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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第六十六話  渇きの先へ

 和也達は、白い砂浜に足を踏み入れた。

 

 ここはアスター島。船の補修と補給の為、最寄りのアスター島に上陸することになったのだ。

 アスター島は、サイネリア島と打って変わって、手付かずの自然が残っている。

 白い砂浜の先には、植物が生い茂るジャングル。


 気候はジメジメとして蒸し暑い。


 和也達は鬼人族の兵士と海棲族の列に交じり、ジャングルを突き進む。

 熱帯雨林に分類されるこの地域には、多種多様な生物が生息している。

 獣の騒がしい鳴き声があちこちから聞こえる。

 猿のような甲高い声に、身体がビクッと反応してしまう。


 和也は後ろをちらっと覗き見た。

 後ろを歩くライサンの耳が、ピクピクと激しく動いている。

 和也が感じ取れる以上のことを感じ取っているに違いないが、そのライサンが黙っている間は、危険はないと思って良いだろう。

 少しだけ安心し、前に集中。


 前方の天にまで届きそうな巨木を見上げる。

 巨木には蔓がびっしりと巻き付き、枝には鳥がとまり、所々に空いた洞は小動物や虫の住処となっている。


 和也は自然の神秘を感じつつ、歩を進める。

 そのまましばらく歩くと、開けた場所に出た。


 その場所は集落となっていた。

 丸太で作り上げた簡素な家が、不均一に並んでいる。

 それ以外に目ぼしい物は無い。サイネリア島と文明レベルが違いすぎると和也は思ったが、海棲族は海と共に生きる者達であり、陸上の生活には執着しないのだという。

 最低限の寝床さえあれば良いということか。


 「村長の所まで御案内致します」


 一人の若い海棲族の男が声を掛けて来た。


 上半身は裸、下半身は白いひざ丈のワイドパンツ。腰には赤い腰巻を巻いている。

 如何にも海の男というような恰好をしたこの男は、和也達に向かって左右の拳を突き合わせ敬意を示した。


 和也は少しだけ気まずさを覚える。


 クラーケンを倒す為に発動した神の槍、あれを使ってから、鬼人族の兵士や海棲族の和也達への態度が変わった。


 これまでは部外者として扱われ、どこか一線を引かれていたような気がするが、今は現人神のような扱いを受けている。これはこれで気まずい。


 海棲族達がどうしても村長に和也達を紹介したいと言うので、それを了承した。

 別に断る理由はない。


 この集落で最も大きい丸太小屋に案内された。

 小屋の中もシンプルな物だった。


 あるのは草を敷き詰められたベットと流木で作られた椅子だけ。

 その椅子に村長は座っていた。


 白い髪と白い髭を伸ばした老人で、優しそうな表情をしている。


 「おお、これは神の使い様方! お話は聞いております。さあ、どうぞおかけください」


 村長に促され、和也達は椅子に腰を下ろした。

 正確には神の使いではないのだが、わざわざ訂正することもだろう。


 「初めまして、俺は和也です」


 「僕は優斗です」


 「俺はライサンと言う。よろしく頼む」


 「御挨拶、感謝申し上げます。私はこの村の長をしております、サーゲンと申します」


 サーゲンは柔和に笑って和也達に言う。


 「何も無い所ですが、ごゆるりとお寛ぎください。今宵は、ささやかながら宴を開かさせて頂きます。どうか楽しんでくだされ」


 それを聞いて和也が言った。


 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます。ですが、俺達に過度な気遣いは無用です。普通の人間と同じように接して頂ければと」


 和也はそう言いながらも、それは難しいだろうなと思った。

 そして、サーゲンの反応は案の定であった。


 「そういう訳にはまいりません! あなた方が神の力を使い、クラーケンを討伐した聞いております。クラーケンは我々、海棲族の天敵。その怪物を神の力でお裁きになられたのであれば、それは神の使いとしか言いようがありませぬ。偉大なる海が、あなた方を遣わせたのでしょう」


 やっぱりそうか。

 まあ、村長の言っていることも理解できる。

 俺自身もこの力に驚いている部分はある。

 もし俺が村長なら、同じような反応になるかもしれない。

 

 「確か、海棲族は海を神として崇めているのだったか?」


 ライサンが、村長の言葉を聞いて質問した。


 「そうです。我々は海から生まれ、海に生かされ、海と共に死ぬのです。我々にとって海は必要不可欠。そのような存在を我々は神と認識しております」


 海棲族にとって海は信仰の対象。

 自然崇拝は日本神話も同様であるから、和也にはその感覚はスッと馴染んだ。


 優斗も和也と同様に理解を示す。


 「なるほど! 僕にはその信仰心が理解できます! それと、宴が楽しみです!」


 「ハハハッ。是非とも楽しんでください。神の使い様方に楽しんで頂ける事は、我々にとっては喜ばしいことです。是非とも、この村を活気づけて頂きたい」


 村長の有難い言葉。

 だけど、和也は少しだけ気になった。


 この村を活気づけて頂きたい。


 その言葉にどこか、虚しさと悲しみが含まれているような気がしたから。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 

 宴が始まった。宴は屋外で開かれている。

 

 木材で井の字に組まれた井桁が中央部に設置され、そこから炎が上がっている。

 宴の参加者達は、その炎の周囲に集まって酒を味わい、料理に舌鼓を打つ。


 和也は料理に満足していた。

 目の前には、色鮮やかな海の幸の料理が並んでいる。

 肉厚の魚がそのまま蒸し焼きにされた料理や、魚介類がたっぷり入ったスープや、伊勢海老のような大きな海老が、丸焼きにされた料理などだ。


 どれもこれも美味だった。


 魚の身を一口、口に入れた。やわらかい身は、軽く噛んだだけで解れ、深いコクが舌に広がる。


 魚介類のスープを啜る。新鮮な海の幸の香りが鼻から脳に突き抜け、脳内を至福で満たし、濃厚なスープが舌を喜ばす。


 和也は料理を楽しみながら、周囲の様子を窺った。


 少し離れた位置で、ライサンが海棲族達と楽しそうに踊っている。

 常識外れの身体能力を活かして、空で身体を回転させた後、見事な着地をしてみせた。

 その見事な演舞にパチパチと拍手が鳴り、得意げなライサン。


 別の場所では、優斗が鬼人族や海棲族と大口を開けて馬鹿笑いしている。

 肩を組み、酒を酌み交わし、身体を揺らし歌い始めた。


 あの二人……すごいな。


 和也は優斗とライサンのコミュニケーション能力の高さに感心しつつも、少しばかりの羨望と寂しさを覚えた。


 自分はどうやったてあの二人みたいには成れない。

 人には向き不向きがあるのだから、別に良いだろうと思う反面、あの二人がどこか遠いところに行ってしまった気がして、ほんの少しだけ哀しみが顔を出す。

 いつか俺は、皆に置いて行かれて一人になる時がくるのだろうか。もしそうなっても俺は大丈夫だろうか。

 

 少しだけ心が沈む。

 折角の宴だというのに、こんなことでは駄目だなと自分を戒めていると、突然、誰かに背中を突かれた。


 「ん? 何だ?」


 和也は後ろを振り向いた。


 「うわあ!」


驚いて心臓が跳ねる。

 目の前に仮面が迫っていたのだ。


 どこかの民族が被っていそうな仮面で、白と黒で模様が描かれている。


 そして、額の位置に穴が二つ開いており、そこからツノが突き出している。

 この者の正体は分からないが、鬼人族であることは間違いない。


 和也が驚いて固まっていると、仮面の者が笑い声を上げた。


 「アハハッ! 驚いた? ねえ、驚いた?」


 楽しそうにはしゃぐ、女の声。

 和也は改めて、この女を観察する。


 深紅の長い髪。細身の体格。茶色い衣を纏い、しゃがみ込んでこちらの反応を窺っている。


 「……そりゃあ驚くよ。それで君は?」


 「はぁ……、もっとドラマチックな出会いを演出しようとしたんだけど、我慢できなかったわ。こんな小さなサプライズじゃ、やっぱり駄目よね。反省、反省」


 何なんだろう、この女は。こっちの質問を無視して、意味不明なことを呟いている。


 和也が不審な顔をしていると、それに気付いた女が言う。


 「ああ、ごめんなさいね。こっちの話よ」


 女はそう言って、仮面を外した。


 和也はハッと息をのんだ。


 女の美しさに。白く透き通る肌の上に、完璧な黄金比でパーツが配置されている。

 この世界で様々な美人を見て来たが、この女は間違いなくトップクラス。


 まあ、もっとも、セリスには劣るが……。


 和也がそんなことを考えていると、女がこちらの目を覗き込んできた。

 金色の瞳に見つめられ、和也は言葉を失う。


 固まる和也を意に介さず、女は言葉を発する。


 「私はカヤ。見ての通り、鬼人族よ。年齢は十九」


 カヤの言葉に我に返った和也は、言葉を返す。


 「俺は和也……」


 「ふふん。知っているわ、貴方のことは」


 「え、どうして?」


 「私ね、決めたの。貴方について行くって」


 「なんだよそれ。だから、どうして?」


 「私にそんな口を利いても良いのかしら?」


 「さっきから君は何を言っている?」


 「私、見たんだから。カズヤが大王に喧嘩を売ったところを」


 「え!?」


 何故、それを知っている。

 あの場には、俺と優斗、ライサン、イグサさん、そして大王しか居なかった筈だ。

 大王に敵意を示したことが広まれば、この国の者達は俺達を敵だと認識するだろう。

 そうなれば、この国での活動は難しい。

 幸いなことに、あの場に居た者達は、噂を広めることを良しとしない者達だ。

 だから、こうして活動できている。そう思っていたのだが。


 「ああ、勘違いしないでよ。私は自分の目で見たんだから。噂で聞いたとかじゃないわ」


 「そ、そうか」


 どこかで見られていたようだ。

 謁見の間で、俺達以外の人の気配は感じなかったのだが……。


 女は口元を歪めて楽しそうに笑う。


 「分かるでしょ? 私がその事実を漏らせば、貴方達は終わりよ」


 「脅しか。……それで、何が目的だ?」


 「だーかーらー、言ってるでしょ。貴方について行くって」


 「いや、だから、それが分からないんだって。俺達についてきて君に何の得がある?」


 「面白いからよ。貴方、最高よ。これからも私を楽しませてね」


 「面白い? 一体、何を……」


 この女の言っていることがさっぱり分からない。

 これ程、人を混乱させる者も珍しいのではないだろうか。

 

 和也がそう思っていると、突然、後ろから誰かが叫ぶ声。


 「姫様! こんな所にいらっしゃったんですね!」


 後ろを見ると、鬼人族の兵士がカヤを見て叫んでいる。


 カヤは「ヤバッ」と呟いて舌を出した。そして和也に言う。


 「カズヤ、じゃあまたね!」


 カヤは素早く身を翻し、脱兎のごとく駆けだした。


 「姫様、お待ちください!」


 鬼人族の兵士が慌ててカヤの後を追う。


 和也は首を傾げ、小さく呟いた。


 「姫……様?」

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