第六十一話 再来の総統府
後日、和也達は再びマカリステラ総統のもとを訪れていた。
「驚きましたよ、カズヤさん! 早速、成果を上げるとは!」
総統は革張りのソファに座り、汗をハンカチで拭いながら和也を褒め称える。
「いえ、まだ成果と言う程のことはしていません。まずは、その取っ掛かりを掴んだ、というところでしょうか」
和也はそう答えて、右側に座る人物を見た。
ジェノ海洋国家連合軍、西部方面特殊作戦工作部隊隊長、イグサ・ハーロンを。
皆の視線がイグサに向けられている。
イグサは軽く咳払いして口を開いた。
「それにしても、本当に助かりました。まさかカズヤさん達と総統に繋がりがあったとは」
イグサは和也に言った。
私は、ジェノ海洋国家連合から単身、この地に乗り込んで来たと。
目的はマカリステラと交渉し、アネモス香の生産及び、流出を停止させること。
つまり、イグサは戦争を回避させたい穏健派に属しているということになる。
イグサは困っていたのだと言う。
ジェノ海洋国家連合の王は、開戦を進める強硬派。
何とか開戦を阻止しようと、イグサは王に何度も直談判するが、王は聞く耳を持たない。
交渉役として、マカリステラに大使の派遣を提案するが、それも拒否。
ジェノ国内に居ても何も出来ないと踏んだイグサは、単身マカリステラに渡航。
しかし、マカリステラ政府と何の繋がりもないわけで、各地の政府関係機関に訪れるも、まともに取り合って貰えなかった。
ここ総統府でも同様に正門前の警備兵に阻まれ、入館を拒否。
それにしても無茶をするな、と和也は思った。
門前払いで済んだようだが、下手をすれば捕らえられていた可能性もあっただろう。
そして、その正体が発覚した時にはどうなるか。
最悪、国家を陥れる重罪人として裁かれていたかもしれない。
それに、昨日の酒の席では、自分の身分を高らかに叫んでいた。
あまりに軽率すぎる。
まあ、そのお陰で今こうしているのだから、それは置いておくとしようか。
無策でこの地に乗り込んだことといい、昨日の酒の席での失態といい、イグサは残念イケメンという印象が和也の中で定着しつつある。
「それで、イグサさん。ここに来る前に話しましたが、アネモス香の生産と流出をストップすることは、今のところ難しいです」
「そのようですね……」
和也の言葉にイグサは俯いて、顎を指で触り思案する。
優斗が独り言のように呟いた。
「やっぱり難しいですよね。国のトップの頭が固いと、困ったものだよね」
確かに。ヴィクシャルン帝国とジェノ海洋国家連合、どちらも強硬姿勢を崩さない。
違う意見がぶつかり合い、お互い妥協点を探ることすらしないのならば、戦いが起きるのは必然だろう。
「ふむ。カズヤ、ここはやはり、セラフに知恵を授かるのはどうだろう? 何度もセラフのことを頼るのは、心苦しいところではあるが」
ライサンのその意見を聞いて、和也は少し考える。
それは、和也も考えていたことだ。
セラフならば、何か解決策を見つけてくれるかもしれない。
ネフェリオのことを訊いてみたい気持ちもある。
それをするにはセリスを頼らねばならないのだが、背に腹は変えられぬか。
「そうだな、ライサン。現状、手がない以上、それを検討する必要があるな」
「ちょっ、ちょっとお待ちください!」
「ん? どうしたんです?」
「今、セラフと言う単語が聞こえましたが」
イグサが驚いた様子で和也達を見ている。
そう言えば、セラフのことは説明していなかったか。
「はい、そうです。有翼族の盟主で、少し訳あって何度か世話になったんです」
「それは、それは……」
「どうしたのだ? イグサ」
和也の左側に座るライサンが、身を乗り出して和也の右側に座るイグサに問いかけた。
「これは活用できるかもしれません。聞いたことがあります。我が王はその昔、セラフと呼ばれる者に世話になったとか。そのセラフと繋がりがある貴方達の言うことであれば、多少は耳を貸してくれるかもしれません」
「そうなの? それは驚いたけどさ、少しややこしいんだけど、セラフって二人いるんだよ。僕達がお世話になったのはゼピロス様。そして、今回マカリステラの危機を回避するよう依頼を僕達にして来た人物、それがネフェリオ。正直、ネフェリオの方は敵になるのかな」
優斗のその説明に、イグサは戸惑いを見せる。
「そうなのですね……。王の言うセラフが、どちらのことを言っているのかは私には分かりません。それにしても……敵がそのような依頼をしてきたのですか?」
「まあ、そこ引っかかるよね。実は僕達も戸惑ってる。ネフェリオの考えが読めないからね。詳しくは後で話すけど、ある情報の開示を報酬に、ネフェリオから依頼を受けてるのさ」
「なるほど」
優斗の説明で、イグサは一応は納得したようだ。
そこで、ライサンが思ったことを口にした。
「なあ、セラフとの繋がりと言うが、ここに居る総統もセラフと繋がりがあるぞ。ネフェリオの方ではあるがな。もし、王の言うセラフがネフェリオならば、総統の話を聞いてくれるのではないか?」
「それは難しいでしょう。王はマカリステラの者達を相当に嫌っている様子。万が一、王への目通りが叶っても、最悪、王に殺される危険があるかもしれません」
それを聞いて、総統が小さく「ひえ」と悲鳴を上げた。
今までの話を聞いて、和也が意見を述べた。
「王の言うセラフがネフェリオの可能性は低いと思う。もしネフェリオの方ならば、ネフェリオが自分で説得すれば良いわけだからな。俺達に依頼してくる必要はないだろう。あるいは、すでに説得を試したが、聞き入れてもらえなかったか。いずれにしても王の説得に関しては、ネフェリオを頼れないだろうな」
ライサンが納得したように言う。
「ああ、確かにそうだな」
和也は考えた。
一番いいのは、ゼピロス様に足を運んでもらい王を説得してもらうことだが、セラフの制約で神聖都市カルデラドから動くことは出来ないと聞いた。
詳しくは知らないが、そういった制約があるのだとセリスが言っていた。
都合よくセラフの方から通信をしてくれないかな。とにかく話をしたいのだが……。
こちらからセラフに通信する手段はない。セラフからの一方通行だ。
そう都合よくいかないか……。
そのように和也が考えていると、ライサンが呟いた。
「ふむ。では、どうしたら良いだろうな……」
「行ってみようか」
皆の視線が和也に集まった。
「あれこれ考えても仕方がないのかもしれない。まずは行ってみようか、ジェノ海洋国家連合に。マカリステラの者ではない俺達が、第三者としてマカリステラの意見を伝えれば良い。イグサさん、王との面会の調整をお願いできますか?」
「それは勿論。セラフとマカリステラ総統、その二者との繋がりがあり、且つ、貴方達のような中庸的立場ならば……試してみる価値はあるかもしれません。それでも、説得は難しいでしょうが……」
「やるだけ、やってみましょう」




