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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第三章   海と森と氷と
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第五十六話  二人の時間

「そんなことが…………」


 セリスが神妙な顔をして呟いた。


 ソルランド王国、アガペウス教会。


 この国唯一のアガペウス教の教会は、何の変哲もない二階建ての住居となっている。

 国から迫害を受けていた為、教会をカモフラージュする必要があったのだ。

 内装は茶褐色の壁、床には白と赤で模様が描かれた絨毯が敷かれ、家具は質素で実用的な物が並ぶ。

 この国では、ごく普通の内装。

 

 そんなこの国唯一のアガペウス教会の一室で、和也はセリスと顔を突き合わせていた。

 質素な木製の椅子に対面で座り、真剣な様子で顔を見合わせている。


 和也は、今までの経緯を簡潔にセリスに説明した。


 天空の宮殿で拘束しているリーラの様子や、そのリーラの背後から突然現れたネフェリオと名乗る男のこと、そして、ネフェリオから依頼を受けたことなどを。


 「これが本物か鑑定できるかな?」


 和也はそう言って、ネフェリオから受け取った言霊石をセリスに渡した。

 

 「これは……」


 セリスはその石を手に取ってじっくりと眺めた。

 そして少し唸った後、結論を述べた。


 「これは本物と見て良いだろう。神聖都市カルデラドに居た時、一度これと同じものを見たことがある。内側に内包された魔力の濃さからしても、間違いないだろう」


 本物だったか。

 これで後顧の憂いを絶つことが出来た。


 「そっか、それじゃあこの依頼、受けるべきか……」


 「難しいところだが、何らかの罠であることは警戒しておいた方が良いだろうな。カズヤ、ちなみに、依頼に失敗した時はどうなる?」


 「うん、失敗した時のペナルティは特にないらしい。つまり依頼を受けるだけであれば、俺達が負うリスクは殆どない」


 「ふむ。うますぎる話に思えるな。そのネフェリオと言う男、何を考えているのやら……」


 「セリスはネフェリオのこと知らないのか? かつてはセラフと呼ばれていたと言っていたけど」


 「ああ、そのような者の名は聞いたこともない。セラフ……ゼピロス様に聞けば、何か知っているかもしれないが……」


 ゼピロスに会いに行くには、またセリスに頼らなければならない。

 だけど、それは難しいだろう。

 

 「それにしても、アガペウス教の教皇の地位を継いだんだって? すごいじゃないか!」


 そう、セリスはこの国の復興の為、行方不明となっているベナンテスに変わり、教皇の職を務めている。

 教皇が簡単にこの国を飛び出す訳にはいかないのだ。

 それに、日々あらゆる雑務に追われ、時間的な余裕もない。

 

 「まだ新米で頼りないがな。日々、信徒達に助けられてばかりだよ」


 「いや、そんことないさ。セリスは良くやってるよ」


 「ありがとう。それとすまない。私は暫くこの国から離れられそうにない。お前の役に立てるのは、この鑑定ぐらいさ」


 セリスは言霊石を机の上で弄りながら、自虐的に笑う。


 「そんなことないって。鑑定してくれただけで、かなり助かったよ。それに…………これは、二の次だよ」


 「二の次?」


 「なんやかんや理由をつけてここに来たけど、本当はセリスに会いたかったからここに来た。それだけだよ」


 「カズヤ……」


 セリスの頬が薄い赤に染まる。

 壁に掲げられた魔石灯の明りで瞳を輝かせながら、恥ずかしそうに視線を下にやる。


 和也は、机の上に置かれたセリスの両手を自分の手で包み込んだ。


 セリスがそれにハッとして、和也の瞳を見つめた。


 二人の間で会話は無いが、もうすでに二人の世界が出来上がっている。


 和也は思った。この時間が永遠に続けば良いのに、と。




 「あのー! すみません、セリス様! 少しご相談が!」


 幸せな時間は、唐突に終わりを告げる。


 この部屋の扉の外から、セリスを呼ぶ信徒の声。


 「フッ、行かなくてはな」


 「無理しすぎないように」


 「ありがとう。カズヤも」


 和也は最後にもう一度、セリスの両手を強く握った。

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