表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
71/163

第七十話   飛び入り参加

 天凱の間、西門付近。


 「イグサさん、本当にお世話になりました」


 「世話になった、イグサ」


 「今までありがとう!」


 イグサは「こちらこそです」と返事をし、寂し気に笑う。


 「それにしても、こんなに急に行かれるとは……」


 「すみません。一度、ソルランド王国に戻って作戦を練り直したいと思います」


 「……寂しくなります」


 「俺もです」


 これは和也の本心だ。イグサとの出会いからこれまで、随分と世話になってしまった。

 和也の胸には寂しさと感謝が溢れている。


 「イグサさん、飲みすぎには注意してね」


 「そうだぞ、イグサ。それと、戦士の助けが必要な時は俺を頼れ」


 イグサの酒癖の悪さは、すでに優斗とライサンも知るところ。

 イグサはバツが悪そうな顔で言う。


 「ええ、ご忠告感謝します。善処はしてみます……」


 イグサのその反応にライサンは「ハハッ」と笑い、ドンとイグサの背中を叩いた。


 「また会おう」


 「それじゃあ、元気でね!」


 最後に和也が告げる。


 「イグサさんが居なければ、俺達は終わってた。この御恩は忘れません」


 イグサは、端正な顔に笑みを浮かべながら返事する。

 

 「私も貴方達には感謝しています。なにより…………楽しかった」

 

 その後イグサと握手を交わし、和也達はこの場を後にした。



 天凱の間から西方向、サイネリア島の西端の森林地帯に和也達は到着した。

 この地帯は、新緑の葉を付けた背の高い樹木が乱立し、地には赤と黄色の派手な花が咲き誇っている。

 この森林地帯の一角に、トランスポート用の石板が存在する。

 地面に埋め込まれ、草花に隠された誰からも気にされることのない石板。


 和也は石板の前に立ち、目線を樹木の方に向け、陰に隠れる人物に声を掛けた。


 「イグサさんに別れを告げて来たぞ。それに、これからの行動は誰にも明かしていない」


 声を掛けられた人物、ユリウスは樹木の陰から現れた。


 「それは重畳」


 和也達はユリウスの誘いに乗った。

 なんでも、ユリウスは森人族の郷、レガリア・カリアスへの道案内が出来るそうだ。

 郷は結界に覆われているが、一つだけ結界を無視して通過できるルートがあるらしい。

 ユリウスはそのルートを知っている。


 そして、ユリウスからある条件を提示された。

 それは、イグサや他の鬼人族含め、誰にもこれからの行動を明かさないこと。

 レガリア・カリアスへのルートは森人族でさえ知る者の殆どいない極秘ルート。

 それが知られれば、悪用をする者が出る可能性がある。

 そのため、イグサなどの親しい者達にも口外を禁止されたのである。


 だから和也はイグサに嘘をついた。行く先はソルランド王国だと。

 せめてイグサには、本当の事を伝えても良いのではないか?

 ユリウスにそう提案したが、断固拒否されてしまった。

 もし誰かに漏らしたら、私は貴方達の前から消えます、と。

 そうまで言われてしまったのでは仕方がない。


 行先は、このサイネリア島から西に海を越えた先、中央大陸東南に位置するレガリア・カリアスを中心に広がる大森林。

 まずは天空の宮殿に戻り、装備を整えて挑むことになる。


 イマイチ信用の出来ないユリウスを天空の宮殿まで連れて行くことは気掛かりだが、一緒に行動する方が圧倒的に効率的だ。


 石板の上に、優斗、ライサン、ユリウスが立った。

 和也はしんがりを務める。


 石板が輝き始める。

 輝きが強さを増し、やがて石板上の三人は消え失せた。


 「さて、俺も行くか」


 和也は一人呟いて、石板上に立つ。

 先程と同様、石板が輝き始める。

 そして、輝きは最高潮に。


 その時、和也の耳に草を踏みしめ走る足音が聞こえた。


 「誰か来る!?」


 出来る事ならば、他人に見られない方が良いだろう。

 そう思い、一度石板から離れるか、このまま転送を待つか悩む。

 

 しかし、和也は結局、判断することが出来なかった。


 目の前に飛び込んできた人物の正体に驚いたから。

 激しく動揺し、思考が停滞。


 その人物は、石板の上に立つと同時に叫んだ。


 「もう! 私を置いていくのはナシよ! 言ったでしょ、貴方について行くって!」


 カヤがそう叫んで、人差し指でビシッと和也を指差した。

 そして二人は、輝きに飲み込まれた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 天空の宮殿ウラノス。中央区画食堂。

 

 「う~、やべてくだざい~」


 「アハハッ! 柔らかくてよく伸びるわね~」


 カヤは楽しそうにイーリスの頬っぺたを指で摘まんでいる。

 その様子を見兼ねた和也はカヤに言う。


 「姫様、その辺で止めておいてくれ」


 カヤはイーリスの頬から指を離さずに、和也の方に顔を向ける。


 「え~、だって楽しいんだもの」


 イーリスはその隙を逃がさない。

 隙をついて、カヤの魔の手から逃れた。 

 そして、全速力で和也の方へ駆けだし、和也の後ろに隠れる。


 「あ~あ、逃げられちゃった」


 カヤは残念そうな顔をして立ち上がり「少し探索してくるわ」と言ってどこかへ行ってしまう。


 「まいったな……あの姫様には」


 石板から天空の宮殿への転移直前、カヤが突然現れて石板上に飛び乗ってきた。

 咄嗟の事で和也は対処が出来ず、そのまま天空へ。


 和也達の間で、カヤを送り返す事も検討されたが、和也には予感があった。

 この姫様のことだ。このまま返したらそれはそれで面倒なことになる気がする。

 そういうこともあって、姫様の処遇はとりあえずは保留だ。


 「よろしいじゃないですか。彼女は愉快な方だ。そして美しい。我々の旅を華やかにしてくれること間違いなし!」


 いつの間にか、この食堂に現れたユリウスがそう言った。


 和也にとっては、このユリウスも悩みの種の一つだ。

 この芝居がかった態度も、いまいち何を考えているか分からない言動も、ユリウスの得体の知れなさに拍車を掛けている。


 「よろしくないよ。ほんと、どうするかな、姫様の処遇。ていうか、ユリウスは姫様を連れて行くつもりか?」


 「ええ、そうですよ」


 意外だった。ユリウスはあれほど、秘密を守るように言っていたではないか。

 そりゃあ、あの姫様を放置するよりは良いのかも知れないが、部外者であるカヤの事を悩むことなく受け入れている。


 「あ、あの」


 和也の陰に隠れていたイーリスがユリウスを見上げて言う。


 「ユリウスさん、それは何なのです?」


 イーリスはユリウスが背負っている物を指さした。

 それは、獣の革で作成されたヴァイオリンのカバーだ。

 中にはヴァイオリンが入っている。


 ユリウスはニッコリと笑い、しゃがんでイーリスと視線の高さを合わせた。


 「可愛いお嬢さん、中々お目が高い。これは私の命とも言うべきもの」


 ユリウスはそう言って、カバーを外しヴァイオリンをイーリスに見せた。

 暖色で光沢のある表面。四本の弦がピンと張られた様は、間違いなくヴァイオリン。


 ユリウスが言うには、ネフェリオの知り合いである元の世界からの転移者から、ヴァイオリンの事を聞いて、見様見真似で作成したらしい。


 それにしても、途轍もないクオリティだった。

 有識者が見れば何か違和感を感じるのかもしれないが、楽器の知識に乏しい和也には本物にしか見えない。

 そして、それを自在に操る奏者の技量も驚嘆すべきものだ。


 イーリスは大きな目を見開いて、無邪気にはしゃいでいる。

 

 「すごいです! カッコイイです!」


 ユリウスはイーリスの言葉に顔を綻ばせ「では、一曲」と言ってヴァイオリンを弾き始めた。


 綺麗な音色が食堂を包む。

 ゆっくりと落ち着いた曲だ。

 その音色を聞いている内に、頭がクリアになっていく気がした。

 ざわついていた心が落ち着く。

 すごいものだな、音楽って。それとも、奏者の技量の高さがそうさせるのか。


 イーリスは目を輝かせて「おお~」と小さく歓声を漏らした。

 ユリウスは楽しそうにヴァイオリンを弾く。

 小さな観客に向って、心底楽しそうに。


 和也は、なんとなく思った。

 ユリウスは心から楽しんでいる。

 それは、今この瞬間の事だけではなく、人生と言う舞台を全力で演じ、楽しんでいる。

 そんな気がしたのだ。

 

 少しだけユリウスの事が理解できるような気がして、和也は黙ってユリウスの演奏を聴くことにした。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ