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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第七十五話  思惑、旅立ち

 カヤは一心不乱に武器を振る。

 武器庫で見つけた黒鉄の金棒。

 自身の背丈とそう変わらない巨大な凶器。

 父親の物と比べると随分小さいかもしれないが、自分にはピッタリだ。

 これ程、手に馴染む物は他に無いだろう。


 この広い武器庫で金棒を振り始めてどれぐらいになるだろう。

 全身汗をかき、体が悲鳴を上げている。


 それでもカヤは金棒を振る。

 熱く血が滾っている。


 あんなものを見せられたのでは、衝動を抑えられない。

 ライサンと優斗の戦い。和也と優斗の決闘。

 あの戦いを、また思い出す。


 カヤはあの戦いに目を奪われた。

 力と力、意地と意地、魂と魂のぶつかり合い。

 すごかった。とてつもなく高いレベルの攻防。

 自分もああなりたい。自分もあの高みへと行きたい。


 自分でも驚いた。

 自分はこんなにも武人気質だったのか。

 そのことに気付かされた。


 楽しい。


 両手で金棒をブンと振るう。

 自分もいずれ、あそこへ行く。そう考えただけで、心が躍る。


 やはり、自分の目に狂いはなかった。

 何度も思ったが、改めて思う。

 和也だ。すべては、あの青年と出会ってから変わった。

 新たな人生の道が開けた。


 カヤは笑う。楽しそうに。


 金棒を握る握力が弱まり、筋肉の疲労が限界を迎えても、まだ金棒を振り続けた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 


 ユリウスは宮殿正門前の庭園でラプソディを奏でる。

 思いついたまま、自由に弦に弓毛を走らせる。

 自分の頭を整理し、現状を俯瞰する。

 こういう時は、音楽と向き合うに限る。


 ユリウスにとっては、黙って思案するよりもこの方が何倍も捗る。

 ただひたむきに、弦の音色を響かせた。


 和也達とは付き合いが短いが、それでも、彼らのおおよその人物像は掴めて来た。


 皆を導く要たる存在、和也。

 彼は熱い思いを胸に、ひたすら前に突き進む。

 それでいながら頭は冷静に、常に最善を考え続けている。

 冷静さと熱さを兼ね備えた傑物。


 皆の調和を図る優斗。

 彼の存在もまた大きい。

 彼はパーティーの絆を深める調整役。

 細やかに相手の機微を読み取り、相手の求める最善へと導く。

 そして、その役目が終わろうとしている。

 果たしてそれは、どのような結果をパーティーにもたらすのか。

 

 皆を支えるライサン。

 彼の存在は、パーティーの皆に安心を与える。

 磨き上げられた武術は、皆が目指すところでもあり、高い壁でもある。

 頼りになるライサンは、パーティーの安定を司る。

 

 皆を和ませ、安らぎを与えるイーリス。

 彼女こそが、パーティーを繋ぎ止める楔と言ってもよいかもしれない。

 皆、彼女の身を案じ、彼女の幸せを願っている。

 彼女がいれば、パーティーが分解することはないだろう。そう思わせてくれる存在。


 そして、異分子たる鬼の姫カヤ。

 彼女は仮初のメンバーだ。

 この姫だけは、パーティーと同じ方向を向いていない。

 己が欲望を満たそうと、ひたすらに己が道を行く。


 パーティーに貢献しようとしないカヤの姿勢をユリウスは咎められない。

 何故ならそれは、自分も同じだからだ。


 今後、このパーティーはどのような重奏(アンサンブル)を奏でるのだろう。

 未知の音色に思いを馳せ、ユリウスは美しい音色を響かせた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 


 「ユウトしゃん!」


 草原の広場、石板前。


 イーリスは瞳に涙を溜め、鼻水を垂らしながら優斗の腰に抱き着いた。

 優斗の纏う外套がイーリスの鼻水で汚れるが、優斗は優しく笑う。

 イーリスの頭に左手を乗せ、軽くポンポンと撫でるように叩いた。


 「イーリスちゃん……」


 ライサンは両腕を組んだ状態で優斗に言う。


 「ユウト、エイナの事を頼む! お前になら任せられる」


 「ありがとう、ライサン」


 続いて和也が言う。


 「セリスにもよろしく伝えておいてくれ」


 「勿論」


 優斗は、そう和也に返事をした後、三人の顔を眺めた。


 「和也、ライサン、イーリスちゃん。何度も言うけど、この離脱は一時的なものだから。必ず戻ってくるよ。それに、手助けが欲しい時はいつでも僕を呼んで欲しい」


 和也とライサンは、優斗に頷く。イーリスは優斗の腰から顔を上げて「はい」と返事をした。


 優斗は、何かに気付いたような顔をして「ああ、そうだ」と言って続ける。


 「あの新入り二人のことだけど、僕の見立てでは悪い人達じゃないと思う。だけど、油断はしない方がいい。これは根拠のない僕の勘なんだけど……」


 和也は優斗の言葉に同意する。


 「そうだな。あの二人は読めないところがある。くれぐれも気を付けるよ」


 「うん。それがいいと思う」


 ユリウスとカヤは、この場には居ない。

 もしかしたら、気を使ってくれたのかもしれない。

 自分達のような部外者は、この場には居ない方が良いという判断だろうか。


 「じゃあ、そろそろ行こうかな」


 優斗はそう言って、石板に乗った。

 石板が輝き始める。

 輝きに飲まれながら、優斗は思い返していた。


 これまでのことを。


 まず思い出すのは、最初の白い部屋。それから白い回廊。

 この世界に飛ばされて、いきなり殺されかけたな。

 思えば、白銀の騎士に頭を両断されそうになった時、和也が助けてくれたんだった。

 和也は正真正銘、命の恩人だ。

 優斗は改めて、心の中で和也に感謝を告げる。

 死にかけたというのに、それを思い出してクスッと笑う。

 何故なら、御伽噺にように現実感のない思い出だったから。

 

 だけど、そんな御伽噺から始まったんだ。


 御伽噺を進める中で、ある少女と出会った。

 イーリスとの出会いだ。


 この子もまた、現実感の無い存在だ。

 それこそ、御伽噺から飛び出して来た人物のように、強い個性と異彩を放っている。

 両目から涙をこぼすイーリスを見て、優斗はまた優しく笑う。

 そして願った。イーリスのこれからの幸せを。


 天空で冒険、死闘、出会いを果たし、舞台は地上へと移る。

 地上最初の地、ソルランド王国。

 そこで、誇り高き戦士と出会った。

 

 狼人最強の戦士ライサン。


 頼りになる兄貴分。

 強さと優しさを兼ね備える誇り高き戦士は、晴れやかな笑みでこちらを見ている。

 ライサンに稽古を受けた日々を思い出す。

 知れば知る程に、聳え立つ武の高見。

 ライサンは、その高見から更に上を目指そうとしている。

 優斗には確信があった。ライサンなら必ずそこへ辿り着ける。

 優斗はライサンに微笑み返す。


 そして、三人の顔をもう一度順に眺める。


 様々な感情が胸に溢れる。

 この気持ちを簡潔に言葉にするのは難しい。

 

 それでも、あえて優斗は、それを言葉にすることにした。

 とてもシンプルだが、とても純粋な、素直な言葉を。


 「楽しかった! また会おう!」

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