第五十三話 絆を愛に、愛を誓いに
天空の宮殿への帰還を翌日に控えたある日。
和也はセリスを誘い、街を回ることにした。
最後にもう一度、この街を見ておきたかったのだ。
時刻は昼過ぎ。
強い日差しが肌を焼くが、今日はいつになく、風が少しばかりの湿気を帯びており、ひんやりとした冷気を運ぶ。
そんな、いつもより過ごしやすい陽気であった。
和也は、道行く人を観察した。
子供が元気に走り回り、若い夫婦がその様子に微笑んでいる。
別の場所では複数の男女が談笑し、時折笑い声が上がる。
少年たちが革のボールで何やら遊びに興じている。
皆の顔には、笑顔が浮かんでいた。
和也はそれを見て嬉しくなった。以前には見られなった光景だ。
以前は治安の悪さから、気軽に外に出歩くことは憚られていたのだ。
イベントなどで時折集まることはあっても、今日のように何も無い日に大勢の者達が外をぶらつくのは珍しい。
こうも変わるものか、と和也は驚いた。
和也とセリスは、街の様子を観察しつつ歩き続けた。
砂を踏みしめながら、茶褐色の家々が脇に並ぶ通りを進み、いつかライサンと仕合をした広場を越え、やがて西風停へとたどり着いた。
「セリス、少し屋上で休んでいかないか?」
「ああ、そうだな」
二人は西風停の側面に備え付けられた階段を昇って、屋上に到達した。
和也とセリスは屋上の手摺に手を付き、この街の景色を眺めた。
あちこちから獣人達の喧騒が聞こえる。それは、日常の生活音。
その音を拾い、イメージを膨らませる。
笑い声に、泣き声、怒声、走る音に、手を叩く音。
その一つ一つに注意を払い、その一つ一つから聞こえる確かな命の音に、思いを馳せる。
一迅の風が強く吹き、セリスの髪をなびかせた。
綺麗な白銀の髪が風に揺れ動く。
特に何をする訳でもないのに、それだけで絵になる。
和也はセリスの横顔をチラリと覗きながらそう思った。
「カズヤ、この国をどう思う?」
それはいつの日にか、セリスから聞かれた質問だった。
和也は、それに答えた。今度はハッキリと自信を持って。
「うん。とても良い国だよ」
「フッ、私もそう思うよ」
二人はお互いに顔を見合わせて、笑い合った。
そして、自分の髪を弄りながら、セリスが躊躇いがちに言う。
「少し……寂しくなるな」
「うん」
「まあ、しかし、今生の別れという訳ではない」
「うん」
「フッ、このように湿っぽくなってはいけないな。これはお互いの晴れの日でもあるのだ」
「うん」
「って、カズヤ。さっきから、うん、としか言ってないではないか」
「うん」
「ほらまた! そうやって、お前は―――」
「好きだ」
「―――えっ?」
「好きだって言ったんだ、セリス」
「おっ、お前はまた、そうやってからかって―――」
和也が自分の手をセリスの手に重ねた。
視線はもう、外さない。
ただ一心に、綺麗な翠の瞳を見つめる。
身体が熱を帯びている。顔が真っ赤になっているかもしれない。
それでも、その手は離さない。その視線は外さない。
セリスの薄い唇が開かれた。
「カズヤ、私もだ。私もお前が好きだ」
「ありがとう」
そこからのことは、あまりよく覚えていない。
熱に浮かされ、地に足がついていない状態だったから。
だけど、確かに築かれた絆を忘れることはない。
砂の国の遠征の締め括りが今、始まった。
二人を祝福するように、風が強く吹き抜けた。
これで第二章は終了となります。如何だったでしょうか?
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