表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
61/163

第六十話   夜の街で

 「あっはっはっ! 貴方は面白い人だ、カズヤさん!」


 「いえ、俺は何も言ってませんよ……」


 騒がしい酒場の室内で、イグサは大声を張り上げた。


 酒場はフロア一面仕切りが無く、吹き抜けの作りとなっており、あちこちから騒がしい音と声が聞こえる。


 店内は大勢の客で溢れ、賑わっている。大衆酒場のような雰囲気だ。


 イグサが近くを通りがかった店員を呼び止めた。


 「お姉さん! 麦酒お代わり!」


 イグサは既に結構な量のアルコールを摂取し、完全に出来上がっている。

 和也はイグサに注意を促した。


 「ちょっと、イグサさん、流石に飲みすぎでは?」


 「いえいえ、こ―――んなんじゃ、全然酔いませんよ」


 いや、完全に酔ってる。

 真っ赤な顔をして、顔が緩みきっている。


 この人はアレだな……酒が入ると豹変するタイプだ。


 こういう人は、普段の抑圧された性格のせいか、自分を解放した時の反動が大きい。


 今のイグサはまさにそれ。あの謙虚で礼儀正しいイグサは、見る影もない。


 和也は公園で会ったイグサに何となく親近感を覚えた。

 イグサの誘いに乗り、ここまで付き合うことにした。


 優斗とライサンも誘ったのだが、気を使ってくれたのか二人は辞退した。


 無理にでも来てもらえば良かったか。

 正直、この酔っ払いとタイマンはキツイぞ……。


 酒を浴びるように飲んで、一人で勝手に「ガハハハッ」と笑うイグサを見て、和也は嘆息した。


 イグサから色んな話を聞いた。まあ、勝手にベラベラと喋ったのだが。


 イグサの種族は鬼人族(オーガ)

 特徴はやはりツノで、そのツノから供給される膨大な魔力により、途轍もない剛力を発揮することが出来るのだとか。

 とても戦闘能力が高い種族だと聞いた。

 

 それから、イグサは愚痴を盛大に吐いた。


 何でも、自分の上司は頑固で、横暴で、独善的で、血も涙もない鬼なのだとか。

 

 一方的に愚痴を聞かされ、和也は辟易した。

 イグサの言い分は分かるが、こういうのは得てして、偏った主観を盛大に盛って喋るものだ。

 その上司の意見も聞いてみなければ、公平ではないだろう。


 とまあ、当然そんなこと言える筈はなく、和也は聞き手に徹することにした。

 

 「ところで、カズヤさん!」


 「……はい」

 

 「私はねえ、貴方を一角の人物と見込んでいるんですよお。貴方のことをもっと聞かせてください!」


 和也は少し困った。

 ざっくりと自分の身の上話はしたが、色々と省略したり、誤魔化したりしている。

 初対面の相手に自分は異世界から来たなどど言っては、余計な混乱をさせてしまうだろうし、天空の宮殿や、夢幻の魔晶石のことも同様だろう。

 だから、ソルランド王国から仕事でこの国に来たと伝えてある。

 

 あまりベラベラと自分の事を喋ると、綻びが出て何処かで破綻してしまうだろう。


 和也は話を逸らす為、話題を変えることにした。


 「いえ、自分は大した人間じゃないですよ。それよりイグサさん」


 「はい?」


 「この世界にどんな願いも叶える奇跡の秘宝があるとして、その秘宝を持っている人物を知っているとして、貴方はどうしますか?」


 少しだけ酔いがさめたのか、少し声のトーンを落としてイグサは答える。


 「どんな願いもとは、また大それた物ですねえ。でも、私はそんな物は欲しませんよ」


 「それは何故です?」


 「だって、それは他の方に譲るべきですよ。色々と愚痴を吐きましたが、私は、まあ客観的に見て恵まれている方でしょうし」


 なるほどな……。

 恵まれている方。

 それは確かにそうなんだろう。

 質の良さそうな鈍色の羽織と、その内側には和装を着こんでいる。

 その恰好だけを見ても、この者が裕福であることが見て取れる。

 加えて、公園での礼儀作法は、幼少より教育を受けて来た証だろう。

 

 どちらかと言えば、和也もイグサと同じ意見だ。


 しかし、今回に限っては譲れないものがある。

 何としても手に入れなければならない。

 これは最早、執念に近い。

 ひょっとしたら、手段と目的が入れ替わっているかもしれない。

 その自覚は多少はある。

 でも、もうここまで来たら後に引けない。

 

 「やはり、貴方は面白い人だ、カズヤさん」


 「いや、そんなことないと思いますが……」


 「ところで……人生は楽しむべきだと、貴方はそう思うでしょう?」


 「ええ、まあ」


 突然振られた脈絡の無い話に、和也は怪訝な表情を浮かべ返事をした。


 「そうでしょう、そうでしょう! では、いざ参りましょう!」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 

 魔石灯に照らされた看板が煌々と輝く。


 カラフルで淡い光が、路地を照らしている。


 ネオン街のような夜の繁華街を和也とイグサは歩いていた。


 「あ、あの、イグサさん、俺はやっぱり帰ります!」


 「そ―――んなこと言わずに、いいから、いいから!」


 和也の右腕はガッチリとイグサに掴まれている。


 和也の右腕を引き、イグサはどんどんと夜の街を突き進む。


 まいったな……こういう雰囲気は苦手なんだけどな……。


 それは、欲望が渦巻く夜の繁華街。

 その中でもこの雰囲気は、和也が特に苦手とするものだ。

 男女の欲望がどろどろと濃く、深く濁り、混ざり合った世界。

 

 イグサの握力は驚くほど強い。

 これが鬼人族の剛力、その力の一端か。


 帰りたいが、イグサがそれを許してくれない。

 イグサの勢いに負けて、ここまでついてきてしまった。


 やがて、壁に掲げられた明るく輝く看板の前で立ち止まる。


 「ここです!」


 イグサはそう言って建物の扉を開けて、和也の手を引きながら踏み込んだ。


 「ちょ、ちょっと!」


 中に踏み入り、和也は息を呑んだ。


 中はそれなりに広い作りとなっていた。

 薄暗い照明の下に、机とソファがいくつも置かれ、右端にはカウンター席。

 そして、煌びやかで露出の多いドレスを着て接客をする女達。

 その横で愉快そうに笑う男達。

 室内は、酒と香水と煙の匂いで充満していた。


 ああ、やっぱり。

 建物の外観から予想していたが、この店は女達が接客すること自体を生業とし、それを提供する場所。


 黒い服を纏った体格の良い男が近づいてくる。 


 「イグサ様、ようこそいらっしゃいました」


 黒服の男がイグサに丁寧に挨拶をした。どうやら、イグサはここの常連らしい。


 言われるがままに促され、和也とイグサは柔らかいソファに座らされる。


 ここまで来たらしょうがない。一杯だけ飲んだら失礼しよう。


 「お好きな物を頼んでくださいね! ぜーんぶ、私の奢りです!」


 「いや、それは悪いですよ」


 和也がやんわりと断ると、不意に上から声が振ってきた。


 「随分、気前が良いわね、イグサちゃん。それじゃあ私も良いかしら?」


 派手な髪型に、派手な化粧をした女が、そう言いながら和也とイグサの間に腰を下ろした。


 「マリー! 会いたかったよ! 勿論、好きな物を頼むと良い!」


 イグサは上機嫌に笑い、女の希望通り、高価そうな酒を注文する。

 そして、その女と楽しそうに談笑を開始。

 和也を置いて、二人の世界に入り込んでしまった。


 手持ち無沙汰となった和也の左側から、声が掛かる。


 「隣、失礼しますー」


 隣を見ると、水色のドレスを身に纏った若い女が、微笑みながら腰を下ろしていた。


 イグサの相手をしている女とは対照的で、化粧は薄く、髪も落ち着いた茶色がかった黒色。


 見ようによっては、地味とも言えるかもしれない女だが、胸元は大きく開かれており、そこからは巨大で凶悪な塊が覗く。

 

 和也は必死に自分に言い聞かせ、平常心を保つ。 


 その和也の緊張を察したのか、女は口元に手を当て上品に笑う。


 「お兄さん、そんなに緊張なさらず、リラックスしてくださいねー」


 女は間延びした喋り方でそう言った後、グラスに酒を注ぐ。


 その酒を差し出され、和也はグイッと一杯飲んだ。


 「あらー、お兄さん良い飲みっぷり」


 女は胸の前で小さく拍手した。


 その後、和也の左腿に手置いて、グっと顔を近づけてくる。


 「ちょっと、近い……な」


 女は、和也のやんわりとした拒絶の言葉を意に介さず、和也の瞳を覗き込む。


 「すてき……。黒くて、どこまでも真っ直ぐな瞳。その瞳は、神秘、自信、強さの象徴。だけど、なんだろう……不安、恐怖、そして、孤独……」


 何やらブツブツと意味不明なことを言い出した。


 「すまないが、ちょっと離れてくれないか?」


 一向に動く気配のないその女に、和也は少しだけ強く拒絶の意志を示した。


 「あら、ごめんなさい、私ったら。あんまりにもお兄さんの瞳が綺麗だったから。これお詫びね」


 女はそう言って、和也の左頬に口づけをした。


 「ちょっと!」


 和也は、驚きと苛立ちを交えて、抗議の声を上げる。

 

 だが、それは次の瞬間には搔き消されてしまった。


 「ああっ! ずるいですよカズヤさん!」


 イグサがこちらを指さして、大声で喚いた。


 それから、隣に座っているマリーと呼ばれた女に、猫撫で声でしゃべり掛ける。


 「ねえ、マリー。私にもキスしてよ~」


 左頬を差し出してねだる様は、正直気持ち悪い。


 「もーう、イグサちゃんったら、そういうのはダメって言ってるでしょう」


 「でもでも、向こうの彼女は!」


 「あとで彼女には注意しておくわ」


 マリーに一瞥され、和也の左隣に座る女は姿勢を正し、顔に反省の色を浮かべる。

 それだけで上下関係がハッキリと読み取れた。


 イグサはそれでも駄々をこねる。


 「でもでもでも!」


 「もう! イグサちゃん!」


 「わ、私は偉いんだぞ!!」


 「また、その話?」


 もう酔いすぎだよ、イグサさん。和也は呆れた目でイグサを見ていた。

 酔いすぎて完全に自分を見失っている。


 「私は! ジェノ海洋国家連合軍にその人ありと謳われる、イグサ・ハーロン! その人だぞ!!」


 「はいはい、分かった、分かった。分かったら落ち着きましょうねー、イグサちゃん」


 和也は雷に打たれたような衝撃を受けた。


 「ジェノ海洋国家連合軍―――!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ