表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
50/163

第四十九話  戦場より出でて

 「驚いたな……」


 優斗は、事のあらましを聞いて驚いていた。


 緊急事態を告げる虹色の空。敵からの襲撃の合図。

 それを大森林で確認し、エイナと共に全速力で帰ってきたのだが、到着した時には全てが終わっていた。


 ライサンが教えてくれた。和也がパルテノを斬ったこと。

 パルテノが死亡すると同時に、全ての影が消え失せたこと。

 そして、パルテノの相方リーラは、戦意を無くし、抜け殻のような状態になってしまった為、殺さず拘束するに留めたこと。


 気が付けば、全てが終わっているではないか。

 それもこれも和也だ。和也が全てを終わらした。


 優斗は和也を探した。言わなければならないことがあったから。


 そして見つけた。中央区画の回廊で。


 和也の後ろ姿が見えた。

 和也は、イーリスと何事か話している。


 話しはすぐに終わったようで、イーリスは、足早に何処かへ行ってしまった。


 「和也!」


 和也はその声に驚いて、後ろを振り向く。


 「優斗」


 お互いの視線が合った。



 「「ごめん」」



 まったく同じタイミングの謝罪。


 予め、取り決めてあったかのように重なる声。


 しばらくの沈黙があった。



 「…………ぷっ」


 「…………ハハッ」



 二人は同時に吹き出し、笑いあった。その笑いで、全てを帳消しにするように。


 「お帰り、和也」


 「ああ、ただいま、優斗」


 二人は、謝罪の内容については多くは語らなかった。

 お互い、色々と言葉を考えていたが、それはもう不要だと感じた。

 もうすでに、相手の気持ちは理解していたから。


 「それにしても流石だね、和也は。全部一人で終わらしちゃうんだから」


 「俺だけで終わらした訳じゃないさ。皆の協力があったからだ。勿論、そこにはお前のことも入ってるぞ、優斗」


 「ありがとう」


 二人は拳を重ね、勝利を分かち合う。



 その余韻も束の間、少女の声が回廊に響き渡る。


 「たっ、大変なのです!!」


 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 ソルランド王国、アルダイル荒野。


 岩と土と砂の大地。荒れ果て、乾いた過酷な大地である。

 ここには、生存に勝ち抜いた強靭な生命力を持つ植物と、特殊な環境下で生きる知恵を付けた、昆虫、爬虫類などの、ごく僅かな生物が存在するのみ。


 そのような、選び抜かれた種のみが生存を許される過酷な大地でありながら、今日この時は、かつてない程の人と獣人で埋め尽くされていた。


 西側には獣人族一万。東側には人族五万。


 両者隊列を組み、すでに一触即発の事態であった。


 数では圧倒的不利な獣人族であるが、怒りに突き動かされ、数の差に怯む気配はない。


 対して人族も、獣人達の怒りに呼応するように熱を帯び、士気が高い。

 ここが王都メジャ・アルダジルを守護する、最後の防衛線であることも士気の高さを後押ししている。


 

 そして、いよいよその時が訪れる。



 先に獣人族が飛び出した。

 獣の咆哮を上げながら、武器を振り上げ、人族の軍に迫る。

 大量の砂煙を上げながらの一万の大移動。

 

 人族は、弓と魔術の間合いに入った獣人達へ、一斉に矢の雨と魔力の粒を降らせた。

 獣人達は、大量の矢と魔力の粒にも怯む様子はない。

 獣人達の勢いは止まらない。 


 そして、人族も動き出す。

 獣人を迎え撃つべく、前線の隊が先陣を切る。鬨の声を上げ、敵へ向けて突き進む。


 地響きと怒号が戦場に響き渡る。


 両軍の接触はもう目前。両軍、勢いを落とすことはない。

 ただ目の前の敵を粉砕する殺戮者と化す。



 このまま両軍がぶつかり、大量の血が流れると思われた。


 それを疑う者は、この場にはいなかった筈だ。


 この瞬間までは。


 

 ソレは、突然現れた。

 この場の誰もが自身の目を疑った。


 

 両軍の中間の大地に、突如として闇が出現。


 その闇は、黒いシミが広がるようにジワジワと大きくなり、やがて円を形作る。


 その闇の円から、闇の悪魔が産声を上げる。


 まずは、人の形をした巨大な腕が現れた。


 闇から巨大な腕が二本現れ、その腕が大地に叩きつけられた。

 その衝撃で大地が揺れる。


 そこから、腕の力でゆっくりと身体を這い出した。


 ゆっくりと、ゆっくりと、どこまでも闇の身体が高く伸びて行く。 


 最後に足が闇から出でて、完全に人の形を成した。


 それは、全長六十メートルの巨大な影の悪魔。


 大いなる(ギガントデウス・)影の魔神(シャドウデーモン) 


 その大魔神は、パルテノが十年掛けて準備した闇の結晶。

 パルテノの命と引き換えに顕現された、凶悪な暴力装置。

 

 解き放たれた魔神は、際限なく災厄をまき散らし、この国を破壊しつくすだろう。



 「ば……ばけもの……」


 ある人間の男が声を発した。



 「な、なんだよこれは……」


 ある獣人の男が呟いた。



 「逃げろおおおおおおおおおお!!!」


 誰かが、声を荒げて言った。



 戦場で阿鼻叫喚が巻き起こる。


 先程までの憎悪は、とうに消え失せ、皆一目散に戦場から逃げ出した。

 我先へと。方向も定めず。兎に角、この場から離れようと全速力で。


 それは、根源的な恐怖。超常的な存在を前に、思い出したのだ。

 自分はちっぽけで、微弱な一つでしかないと。

 このような化け物を前にしては、自分はあまりに無力であると。


 この戦場で命を捨てる覚悟であったというのに、今はもう、その雄々しさは見る影もない。


 そして、ついに魔神が動き出す。


 巨大な足で、地上の小さな生物どもを無作為に踏みつけた。


 巨大な腕を、地上で絶叫する下等な生き物達へ叩きつけた。


 魔神が動くだけで、大勢が死んだ。

 次第に戦場は血の色に染まり、屍が増えていく。


 それでも魔神が止まることはない。

 すべてを壊し、すべてを殺し、この国が闇に染まるまでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ