接近。
「ギエッ!?」
しわがれた声が怪物から漏れた。
ライサンのガントレットが煌めく。
ガントレットは、乾いた音を立て、怪物の頭を吹き飛ばした。
確実に怪物は死んだ。
これで脅威は取り除かれた。
あまりにもあっさりと。
和也はユリウスを観察。
レイピアを腰の鞘に戻し、帽子を触り位置を調整している。
その顔には余裕の表情が浮かんでいた。
どうやら、相当場慣れしているようだな……。
ユリウス本人から聞いていた通り、近接はレイピア、中距離は魔術に切り替えて戦う魔術剣士。
剣術の方はまだ分からないが、魔術の実力は本物だ。
一瞬にして七体の怪物を屠ったあの魔術の威力と精度。
やはり、侮れないな。
和也はユリウスに対しての警戒を強めた。
彼がネフェリオの使徒である限りは油断は出来ない。
警戒しつつ、先に進むことにした。
和也は皆に声を掛けた。
「よし! 皆、先に進もう!」
和也の掛け声に、一同は同意。
周囲を警戒しつつ、歩を進める。
そして、また問題が発生。
プシューと言う音を立てながら、白煙が発生。
和也達は、一瞬にして白煙に覆われた。
「なっ、なんだ!?」
パーティーに動揺が走る。
ユリウスが叫ぶ。
「これはコボルトの罠です! まだ伏兵がいたのでしょう!」
ユリウスの叫びで和也は状況を理解する。
視界が煙で覆われ、周囲の状況が確認できない。
和也は焦るが、すぐに冷静さを取り戻す。
それは、これまで修羅場を潜り抜けて来た戦士の自信。
感覚を研ぎ澄ませる。
敵が間合いに踏み込んでくれば、視界不良など関係ない。
即座に斬り捨てる。
腰に装備した剣の柄を握り、構える。
そのままじっと耐えた。敵が飛び込んでくるのを待つ。
だが、結局は何も起こらなかった。
やがて煙が晴れ、視界がクリアになる。
敵の狙いが分からず頭に疑問が浮かぶが、皆の無事を確認することを優先した。
「全員無事か!?」
「俺は問題ない!」
「私もです」
ライサンとユリウスが反応した。
カヤから反応がない。
「カヤ? ……カヤ! どこだ!?」
周囲を見回したが、カヤの姿がない。
和也の背中に冷や汗が流れる。
心臓が早鐘を打ち、呼吸が乱れる。
考えられることは一つしかない。
「うそ……だろ……」
カヤは、コボルトの伏兵に攫われてしまった。




