第七十一話 草原の決闘
天空の宮殿ウラノス。草原の広場。
優斗とライサンは素手で対峙している。
心地の良い風が二人の頬を撫でる。
そんな中、一迅の突風が駆け抜けた。
突風が通り過ぎ、風が止んだ時、二人は同時に動いた。
優斗の拳がライサンの顔面に迫る。
ライサンは拳をギリギリまで引き付けて躱し、カウンターの右拳を突き出す。
それを読んでいた優斗は、左足を軸として回転しながら躱す。
そのままダンスでも踊るように回転しながら、ライサンの側面へ回る。
そして、遠心力で加速された力で裏拳を繰り出した。
それを上体を反らすことで紙一重で躱したライサンは、バク転しながら優斗と距離を取る。
その後、垂直に飛び上がって踵を直角に上げ、回転を開始。
高速回転する月輪が風を切る。
月輪が優斗に迫る。
優斗は良く理解している。月輪の特性を。
まずは後方に飛び、月輪を躱す。
その後、地を走る車輪と化したライサンを右ステップで躱す。
車輪は草原を走ったのち、再び空に浮く。
月輪が再び空に現れる。
月輪を確認し、優斗も空に飛び上がった。
月輪は既に降下しており、優斗と入れ替わる形で地に降り立つ。
優斗は上空に、ライサンは地に。
一見、有効に見える優斗の行動は、ライサンに言わせれば悪手だ。
空中では自由に身動きが取れない。それは、達人相手には格好の的。
ライサンは上空の優斗を捕捉。
落下する優斗に向かって、飛び上がった。
空中戦はライサンの得意とするところ。
ライサンは勝負を決めるため、無数にある手を瞬時に頭の中で組み立てる。
そして、詰みまでの解を導き出した。
しかし、その後ライサンは、己の見込みの甘さを知ることとなる。
優斗が踵を大きく上げ、回転を開始。
ライサンの月輪を模倣し、風を切る音を鳴らした。
優斗の月輪がライサンの目前に迫る。
「くっ!」
ライサンは、反応が遅れた自分に活を入れ、回転蹴りを繰り出した。
二人の技が空中で衝突。
お互いの技がお互いを弾いた。
その激しい衝突の威力で、大気が爆ぜる。
弾かれた二人は、受け身を取り、地面に着地。
着地後、先にライサンが動いた。
優斗に向かって突進を繰り出す。
フェイントを数回入れ、右の下段蹴りを優斗に放つ。
命中し、優斗は顔を歪ませる。
ライサンは、その隙に優斗の後ろへ回る。
腰をしっかりと回し、強烈な左拳を優斗の後頭部へ。
優斗は気配だけで拳を躱し、右手でライサンの上着を掴み、腰を落とし、力を前に逃がすように身体を捻る。
ライサンの身体を投げた。
「―――なっ」
予想外の攻撃に、ライサン口から声が漏れる。
背中を地面に叩きつけられる瞬間、ライサンは超反応で体を丸め衝撃を緩和させた。
仰向けとなったライサンに向かって、優斗は拳の側部をハンマーに見立て振り下ろす。
ライサンは顔を横にずらしハンマーを躱す。
そして、仰向けの体勢から腰を浮かし、両足を優斗の腹に突き出した。
「うっ!」
直撃を許した優斗の口から、呻きが漏れる。
ライサンは即座に動いた。
両手で優斗の右足首を掴み、空に投げた。
「う、うわっ!」
優斗は強制的に上空へ。
そして、優斗はライサンを見失った。
「まっ、まずい! どこだ!?」
集中しライサンの気配を察知するが、僅かに遅かった。
更に上空から、ライサンの踵落としが迫る。
咄嗟に腕をクロスし、それをガード。
ガードは成功したが、超重量の物質をぶつけられたような衝撃が優斗を襲う。
落下の速度が加速し、地面に叩きつけられる。
「ぐはっ!」
背中から叩きつけられ、骨が軋んだ。
この隙をライサンは逃さない。追撃の拳が優斗の顔面へ。
間に合わない。あの拳は躱せない。
ああ、鼻の骨折は間違いないかな。あとで和也に治してもらわなきゃ……。
優斗は半ば諦めの境地でダメージを負う覚悟であったが、拳は優斗の鼻先で止まる。
鼻先で止まった拳を見て、優斗は悔しそうに言う。
「はぁ……まいりました」
「良い戦いだった。ユウト、お前に感謝を」
ライサンは優斗を称え、仰向けで地に倒れる優斗に右手を伸ばした。
優斗はライサンは右手を掴み、起き上がる。
「良いとこまでいったと思ったんだけどな。あ~、くそ。やっぱ強いなライサン」
「惜しかったぞユウト。お前は本当に筋が良い。本当に驚かされる」
ライサンは驚いていた。
優斗は教えたことをどんどん吸収する。
その吸収力は、完全に常人の域を超えている。
それに、格闘センスは目を見張るものがある。
末恐ろしいほどに。
このまま行けば、いずれ俺を超えるかもな……。
内心の焦りと共に、喜びが湧き上がる。
優斗の完成した姿を思い浮かべた。
自分を超える才を持つ傑物が目の前にいる。
その事実がライサンの心を震わす。
それでも俺は勝つ。必ず。
静かに闘志を燃やし、薪をくべてくれた相手に感謝を。
その時、宮殿の方向から声が聞こえた。
「いいわね、いいわね~。ねえ、私も混ぜてよ!」
鬼の姫様が深紅の髪と桜色の羽織を風になびかせながら、優斗達の方へ駆け寄ってくる。
「混ぜてって……姫様、武術の心得あるの?」
優斗の質問に、カヤは平然と答える。
「ぜーんぜん。ないわよ」
「ならばカヤよ。まずは、型の稽古からやってみるか?」
ライサンはカヤを歓迎。武術に興味を持つ者に、門戸は広く開かれている。
しかし、カヤは不満を漏らした。
「えー、そんなの要らないわよ。私も殴り合いがしたいわ」
頭を掻きながら、優斗が困ったように言う。
「いや、でも姫様。いきなり組手なんかしたら怪我するって」
「大丈夫よ! 私、強いし。多分」




