表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
37/163

第三十六話  悪意の母

 ソルランド王国、玉座の間。

 その玉座は、国家の長たる王のみに座ることが許された権力の象徴。


 銀色に縁どられた玉座に王は深く座り、目の前に並ぶ者達を眺めた。


 今この玉座の間には、この国の中枢たる者達が集まっている。


 王直轄軍の長たる軍総司令。領を治める貴族達。内政、外政を司る大臣。そして、それに連なる者達。

 

 その全ての長たる存在、アドラ・アズル・ソルランド国王は、ここに集う者達を一通り眺めた後、口を開いた。


 「軍総司令よ。ここに集った者達へ情報を共有せよ」


 王の命を受け、軍総司令が答えた。


 「はっ! 獣人達に大規模な反乱の兆しあり。これに対抗する為、軍の編成を行うべきと判断します。ここにいる方々にも協力をお願いする!」


 玉座の間に動揺が走った。ついに来たか、と冷静にその事実を噛みしめる者。

 驚きを隠せぬ者。事前に情報を掴んでいた者。好戦的な者。

 反応は様々だが、ついにその時を迎えたのである。


 


 王宮のとある一室。

 赤のカーペットが床に敷き詰められ、その上に高価そうな調度品が並び立つこの部屋で、パルテノは笑った。


 「よく育ったわね」

 

 パルテノから独り言が漏れた。


 そしてパルテノは再び、王と感覚を共有し玉座の間の情報を拾う。

 

 今まさに内戦の口火が切られた。

 パルテノは一人、達成感に打ち震える。


 長かった……。

 

 パルテノはここまでの道程を思い返す。


 パルテノの使役する影の悪魔。汎用性が高く、応用が利くパルテノの手駒たち。

 だがそれは、万能と言う意味ではない。

 

 パルテノの能力影喰み。これは他者の体を影で乗っ取り操る能力であるが、ある欠点があった。

 

 影が乗っ取った者の体に馴染み、浸透するのには時間がかかる。

 馴染まぬ内は、ごく簡単な命令しか受け付けることができない。

 他者の体を思うがままに操るようになるには、時間が必要なのだ。

 

 パルテノは十年前、影にアドラ国王の体を乗っ取らせた。

 

 前述の理由で、王の体に影が馴染むまではパルテノが影を纏い、王に扮して代役を務める必要があった。

 王の記憶、思考は影を通して拾い上げることが出来る為、パルテノ扮する王は、王そのものと言えたかもしれない。

 だが、いくら王とは言え、王一人だけでは国は動かせない。他の者にも悪意を芽吹かせる必要があった。

 だからパルテノは待ち続けた。影の王の成長を。

 それはまるで、我が子の成長を見守るように、ゆっくりと、丁寧に、優しく、愛を込めて。

 

 機が熟し、影の王が自らの意志で立ち上がった時、パルテノは感動のあまり打ちひしがれた。

 パルテノは邪悪な悪意を育て上げたのである。


 そして、王の権力で反乱分子を粛清。

 時にはパルテノ自ら手を汚して邪魔者を消し、土壌を完成させた。

 その後は過激派と言われる獣人達も同様に乗っ取り、同じく影を育て上げた。

 

 その後は簡単であった。パルテノが何もせずとも悪意が悪意を呼び、瞬く間に悪意が広がいく。

 

 パルテノはまた笑う。

 影の王の堂々たる風格を、上に立つ者の威厳を。それを私が育て上げたのだと。


 パルテノは目を閉じ、両腕を大きく広げた。もう一度、この感動を噛みしめる為に。 


 ―――ドスッ。


 「あら?」


 突然、胸に感じる違和感。


 目を開けると、胸に突き刺さるナイフが見えた。


 ナイフ柄の先に視線を向けると、見知った顔。


 「…………あんたは……ベナンテス」


 ベナンテスが突然、虚空から現れた。パルテノの胸にナイフを突き立たのはベナンテスであった。


 パルテノは白目を剝き、背中から倒れた。

 心臓にナイフを突き立てられたのだ、これで無事な者はいないだろう。


 ベナンテスは荒い息を落ち着かせながら、パルテノの死体を凝視した。


 「ハァ……ハァ……神よ。お許しください。いかなる罰も謹んでお受けします」 


 ベナンテスは神に許しを乞うた。殺人の罪を。


 「あ~危なかった。本当に危なかったわ」


 突如、ベナンテスの背後から声が聞こえた。


 ベナンテスは即座に振り向いた。そして、信じられぬものをみた。


 今、殺したはずのパルテノがそこに立っていたのだ。


 ベナンテスは再び、足元に転がる死体を見た。死体は闇の粒子と化し霧散を始める。


 ベナンテスはパルテノに問う。


 「貴様、本体も影か?」


 「違うわよ~失礼ね。アタシの体は正真正銘、人の体よ。ナイフを胸に突き立てられれば死ぬわ」


 「では、今殺したのは、影の身代わり。貴様が本体という訳か」


 「その通り~。あ、でも、あんたの襲撃を読んでた訳じゃないわよ。この通り、左腕を黒髪の坊やに斬り落とされてね。できるだけ、影の中で体を癒していたのよ。黒髪の坊やに感謝しなくっちゃ」


 「…………くっ。無念じゃ」


 パルテノはベナンテスが左手に握っている物を見た。


 「なるほど。アーティファクトを使って、ここまで忍び込んだわけね。アーティファクトの情報を失念していたわ。いけない、いけない」


 その瞬間、ベナンテスは駆けだした。急いで扉に腕を伸ばす。


 しかし、その手がドアノブに触れる前に、影の壁が扉を覆った。


 「逃がさないわよ~。アタシを追い詰めたのだから、敬意をもってちゃんと殺してあげる」


 ベナンテスは小さく嘆息し、観念したようにパルテノに向き直った。


 「死ぬ前に教えろ。何が目的だ? 何がしたい」


 「なにって? そりゃあ―――、世界を救う為よ」


 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 

 「セリス、すまない」


 「カズヤ、そう何度も謝るな。私がお前を誘ったのだ、責任の所在は私にある」


 セリスは和也を背負いながら、大空を羽ばたく。

 和也は謝っているが、実際なんの問題もない。身体が軽い。翼が唸りを上げる。


 和也から魔力が供給され続ける。身体に力が漲っている。


 途轍もない速度で滑空を続けるセリス。もう半日は経過しているが、身体に疲労はない。

 この調子なら、明日にでも着く筈だ。


 セリスは思った。もしこの賭けに負けた場合、恐らく和也と会えるのはこれが最後だ。

 ならば、もう少し素直になるべきかもしれない。


 「カズヤ」


 「ん?」


 「お前を供に選定した理由は、二つあると言ったろ?」  

 

 「ああ」


 「実は三つ目がある」

 

 「え?」


 「…………お前についてきて欲しかった。それが三つ目の理由だ」

 

 少しの静寂。翼が風を裂く音が間を取り持つ。


 「セリス、俺もだよ」

 

 「俺も?」


 「ああ、もしライサンが選ばれた場合、意地でもついていくつもりだった。セリスと一緒に居たかったんだ。だから、気持ちは同じだ」


 再びの静寂。


 「フッ」


 「ハハッ」


 最初にセリスが笑い、和也がそれに釣られた。


 「ハハハハハッ!!」


 「アハハハハッ!!」


 二人とも堰を切ったように笑い出した。笑いが笑いを誘い、止まらない連鎖。


 そして、ひとしきり笑い合ったあと、和也が言った。


 「この作戦、絶対成功させよう。それで帰って、また笑い合うんだ。今度はさ、皆も交えて!」


 「ああ、必ず」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ