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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第五十話   共鳴

 天空の宮殿、エントランスフロア。


 「う、うそだろ……。和也、それは……間違いないのかい?」

 

 大理石のように艶やかな床の上で、和也から衝撃の事実が告げられた。


 和也が告げた事実に、優斗が逸早く反応。

 それ以外の面々は、あまりの衝撃に声が出ない。


 和也は、ここに集った面々をもう一度見回した。

 皆、驚き、戸惑っている。

 その反応を確認し、和也は、最初から順を追って説明することにした。


 「パルテノの、最後の言葉が気になったんだ。あいつは、自分が死ねば仕掛けが発動すると言っていた。それは、ソルランド王国の何処かで仕掛けられている筈だ。だから、イーリスに地上の様子を探って貰ったんだ」


 そこからは、イーリスが引き継いだ。


 「はい! あたしが、集合的意識で読み取った情報です。ソルランド王国のある場所で、とても大きな、意識の爆発が確認出来たです! 沢山の意識が流れ込んできて、うまく精査できなかったですが、読み取れたのは、怪物、巨人、恐怖、逃走、影、死、なのです」


 イーリスのその説明を受け、和也が自分の考えを述べる。


 「イーリスが言ったこのワードから、巨大な影が地上に現れて、人と獣人が逃げ惑っている事態が起きていると想定する。巨大な影、恐らくこれが、パルテノの言った仕掛けだろう」


 次にセリスが表情を歪めながらも、努めて冷静に言った。


 「ならば、私達はどう動くか……。そのような怪物、私達にどうにか出来るだろうか……」


 そして、ライサンが力強く言った。


 「俺は、とにかく地上へ行くべきだと思う。自分の故郷をそんな怪物が好き勝手しているのを放置できない」


 「私も兄さんと同じ気持ち。私では足手まといかもしれないけど、もうこれ以上、好き勝手は許せない」

 

 ライサンの意見にエイナは賛同した。

 そのエイナの言葉には、熱がこもっている。


 「ああ、俺もライサンとエイナの意見に賛成だ。とにかくここに居ても仕方がない。イーリス、その場所は特定できるか?」


 和也の質問に、少し難しそうな顔をしてイーリスは答えた。


 「拾えた情報では、とても広い場所で、岩と土、王都近く、などの情報です」


 イーリスの発言を聞き、ライサンがすかさず答えた。


 「それならば、該当する場所は一つだ。アルダイル荒野。その場所だろう」

 

 「よし、アルダイル荒野だな。とにかく向かおう。ライサン、案内を頼めるか?」


 「ああ、勿論」


 「和也、待って、メンバーはどうする?」


 「メンバーは、最小限に絞りたいと思う。俺とライサン、セリスでどうだろう? その場で対処出来なければ、セリスの法術でその場から一旦退却する。どうだ?」


 和也は優斗の質問に答えた後、この場の者達に自分の意見の是非を問うた。

 そして、それに反論する者は居なかった。

 皆、未知の敵への不安と恐怖を抱えていたが、冷静に考えて、その選択が現状の最善だと理解していた。


 その時、ここに集った者全員の頭に声が響いた。


 老人のような妙なしゃべり方でありながら、子供のように高い声が。


 「あー、聞こえるかのー、お主ら」


 「この声は―――、セラフ!!」


 セラフの声に和也が反応した。


 「セラフ、一体どうされたのですか!?」


 「うむ。お主らのことが気になってのう、覗き見させてもらったのじゃ、すまんのう」


 セラフは、和也の質問に暢気な調子で答えた。


 和也は思った。

 セラフからの通信には驚いたが、これは好機だ。

 再び知恵を貸してもらえるかもしれない。


 「では、助言をお願いします! 今、下界が大変なことになっているかもしれません!」


 「そうじゃのう。余が読み取ったところ、下界で巨大な影の魔神が暴れておる」


 そのセラフの言葉を聞いて、驚愕の声が上がる。

 想定していたとは言え、心のどこかで願っていた。

 今までの情報は誤りで、本当は地上は何事もなく、平穏そのものであることを。

 それがたった今、否定されてしてしまった。皆の心に絶望が去来する。


 「それでは、俺達はどうすれば良いでしょうか!?」

 

 「余から言えることは一つだけじゃ。カズヤ、そしてユウト、お主ら真名解放者が二人揃っておるではないか。お主らなら分かる筈じゃ」


 優斗が自分の名前を出され戸惑っている。

 それは和也も同様だ。セラフは何を言おうとしてるのだろう?

 何が俺達に分かるというのだろう?

 

 和也は、対面に立っている優斗の顔を見つめた。

 優斗も同様に和也を見た。


 そして、二人とも笑う。もはや以心伝心。この瞬間、確かに分かったのだ。


 俺達なら出来る。


 二人の意志を感じ、セラフが不敵に笑う。


 「カズヤ、ユウト、―――ぶちかましてこい」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 

 

 アルダイル荒野は、すでに地獄と化していた。

 

 人と獣人の叫びが、荒野に響き渡っている。

 荒野には血と肉が溢れ、風が死の匂いを運ぶ。

 

 逃げ遅れた者は容赦なく潰された。

 辛うじて逃げ出せた者も無事では済まない。

 人の波に飲まれ命を落とすもの。錯乱し正気を失う者。

 正気を失い、仲間同士で争う者。

 まさしくここは、混沌の大地。


 

 魔神の殺戮は終わらない。この国の全てを破壊し、殺し尽くすまでは。



 「これは……想像以上だな……」


 「うん。これは地獄だ……」


 影の魔神から数キロメートル離れた位置、黄土色の巨大な岩の上に、和也と優斗は立っていた。

 

 セラフの技により、この場に転送された二人は、想像以上の地獄に言葉を失う。


 それでも、二人の心が折れることはない。


 この地獄を終わらせる為に来たのだから。


 「優斗、いけるな?」


 「ああ」


 二人とも、何をどうすれば良いかは分かっていた。

 

 誰に教わった訳でもない。


 ただ、分かるのだ。


 和也は、目を閉じた。そして、深く集中。

 アスクレピオスに呼びかける。その呼びかけに応えが返る。

 

 そこから、探る。


 集中し、探る。


 集中。


 探る。


 そして、見つけた。


 輝く意志を確かに感じる。


 その意志と自分の意志をリンクさせる。


 

 「優斗!」


 「ああ! 和也!」


 

 それは、巨大な槍だった。


 全長八十メートル、横幅十メートルの黄金に輝く巨大な槍。


 その槍が、二人の上空に現れた。


 これは、神意アスクレピオスの莫大なエネルギーと、神意アイギスの黄金の意志を具現化する力が合わさることで顕現した、神の力。


 真名を開放させたこの二人にしか成しえない、神意共鳴、究極の奥義。


 

  顕現せし神の力(ケラウノス) 



 その巨大な槍は、意志を持っているかのように、自ら狙いを定めた。

 そして、強く輝きを放ちながら、主の許可を待っている。


 二人は、同時に叫んだ。この国に覆われた、闇を祓う為に。


 

 「「いッけええええええええええええええええええええええええッ!!!」」



 槍は真っ直ぐ飛んだ。重力を無視し、巨大な槍が大気を裂きながら突き進む。


 その衝撃波で風が乱れ、砂塵が舞う。爆音が槍の後を追う。

 槍が減速することは、決してない。


 影の魔神は、槍の存在に気付き身構えた。


 巨大な影と、巨大な槍が衝突する。


 影の魔神は、両手で巨大な槍を掴み、その勢いを止めた。

 槍の威力を殺しきれず、魔神は、足の裏で地を引きずりながら後退する。

 槍は魔神の強靭な握力に対抗し、直進する力を強めた。

 穂先で魔神の腹を刺し、そのまま前進。


 槍は尚も止まらない。

 途轍もない量の砂塵を巻き上げながら、ジワジワと魔神が後退する。


 「これは……」


 ある者が呟いた。その者は、怪物に潰される寸前で救われた。


 「おお……神よ」


 ある者は、神に感謝した。その者は、諦めていた。

 王都にいる妻と子には、二度と会えぬだろうと。


 「い、いけ」

 

 「神の裁きだ」


 「奇跡だ」


 「いけえええ!」


 「貫けええええ!!」


 「うおおおおおおおおお!!」


 「いけえええええええええええええええ!!!」


 声が少しづつ大きくなり、やがて叫びとなった。

 

 この地獄に、希望の声が響き渡る。


 この時、この瞬間、人も獣人も心は一つだった。

 互いに憎み合っていた者達は、ようやく一つになったのだ。

 希望が皆の心を一つにした。


 やがて槍は、魔神の腹を完全に貫いた。

 魔神はその槍を抜こうと、必死で槍の柄を掴む。

 そこから槍は、穂先を斜め上に向けた。推進力を落とさず前進。

 槍は魔神の腹を刺した状態で、魔神の巨体を持ち上げた。

 魔神は暴れるが、それは意味を成さない。

 

 槍は高度を上げる。途轍もないスピードで、成層圏へ。そこから宇宙へ。

 更に更に進み、やがて、魔神を道ずれに、暗黒の世界へ旅立った。


 荒野は静まり返った。

 皆、あまりに現実離れした出来事に、茫然自失。心が追いつかない。

 

 だが、それも数舜。


 誰かの歓喜の声を契機に、感情が爆発する。


 荒野は、歓喜と歓声に満ちた。最早、敵も味方もない。

 ただ喜び合ったのだ。生きていることを。


 その歓声は、どこまでも響き、いつまでも、鳴りやむことはない。


 どこまでも、いつまでも。

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