表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
58/163

第五十七話  二人の誓い

 ソルランド王国、獣人居住区、商店通り。


 「これは……すごいなあ」

 

 「ふふっ、そうでしょ」


 優斗の感嘆の声に、エイナは朗らかに笑った。


 二人は幅の広い通りをゆっくりと歩いている。


 多くの獣人が行き交い、そこかしこでしゃべり声や笑い声、怒声に叫び声が、かしましく響いている。


 通りの脇には、果物や野菜などの食料品や、アクセサリーなどの小物類、用途不明の雑貨を売買するバザールが並んでいる。


 以前には無かった光景だ。


 活気に満ち、獣人達の顔は明るい。


 ソルランド王国の国王アドラが突然失踪した為、一時期この国は混乱を見せたが、後を継ぎ国王となったロイスと、その腹心ダイゼムなる大臣の改革により、人と獣人の関係は劇的な変化を見せている。

 ロイスはまだ十八と若いため、実質の政治はダイゼムが行っているようだが、その敏腕ぶりには目を見張るものがある。

 アドラと共に前任の大臣も突然失踪した為、大臣の席が不在となった。

 そこへ、ロイスがごり押しでダイゼムを大臣に登用したのだ。

 突然の大臣登用であったが、ダイゼムは獣人排斥派を上手く抑え込み、国の政策を瞬く間に融和路線へと切り替えた。

 

 今では人族と獣人族の交流が再開され、人族から物資が獣人族へ流れるようになった。


 その結果の一つが、この商店通りに現れている。


 優斗はついつい顔が綻んでしまった。

 獣人達の幸せは、我がことのように嬉しかった。


 嬉しくて、あちこちに目移りしてしまう。


 強面の獣人のおじさんが声を張り上げて、自分の商品である果実が如何に美味か熱弁している。


 首飾りを購入しようかと迷っている若い女性と、店主の値切り交渉が白熱している。


 用途不明の雑貨を大量に購入し、店主を喜ばす中年の男が居る。


 混沌の様相を呈しているが、見ているだけで退屈しない。


 そして、あることに気が付いた。


 「おう、エイナちゃん! 元気か?」


 「エイナ! またよろしく頼むよ!」


 「エイナちゃん、今日も可愛いね!」


 エイナに掛けられる声がとても多い。

 そして、それは主に獣人の男性からだ。


 優斗は思う。

 それは多分、エイナの雰囲気が依然と比べて柔らかくなったからだ。

 以前は少し取っ付きにくい印象があった。

 それが今は、柔らかい雰囲気の美人だ。

 それを放っておく男は居ないだろう。


 エイナの交友関係が広がる、それ自体は良いことの筈だが、優斗の心にモヤモヤした物が住み着いている。


 優斗にはその感情の正体が分かっていた。

 器用な優斗は、すでに自分の感情を制御しつつある。

 常人が一生を懸けても成し遂げられないそれを短期間で成し遂げようとする優斗は、すでに人の域を超えているのかもしれない。


 だから、優斗はモヤモヤに自分を支配されることはない。


 優斗はエイナが両手に抱えている荷物をヒョイと持ち上げ、エイナの負担を無くした。

 自分もすでに両手で荷物を抱えているが、うまくバランスをとって荷物の上に荷物を載せた。

 優斗の荷物は金属の鍋や調理用具なので潰れる物ではない。

 その辺のケアもバッチリだ。

 

 「どう? すごいでしょ?」


 と、笑顔でエイナに自慢するように問いかけた。


 「もう、ユウトったら無茶して。でも……ありがとう」


 エイナが少しはにかみながら答えた。

 そのエイナの顔を見て、モヤモヤが晴れる気がした。

 なんだかこのモヤモヤを晴らすために取った行動のような気がして、自分は本当にモヤモヤに支配されていないんだろうか、と心配になったが、もう一度エイナの笑顔を見たら、そんなものは何処かに消し飛んでしまった。


 「エイナ、最近頑張っているみたいだね?」


 「どうかな? 頑張ってはいるけど、まだまだよ」


 エイナはアガペウス教の信徒として、セリスを支えるセリスの右腕だ。


 日々、やることは山のようにある。


 今日の買い出しも、個人的な買い物ではない。

 物資が足りなくて困っている者へ届ける為にしていることだ。

 こういった地道な活動がやがて実を結ぶことをエイナは信じているし、勿論、優斗も同じだった。


 「私のことよりも、ユウト達の方が心配よ。また厄介な問題になってるみたいだけど……」


 優斗は今の状況を全てエイナに話した。

 今直面している問題は、ネフェリオからの依頼のことだ。

 ネフェリオなる人物が何を考えているのか分からないのが不気味だし、それが一番の問題だと優斗は思う。


 「大丈夫! 心配ない!」


 優斗は心の内の心配をとびっきりの笑顔で吹き飛ばし、エイナを安心させることにした。


 優斗の笑顔にエイナは、クスクスと笑う。


 そして、そのまま談笑を続けながら曲がり角を右に曲がり、真っ直ぐ進む。


 その直後、優斗が急に足を止め、荷物を置いて、来た道と逆方向に走り出した。


 そして、角を左に曲がり、目の前の人物に声を掛けた。


 「あのさあ、バレバレだから、僕達の後を付けてるの」


 声を掛けられた男は、体をビクッと震わせたあと、身を翻してその場から逃亡を図った。

 

 「まて!」


 優斗の制止を無視し、男は全速力で駆けた。


 その男は、脇目もふらず全力疾走。

 途中、バザールで商品を物色している男とぶつかりそうになり罵声が飛ぶが、それも無視して全速力で駆ける。


 足が悲鳴を上げても走り続け、やがて体力の限界を迎え、立ち止まった。


 「ハァ、ハァ…………ここまでくれば、大丈夫だろう」


 男は荒くなった息を整えながら、逃げ切れたことを確信する。

 昔のようにはいかないが、走るのは得意な方だ。


 「君、遅いね。修練が足りてないよ」


 「なに!?」


 男は信じられない物を見たというような顔で、後ろを振り返った。

 先程の若い人族の男がそこに居た。

 嘘だ!? 絶対に引き離せたと思ったのに!


 優斗は目の前の男を観察した。


 やせ型の獣人で男性。年は自分と同じぐらいだろうか。

 顔には自信の無さそうな表情が浮かんでおり、茶色いボロボロの衣を纏っている。

 悪いけど、お世辞にもモテそうとは言えないな、と優斗は思った。


 「おっ、お前はエイナちゃんの何なんだ!」


 男が声を張り上げた。

 優斗はそれを聞いて察した。


 ああ、つまりはエイナのストーカーか。


 そして少し考える。

 自分はエイナの何なんだろう。

 仲間と言ってしまえばそれまでだが、それは何か逃げたような気がして回答に詰まってしまう。


 そうこうしている内に、後ろから追いかけて来たエイナが声を張り上げた。


 「恋人よ!」


 「「え!?」」


 ストーカー男と優斗は同時にリアクションした。


 すこし冷静になれば、優斗の反応からそれは嘘だと分かりそうなものだが、ストーカー男はもうそれどころではない。


 そしてエイナは追撃を繰り出した。


 「今、私達はとても仲良しよ! だから、もう付きまとわないで!」


 男は顔を地面に埋め、泣き出してしまった。


 ウォーン、ウォーンと言う泣き声が辺りに響き渡り、それは暫く続いた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 優斗は、筒型の陶器に注がれたハルモニア茶をズズッとゆっくりと啜った。


 今になってどっと疲れが押し寄せて来て、長い溜息が出る。


 ストーカーの件がなんとか落着し、その後もエイナの仕事を手伝い、ようやくアルバトロン家で腰を落とすことが出来た。


 それにしても、あのストーカーには困ったものだ……。

 

 エイナにキッパリと突っぱねられたストーカーは、人目も憚らず大泣きし、大勢の注目が集まっても泣き止むことはなかった。


 それを見兼ねた優斗とエイナは、何故かストーカーを慰める役に徹し、その介抱の末、どうにかストーカーから、もうエイナに付きまとわないと約束させることに成功。


 エイナはその男に慈悲を見せ、あろうことかアガペウス教会への入信を勧めた。

 男は当然それに承諾。まるで女神を見るような目でエイナを見ていた。

 男は心を入れ替えて頑張ります、と言っていたが、今後注視が必要だなと優斗は思っている。


 「色々と手伝ってもらって、ありがとね」


 机を挟んで対面に座るエイナが、優斗を労うように言った。


 「いやいや、全然大丈夫さ」


 笑顔で言う優斗を見て、エイナも笑顔を浮かべたが、その後、視線を下に落としソワソワし始めた。


 「あ、あのね……ユウト」


 「ん?」


 「さっきのさ、ほら……」


 優斗は何となく察することが出来た。

 多分、ストーカーを拒絶する為についた嘘のことだろう。


 「ごめん、咄嗟に私、あんなこと言っちゃって。あっ、で、でも、あながち間違ってないって言うか……い、いや違うか。ご、ごめん!」


 優斗は右の掌をエイナに向けて制止の意を示すと、熱いお茶をグイッと一気に飲み干した。

 熱い液体が身体の中心を満たし、細く息を吐く。


 「エイナ、あのさ、僕の感情のことは以前、話したろ? だから、今まで少し自信がなかったんだ。だけど……もう誤魔化すのはやめるよ。僕は、エイナが好き……なんだと思う」


 言ってしまった。吐いた言葉はどうやっても戻らない。

 顔が熱くなるのを感じる。これは熱いお茶のせいではないだろう。


 それを聞いてエイナは放心状態。

 しばらくすると、みるみる内に顔が真っ赤になっていく。

 そして、立ち上がって手足をバタバタし始めた。


 小さく円を三回描くように歩いたところでようやく少し落ち着き、優斗に向き直った。

 

 優斗は空気を読み、立ち上がってエイナと視線を合わせる。


 「ユ、ユウト! そ、その……よ、よろしくお願いします……」


 どんどん声が小さくなって、最後の方は殆ど聞こえなかったが、優斗には何ら支障はなかった。


 優斗はエイナに近付き、エイナの両手を握ったあと、気持ちの良い笑顔で「こちらこそよろしく」と伝えた。


 エイナの顔がもう一段階赤くなり、また落ち着きなく部屋を動き回る。


 「あっ、そ、そうだ! 私、用事を思い出しちゃった! ユウトはゆっくりしててね!」


 「ちょ、エイナ!」


 エイナには優斗の声は耳に入っていないようで、裸足のまま外に飛び出してしまった。


 取り残された優斗は少し悩んだが、クスッと笑ったあと、結局はエイナを追いかけることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ