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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第七十四話  相棒

 天空の草原広場にて、和也と優斗は対峙する。


 ライサンは二人の間に立ち、いつになく険しい表情。

 少し離れた位置、宮殿エントランス前広場に通じる幅の広い階段には、イーリスとカヤが居る。

 ユリウスは宮殿エントランス前広場の縁に立ち、草原の広場を見下ろす。

 皆、固唾を呑んで見守る。

 和也と優斗の最後の決闘を。


 和也と優斗は、お互い木剣を構えた。

 もう、言葉はいらない。

 これまでの感謝を込めて、ただそれをぶつけ合うのみ。


 張り詰めた空気の中、ライサンが二人に問う。


 「二人とも、準備はいいな?」


 ライサンの問いに、二人は頷く。


 静寂の中、そよ風が草花を揺らす。植物の揺れる音だけがこの空間を支配する。


 そして、ついにその時は訪れた。

 ライサンが深く息を吸い、告げる。


 「始め!」


 和也と優斗、二人は同時に動いた。

 互いに地を蹴り加速。

 数舜の後、二つの木剣が衝突。

 凄まじい衝突の威力に、風が裂け、大気が爆ぜる。

 そのまま、二人は鍔迫り合う。


 和也が笑った。優斗も笑う。

 初動は引き分け。お互い、無言で相手を讃え合う。


 そして、和也はそこから更に力を込める。

 じりじりと押される優斗。

 力技では和也に分がある。

 優斗は不意に力を抜き、華麗な足捌きで和也の側面に。


 急に力を抜かれ、和也の体が前に流れる。

 その隙を逃さず、優斗は上段から木剣を振り下ろす。

 和也は、体を流したまま、腰を捻り回転斬りを繰り出した。


 高い音を立て、二本の木剣が衝突。

 優斗は回転斬りの威力を受けきれず、後ろに弾かれた。


 和也は、体の制御を失い回転しながら後方へ。

 二人は離れた位置で、それぞれ体勢を整え直す。


 先に和也が飛び出した。

 膨大な魔力にものを言わせ、脚に溜めた魔力を爆発させての突貫。

 その威力そのまま、優斗へ斬りつける。


 優斗はそれをバックステップで躱す。

 その後、即座に和也へ突きを繰り出す。

 完璧なタイミングでの突き。

 必中と思われた優斗の攻撃は、空を切る。


 優斗は上空を見上げる。

 上空には和也。和也は高く飛び上がり、優斗の突きを躱したのだ。

 優斗は木剣を構え直し迎撃の体勢を取る。


 和也は木剣を上段に構え、魔力を漲らせる。必殺の一撃を叩き込むつもりだ。

 和也は上空から斬りつける。優斗は地上で迎え撃つ。

 和也は己の力を全て木剣に込める。相手を真向からねじ伏せるために。


 だが、和也の思惑は外れた。

 迎撃の体勢を取っていた優斗は、和也の攻撃を受ける直前でキャンセル。

 和也の攻撃を直前で躱す。


 「なっ!」


 この優斗の行動に和也は意表を突かれた。

 隙が出来た和也に、優斗の木剣が迫る。


 高い音を響かせ、和也の木剣が跳ねた。

 ギリギリで優斗の攻撃をガード出来たが、咄嗟に取った行動であるため、木剣を握る握力が弱まってしまった。

 和也の木剣が空を舞った。


 無防備になった和也は、窮地に陥る。

 当然、優斗はこの機を逃さない。

 優斗は水平に斬りつける。


 間一髪。和也は優斗の木剣をしゃがんで躱し、即座に身を翻す。

 そして、後方に落ちた木剣へと駆けだした。


 優斗はその後を追う。優斗にとっては千載一遇のチャンス。これでケリを着ける。

 和也は素早く動いたが、優斗も速い。

 和也は木剣の地点に到着したが、優斗はすぐ後ろ。

 木剣を拾い上げるために手を伸ばすが、一歩遅い。

 

 すでに優斗の木剣が背後に迫っている。

 和也は選択を誤った。これで終わりだ。優斗は上段から右斜め下に斬りつけた。


 そして、優斗は思い知らされた。

 和也と言う男の狡猾さを。


 「―――!?」


 乾いた音と共に、優斗の両手が掴まれた。

 和也は前を向いたままの状態で、両腕を後ろに回し、優斗の両手を掴んだ。

 万力で締め付けられたような圧力が優斗を襲う。


 「いっ!」


 優斗は苦痛に顔を歪めた。

 まずい、このままでは、手を潰される!


 「こっ、の!」


 優斗は右脚を前に突き出し、思いっきり和也の背にぶつけた。


 「うっ!」


 和也は呻きを漏らし、前へ押された。

 和也の凶悪な握力から抜け出すことが出来たが、両手のダメージは大きい。

 木剣を握る力が緩む。


 そこへ和也が体を捻り、即座に右足を蹴り上げた。

 優斗の両手にヒットし、木剣は優斗の手から離れる。

 お互い素手となる。これでお互い、武器を失った。


 そして、二人の殴り合いが始まる。

 相手へと拳を叩き込む。


 お互いに数発相手を殴った後、二人は笑った。

 最初に和也が言った。


 「さあ、こいよ」


 ノーガードで相手を挑発。


 優斗は誘いに乗り、顔面に一発。

 和也の顔が大きく歪む。顎が盛大に揺れ、世界が揺れる。


 しばらくして和也が回復した後、次は優斗が言う。


 「どこからでも、どうぞ」


 和也の拳が優斗の鳩尾にめり込む。


 「ぶはっ!」


 盛大に唾液を飛ばし、腹を抱え蹲る。


 そこからは、決闘の趣が完全に変わる。

 ターン制で、己の力を相手に叩き込む。

 一撃ごとに、拳に思いを込める。

 感謝と、称賛と、親愛と、敬意と、希望と祝福を丁寧に叩きつける。


 「ハハハッ! 楽しいな! 優斗!」


 「そうかい? 僕は、殴られて喜ぶ趣味はないんだけど、な!」


 優斗の拳が、和也の鼻をへし折る。

 和也は鼻血を垂らしながら笑う。


 「その割には随分と、楽しそうじゃ、ないか!」


 和也はお返しに、優斗の顔面へ拳を叩き込む。

 優斗の前歯が折れ、口の中を傷つけた。

 優斗はプッと口から折れた前歯を吐いた。

 そして、口から血を流しながら笑う。


 そこからまた殴り合いが続く。

 やがて二人は力尽き、倒れた。

 草原の上に仰向けの姿勢の二人。

 呼吸を荒く乱しながら、和也がポツリと呟く。


 「…………楽しかった」


 それは、この決闘のことなのか、それとも、優斗と出会ってからこれまでのことなのか、和也自身にも分からなかった。

 気が付けば、自然と言葉が漏れていた。


 「僕もさ」


 優斗にそう返され、和也は思い返す。

 これまでのことを。


 この世界で優斗と最初に出会ったのは、あの白い部屋だ。

 一目優斗を見た時、苦手だと思った。


 なんとなく感じたのだ。こいつとは住む世界が違うな、と。

 多分こいつは、煌びやかな世界の住人だと。

 自然と線を引いていた。


 でも違った。

 何も変わらなかった。

 優斗も俺と同じだったんだ。

 生い立ちこそ特殊であったが、一人の人間として、悩み、怒り、悲しみ、笑う。

 自分と何も変わりはしない。


 ああ、そうか……。


 今になって気付かされた。

 俺は、相手を観ようとすることを怠っていたんだな。

 最初の印象で相手のことを決めつけ、それ以上深く知る努力をしてこなかった。


 多分、優斗とは、このような特殊な出会い方じゃなければ、ここまで仲良くなっていなかった筈だ。

 元の世界であれば、優斗に心を開くことをしなかったと思う。


 それは、すごく勿体ないことだったんだな……。

 自分から可能性を閉ざしていたんだ。


 時折感じる、優斗とライサンの遠い背中。

 世界から自分だけが置いて行かれるような、あの冷たい感覚。

 今なら少しだけ、世界と歩調を合わせられるような気がする。


 「ハハッ」


 急に笑いが込み上げてくる。

 だってそうだろう。こんな人として初歩的なことを、今になって気付いたんだ。

 笑うしかない。


 ああ、俺って本当に。

 生きることが下手だな。


 そして和也は、心から感謝を告げた。


 この世で唯一、世界最高の相棒に向かって。


 

 「ありがとう」

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