表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第一章   天空の探求者達
6/163

第五話    契約

 「やったな相棒!」


 戻ってきた優斗がサムズアップをする。

 それをサムズアップで返し、真剣な口調でセリスに語り掛ける。


 「さあ、このままでは埒があきません。お互い妥協点を探りませんか?」


 セリスに剣先を向け、牽制したまま、言葉を投げかけた。


 「―――いいだろう。だが、その前に教えてくれ。何故、気づいた?」


 「別に確信があった訳ではありませんが……。いくつか違和感を感じました」

 

 「違和感?」


 「最初に感じた違和感は、あなたが封印されていたことです。あなたは敵に襲われて、自身を封印したと言った。逃げるのではなく、封印だと。そこに違和感を感じました。ですが、これはあくまで少し気になった程度です。状況によってはやむを得なかったのかもしれませんから」


 「……それで?」


 「次は騎士のことです。あの騎士には大きな特徴があった。アレと戦って確信したんです。気絶、瀕死等で意識が弱まると敵意(ヘイト)が薄れることを。だけど俺達は、そんな情報を貴方から聞かされていない。だからこう考えました。貴方が意図的に情報を伏せたんだと。そして、そこから更に考えました。悪意を持って伏せたのかもしれないと。なので、それを確かめる為に策を打ちました」


 優斗が自慢気に大楯を掲げた。


 「これで和也の顎をゴツンとね」


 和也は、その優斗の発言に頷いてから補足する。


 「気絶して、騎士の敵意(ヘイト)を受け付けないようにしました」


 セリスは理解した。

 そういうことか。先程、和也の意志を拾えなかったのは死亡ではなく、気絶の為。

 てっきり死亡したと勘違いし、私は三体のガーディアンを全て、優斗に差し向けてしまった。

 そして、ガーディアンも意識の無い和也には無反応。優斗を追い、この部屋からガーディアンを引き離したという訳か。


 「そして、気絶した後に、タイマー式に自動で力が発動するようコントロールしました。優斗がガーディアンを遠くに引き離す時間を予測し、その時間にちょうど目が覚めるようにです。ぶっつけ本番でしたが、何故だか上手く行く気がしました」


 「まさか! ありえない!」


 セリスが叫び、顔を歪ませた。


 これ程の短期間で、神意(シンイ)を発動させるなど、聞いたことがない。

 あまつさえ、その力をコントロールしているだと……あり得ない……。


 「騎士の配置、貴方の能力、色々と不明点が多く、賭けの要素が強かったですが、座して待つよりは良いかと考えた訳です。だけど本当に、ここまでする必要があるのか。俺の妄想にすぎない。そうも思いましたが、どうしても最悪の可能性が拭えなかった……」


 「……その最悪の可能性とは?」


 「あなたの立場が逆だった場合です。あなたは襲撃を受けたと言った。その逆、つまり―――あなたが実は、襲撃者である可能性です。あなたは自らを封印したのではない。何らかの罠、もしくは、本当の住人に撃退され、封印されてしまったのでは? もしそうだとしたら、俺達は貴方に利用される可能性が高い。そう考えました」


 セリスの眼光が鋭さを増した。


 「……フッ、フッフッ、ハァッハッハッハッハッハッハッ!!」


 悪魔の如き笑みを浮かべ、邪悪な笑い声を上げる。


 「お前の言った通りさ。素晴らしいよ! お前は! いや、お前たちは! ―――だが、すべてが嘘ではないさ。神意(シンイ)は簡単に使いこなせない。お前たちは死ぬはずだった! それに……襲撃ではないさ。本来、此処の所有者は、私たちだ!」


 「本来の所有者……とは?」


 「今から数千年以上前の話だ。私たち有翼族は、ここの守り手だった。―――だが、ある時、ここを放棄した。今となってはその理由は分からない。その理由を知ることは、禁忌だとされている。私はただ、帰還しただけだ」

 

 それを聞いて、和也が言葉を引き継いだ。


 「―――そして、いざ帰還したは良いが、ガーディアンに撃退されてしまった」


 「業腹だがその通りだ。私たちは法術で色々と出来るが、戦闘は不得意なのさ。まさか、あのような兵器が稼働するとは予想外だった……」


「……概ね理解しました。しかし核の部分を聞いていません。ここに来た目的はなんです?」


 セリスは一呼吸して語りだした。


 「初めはお前たちも、それが目的だと思っていたんだがな……。異世界の住人などと語り、私を騙そうとしていると思っていたが、まさか本当に……いや、話が逸れたな。―――夢幻の魔晶石、それが目的さ」


 「それは一体なんです?」


 「魔力とは生命の源。この世界を巡る血液。だが、あやふやで霧散し易い物でもある。一か所に留めておくには器が必要なのさ、人の体もその一つだ。……しかし、器であるからには限界がある。器に水を際限なく注ぐことはできない。……だが、夢幻の魔晶石ならそれが可能だ。底のない魔力の受け皿、それが夢幻の魔晶石だ」


 「なんか凄そうですけど、それが何?」


 優斗が率直に疑問を口にした。


 「その魔晶石には、過去数千年分の膨大な魔力が蓄積されていると聞く。それほどの魔力さ、この世の法則ですら書き換えることが出来るかもな」  


 この世の法則すら変える……。まさに神の力だ。だがそれならば……。


 「どうやら、落としどころが見えたようです。ここには夢幻の魔晶石は無かった。そして、この世から消えたわけでもない。そうなんでしょう?」


 「―――フッ。その通りだよ。これでも神の使いと言われる種族の端くれ。使用されれば分かる。断言する。まだこの世界にある」


 「ならば……協力して探しましょう。それがあれば、元の世界への帰還も可能なんでしょう?」


 「ハッ、可能だろうさ。だが……」


 「はい、分かっています。俺達かあなたか、手にするのはどちらかです。ですが、見つけるまでは手を取り合えると思えませんか?」


 「……いいだろう。どのみち、私に選択権はない」


 セリスは、向けられる剣を一瞥して笑った。


 「神の使いが(イチ)、セリスティナ・アウゼ・エクセルラン。私が、お前たちと契約してやろう。目的を達成するまでは、手を取り合おうぞ」


 …………ひとまずは切り抜けたか。そう安堵するのも束の間、今後の苦難を想定し思考が流されそうになる。それを振り払い、精一杯の虚勢を張る。 


 「悪魔との契約じゃないでしょうね?」



※ ※ ※ ※ ※ ※



 天空の宮。そう聞いた時、ある予感があった。ここは異世界、元の世界の法則には縛られない。


 「嘘……だろ……こんな」


 優斗が絶句する。

 無理もない。目の前には青が広がっている。青い空、そして白い雲。

 天空―――。その名の通り、天空に浮かぶ宮殿。


 眼下に臨むは草原、そして大森林。どうやら、大地がそのまま空に浮かんでいるようだ。


 「それほど驚くか? まあ、下界の住人では無理もないか……」


 「いやいや、元の世界では大地は空に浮かんでませんし、魔力や魔法なんて物もありませんから」


 この非常識人に常識を叩きつける。


 「なに? ……どうやら神に見捨てられた世界のようだな」


  その言葉には少しの憐みが混じっていた。


 「うーん、見捨てられたってのとは違うんじゃないかな。日本には八百万の神……神は自然に宿るって言うのかな? 自然は神で、人はそれに生かされてるって僕は解釈してるけど―――」


 優斗は自身の考えを述べる。意外と自分なりの宗教観を持っているらしい。


 「面白い考えだが、自然……というより、世界が神の意志そのものなのだ。故に、起こりうる全てを受け入れよ。すべてが神の御意思なのだから」


 「……いや、なんか自分の行動を肯定してない? あなたが僕たちを騙したこと、忘れないっすから」


 「貴様!」


 後ろで、優斗とセリスが言い争っている。

 ついさっきまで敵対していた相手と、ここまで馴れ合えるのは流石だ。

 別に俺だって今は、セリスのことを敵だと思ってはいない。

 だけど、優斗ほどすぐには割り切れない。


 そんなことを考えながら、眼下に広がる光景を見つめた。少し遠くに森林が広がっている。

 この宮殿には水と食料の備蓄が無い。勿論隅々まで探せてはない。

 どんな仕掛けがあるか分からないので、徹底的には調べれないのだ。


 正直クタクタだ。今すぐ休みたい。だが、水の確保だけでも急務だ。


 BGMと化していた二人の言い争いが、いつの間にかヒートアップしている。


 はぁ―――、この先、大丈夫だろうか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ