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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第四十話   秘めたる力

 「あ、あの、ゼピロス様! これ、どこまで続くんでしょうか?」


 「様はいらん。ゼピロスで良い。もしくはセラフと呼べ」


 和也はゼピロスの後ろをついて歩きながら、頭の中を整理する。


 ゼピロスと名乗る少年。この少年がセラフだったとは驚いた。

 どこか不思議な雰囲気を纏っていた為、只者ではないような気がしていたが、まさかここに来た目的、大本命とこんなにも早く会えるとは。

 

 牢獄でゼピロスは言った。「お主の事が気に入った。余について参れ」

 勿論、和也に断る理由はない。だからこうやって大人しく、後をつけているという訳だ。

 

 和也は釈放され、ゼピロスに言われるがままついて行った。

 牢獄を出て、大通りを横切り、教会のような建物を幾つも通り過ぎ、やがて巨大な塔の扉をくぐった。

 螺旋状の階段を永遠と昇る。巨大な塔はどこまでも上に伸びており、歩けども歩けども目的地に着かない。

 途中、和也はゼピロスへ、セリスとパメラの恩赦を頼んだが、ゼピロスは「分かっておる」の一言。

 「分かっておる」とは、助けてやるから大丈夫だ、の意だと和也は理解した。

 もっと確実な答えが欲しかったが、あまりしつこく聞いて、逆上されては敵わない。

 和也は結局、この都市の盟主を信じることにした。

 

 やがて辿り着いた頂上は、何も無い白い空間だった。円状の広大な空間だ。


 ゼピロスが口を開いた。


 「すまんのう。他に暴れることが出来る場所がなくてのう」


 暴れる?


 「あ、あの、セラフ。俺の話を聞いてください。急がないとまずいんです!」


 ゼピロスは、和也の言葉に返事をせず、首をパキパキ鳴らしている。


 「セ、セラフ! 本当に急いでるんです!」


 「分かっとる、分かっとる、カズヤ。だから早く始めるとしようか」


 「始める? なにを?」


 ゼピロスは構えを取り、人差し指でクイクイっと和也を挑発する。

 

 「さあ、かかってきなさい」


 戦闘の構えを取るゼピロスを見て、和也は焦った。

 戦えということか? 何で? くそっ、時間が無いってのに。


 「時間が無いんです! 貴方と戦っている暇は無いんですよ!」


 和也は激昂してしまった。目の前の人物こそが希望だと言うのに。


 「俺は貴方に、知恵を授かりに来ました! 敵を倒す為の―――、いや、仲間を守る為の知恵をです。いきなり押し掛けて無茶なことを言っているのは分かってます。無礼も承知してます! それでも、それでも……」


 ゼピロスは何も言わず、構えを崩さない。


 「セラフ! どうか!」


 「カズヤ、お前は面倒な奴じゃのう。若者は勢いが肝心じゃぞ」


 ゼピロスは軽く溜息を吐き、また口を開く。


 「―――ごちゃごちゃと五月蠅い。さっさっと、かかってこい」


 和也はブチッ、と自分の血管が切れる音を聞いた気がした。


 頭が真っ白になり、身体が勝手に動いた。


 和也の右拳が、ゼピロスの顔面に迫る。


 ボコッ、と言う音を聞いた。


 「あれ?」


 和也の足がぐらつく。脳が揺れ、平衡感覚が消え失せた。

 たまらず膝をつく。


 なっ、なんで? 殴ったのは俺だ、何で俺が崩れてる。


 和也は膝をついたまま、ゼピロスを見上げる。


 ゼピロスは、右拳を前に突き出して残身を取っていた。


 俺は今、カウンターを喰らったのか?


 ダメージを受けたことで少し冷静さを取り戻す。立ち上がり、ゼピロスを見据え、構えを取った。


 セラフが何を考えているか分からないが……やるしかなさそうだな。


 覚悟を決める。頭は冷静に、身体には熱い血を滾らせた。


 和也は左の上段蹴りをゼピロスに放った。蹴りが大気を切り、轟音が鳴る。


 ゼピロスは一歩下がってそれを躱し、そっと和也の踵に手を添えた。


 手を添えたまま左側に流す。


 「―――なっ!?」


 和也の左足は見えない力に引っ張られ、体勢が大きく崩れる。


 隙だらけの右の脇腹に、拳が叩き込まれた。

 

 「ぐふっ!?」


 体に響く衝撃。その衝撃を利用し、転がって距離を取る。


 再び構えを取り、ゼピロスと対峙。


 和也はこの時点で、完全に冷静になっていた。そしてはっきりと感じた。


 これは……遊ばれてるな。


 ここまでの攻防、ゼピロスは速い訳でも、力が強い訳でもなかった。


 それなのに、太刀打ちできない。こちらの攻撃は最小限の動きで躱され、隙があれば最短の動作で攻撃を叩きこんでくる。

 

 今まで様々な強敵と戦ってきたが、これ程、得体のしれない相手は初めてだった。


 和也は気合を入れ、感覚を研ぎ澄ます。


 和也は踏み込んだ。今度は右拳を放つ。身を捻り躱される。

 左の下段蹴り。足捌きで躱される。

 空を切る左足を、ゼピロスの右脚に踏みつぶされた。骨が軋む痛みに、身体が一瞬固まる。

 その隙に叩き込まれる掌底。鼻が折れる音がし、鼻血が飛び散る。

 矢継ぎ早に叩き込まれるゼピロスの拳の連打。

 顎が殴られ、鳩尾を殴られ、胸を殴られ、最後に足払いが放たれた。

 

 足払いをもろに食らい、受け身を取れず、後頭部が地面に直撃。


 「うっ」


 たまらず漏れる呻き声。


 …………強い。


 和也は理解した。このゼピロスの強さ、これは日々の修練の賜物だ。それも生半可な物じゃない。

 元々才あるものが、人生の大半をそれに捧げ、それでも尚、到達できない領域。

 ゼピロスはその領域にいる。

 それは既に、神の領域と言えるかもしれない。


 仰向けで倒れ込む和也に、ゼピロスは声を掛けた。


 「どうじゃ? カズヤ」


 「……どうと言われましても……滅茶苦茶ですよ」

 

 ほんと滅茶苦茶な強さだ。


 「ほほっ、そうか、そうか」


 ゼピロスは満足そうに笑っている。

 何がそんなに可笑しいんだろう?


 「……どうやって、そんな力を?」


 「ん? そうじゃな。ざっと三千年ほど修行しとったからのう」


 ……三千年。滅茶苦茶だ。そんなの卑怯じゃないか。……ん?


 「三千年!?」


 「ん? そうじゃ。どうした、そんなに驚いて?」


 「い、いや、そりゃ驚きますよ! っていうか、そもそも有翼族は長くても二千年ほどの寿命では!?」


 「なんじゃ? 知らんかったのか? 余ら覚醒者はな、この物質世界から少し浮いた存在なんじゃ。じゃから、物質世界の枷が一部外れておる。余に寿命という概念はない」


 なんだそれは。本当に滅茶苦茶だ。

 つまり何事もなければ、永遠に生きるということか。それはもう、生物と言えないんじゃないだろうか。

 そんなのチートだ。チートすぎる。チート子供。いや、チートじじい。


 「カズヤ、お主が焦る気持ちは分かる。じゃがな、答えは外にはない」

 

 「外?」


 「そうじゃ。答えは内にある。お主の内にの。すでに下地は整い、種も蒔かれておる。あとは芽を出すだけじゃ」


 答えは内にある。

 何となく言っている意味は分かる。アスクレピオスが呼応しているような気がする。

 多分、この力が鍵なんだ。あとは芽を出すだけ……か。


 「余を信じるか? 信じれなければ、帰還しても構わない。この都市から安全に出れるよう手配しよう。勿論、セリスティナの安全も保障する」


 和也は考える。

 何も収穫無く帰っても仕方がない。目の前にセラフが居るのは奇跡に近い確率の筈だ。

 それに、たった今、セリスの安全は保障された。

 今後、セリスに極刑が与えられるというのならば、そんな提案はしないだろう。


 「信じます……セラフ」

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