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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第七十二話  鬼姫の力

 カヤは右腕を曲げて握りこぶしを作る。 

 その細腕からは、とても強そうに見えない。

 だが、優斗もライサンも分かっている。

 見た目に騙されてはいけない。この娘は鬼人族。

 額から生えた二本のツノに強大な魔力を内包している。

 ツノから無尽蔵とも言える魔力が供給され、強力無比な豪腕を得る種族。


 「ライサン、相手をしてくれるかしら? ユウトでもいいんだけど、現時点では、ライサンの方が楽しそうだわ」


 ライサンは観念したように肩を竦めた。

 仕方がないな。

 ライサンの経験上、こういった手合いは、組手で分からせるのが手っ取り早い。

 傲慢に膨れ上がった心をへし折ってやれば、驚くほど従順になる。


 カヤには悪いが、少し痛い目を見てもらおうか。


 「そこまで言うのなら良いだろう。さあ、カヤ、どこからでも掛かってこい」


 カヤはニヤッと笑い、羽織を空に脱ぎ捨てた。

 

 白の上に紅色のグラデ―ションが描かれた同着が現れる。

 美しい鬼の姫は、自分の頭にあるイメージから適当に構えを取った。


 そしてカヤは、脚に溜めた魔力を爆発させ、地を跳ねた。

 次の瞬間、ライサンの目の前に現れ、拳を突き出す。


 ライサンは、カヤの側面に回り拳を躱す。

 速いな。だが―――、この程度ならば。

 隙だらけのカヤに攻撃を繰り出すか迷うが、様子見を選択。

 カヤから距離を取ることにした。


 「アハハッ!」


 カヤは狂気を宿した笑みを浮かべ、再びライサンへ特攻。

 すでにカヤの動きを見切ったライサンは、カヤの突撃を難なく躱し、足払いを掛ける。


 「うっ、わ!」


 速度が乗ったカヤの体は、制御を失った。

 何回転も前転し、派手に草原を転がる。

 次第に勢いは緩み、草原の上で大の字になるカヤ。


 「どうした? もう終わりか?」


 ライサンがカヤに呼びかけた。

 追撃はしない。


 「まだまだ!」


 立ち上がったカヤは、懲りもせず再度特攻を仕掛ける。

 ライサンはそれを最小の足捌きで躱す。

 次は攻撃を入れる。

 がら空きのカヤの側腹部に掌底を放つ。


 「きゃ!」


 可愛らしい声を上げて、カヤは弾け飛んだ。

 手加減はした。派手に飛んだが、ダメージはそれ程ないはずだ。


 カヤは地面を何度かバウンドした後、止まった。

 

 「まだ続けるか?」


 地面に横たわるカヤに、ライサンが声を掛けた。


 「まだよ!」


 カヤは立ち上がる。その眼はまだ死んでいない。

 ほう―――。

 ライサンはカヤへの認識を改めた。

 

 これ程の力量差を見せつけられて、まだ闘志を燃やしている。

 その不屈の闘志は、戦士にとっては最も重要な素質。

 カヤは優秀な戦士の素質を備えている。


 だが、悲しいかな。力量が伴っていない。精神論だけでは、どうやっても覆らないものがある。

 ライサンはカヤの力任せの連撃を涼しい顔をして躱す。

 どれだけカヤが拳を突き出しても、脚を振り上げても、ライサンにかすりもしない。


 「ああ、もう! 当たらないじゃない!」


 しまいには、声を荒げて地団太を踏んでしまう。


 「ハハッ。分かっただろう? まずは基礎を学ぶことから始めないとな」


 「……分かったわよ。ライサンの言う通りよ」


 カヤは両手を上げて、観念したように言った。


 「分かれば良い」


 「でもさ」


 「ん?」


 「この勝負を諦めたわけじゃないから!」


 カヤの金色の瞳が妖しく光った。

 カヤの右拳が、無防備なライサンに迫る。

 それをライサンは余裕で躱し、カヤの腹に掌底を放った。


 「くっ、そ!」


 悔しそうに顔を歪めて、カヤが弾け飛んだ。


 「ぐへっ」


 受け身を取れず、背中から地面に叩きつけられる。

 今度こそ終わりだ。ライサンはそう思った。


 だが、カヤの闘志の炎は、まだ消えていない。

 すでに体中がボロボロの筈だが、まだ立ち上がる。

 そんなカヤを見て、ライサンは爽やかに笑う。


 「いや、良いな! 良いぞ、鬼人族の姫よ!」


 カヤはライサンの称賛を受け、ニヤリと笑みを浮かべる。


 「いくわよ!」


 腰を低く落とし、脚に溜めた魔力を爆発させ、地面を蹴り飛ばした。

 途轍もない速度で加速したカヤは、右拳をライサンに突き出した。

 素直で真っ直ぐな攻撃。

 その攻撃がライサンに当たることはない。


 ライサンは足捌きでカヤの側面に回る。この組手で何度かした流れ。

 そして、隙だらけのカヤの右側腹部に掌底を繰り出した。


 掌底はカヤにヒット。手心は加えたが、それなりに力を入れた。カヤへの敬意を込めて。


 カヤの体が弾け飛ぶ―――、筈であった。

 ライサンは乾いた音と共に、カヤに右手首を掴まれた。

 カヤは苦悶の表情を浮かべならも、その手を離さない。

 ライサンの右手首を掴むことで、衝撃を相殺。体が弾け飛ぶことを阻止。


 ライサンは目を見開き、声を上げる。


 「なっ!」


 カヤは笑う。

 そして、渾身の魔力を込めて、右拳をライサンに突き出した。

 鬼人族の豪腕をその身に受け、ライサンは弾け飛んだ。


 派手に弾け飛ぶが、ダメージは軽微。

 ライサンは咄嗟に左腕でカヤの拳をガードしていた。


 空中で回転し、地面に着地。


 「やるな! 驚いたぞ!」


 ダメージ軽微とはいえ、一杯食わされたのは事実。

 再びカヤに称賛を送った。


 「……今のでも駄目なの?」


 そう言った後、カヤは膝から崩れ落ちた。すでに体は限界を迎えていたらしい。

 

 「良い戦いだった。カヤ、お前には見込みがある」


 ライサンがカヤに近寄り、肩を叩く。

 組手を見ていた優斗もカヤに近寄って、カヤへの称賛を口にする。


 「いやー、ナイスファイト!」


 「あ~あ。手も足も出なかった」


 不貞腐れるカヤに、優斗は笑いながら言う。


 「いやいや、正直驚いたよ。ライサンに一撃入れるとか、すごいって」


 「そう? ……ありがと」


 優斗の素直な称賛に、少しだけ気分を良くする。 

 それから少し休憩した後、優斗に肩を借りて宮殿に戻っていった。

 ライサンも二人の後を追い、歩き出す。


 少し歩いて足を止めた。

 自分の左腕を見る。

 左腕の感覚がない。

 これは、カヤの強烈な拳によるものだ。

 ライサンは自分の左腕を見つめながら思った。


 もし、カヤの攻撃をガード出来ていなければ、勝負はどうなっていたか分からない。

 ライサンの心には、カヤへの称賛と自分への叱責、そして、喜びが渦巻いていた。


 それは、新たな強者を見つけた喜びであった。

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