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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第三十三話  円卓上の暗雲

 天空の宮殿ウラノス。その中央区画、会議の間。

 

 砂の国から脱出した翌日、和也達はこの会議の間に集まっていた。


 円柱の形をした会議の間の中央部には、巨大な円卓が設置されている。

 

 その円卓に座るのは、和也、優斗、セリス、イーリス、ライサンの五名。

 

 今後の作戦を話し合う為に集まった訳だが、この会議の間には重苦しい空気が満ちていた。


 その重苦しい空気の中、少女の高い声が会議の間に響き渡る。


 「あ、あの~、えっえと、マ、マスター! 今後、あたし達はどう動くべきでありますか?」


 名指しで指名された和也は、一呼吸して口を開いた。


 「あ、ああ、そうだな。まずは現状の状況を皆と共有したいと思う。俺を襲撃した人物は、パルテノと名乗る影を操る男。そして、リーラと呼ばれた刀を武器とする少女。恐らくこいつらが、王国の裏で糸を引いている奴らだろう。ここまではいいな?」


 パルテノとリーラの情報は、会議の前に皆に伝えてある。

 その為、ここに集まった面々から特に反応はない。これは周知の事実。


 皆の反応を確認して和也は続ける。


 「この二人は、どちらも厄介な能力を持っている。まずパルテノだが、他者の体を影に乗っ取らせて、都合のいいように操ることが出来る。国王もこいつに操られていると考えていいだろう。そして、この影は索敵能力が高い。索敵範囲から逃げる為、ここまで撤退したという訳だ」


 和也の話を聞いてセリスが発言をした。


 「そうだな。残念だが、地上にあのまま残っていても勝機は低いだろう。今のところは奴らが一枚上手だ」


 和也はその発言を聞いた後、セリスに頷いてから話を続けた。

  

 「それから、リーラについてだ。直接的な脅威としては、パルテノより上だと俺は考えている。原理は不明だが、身体のリミッターのようなものを外し、とてつもない豪腕、剛力を振るってくる」

 

 それを聞いて、ライサンは自身の唇を嚙みしめ、拳を強く握った。


 和也には、ライサンの気持ちが手に取るように分かる。

 そもそもリーラを何とかすることが出来れば、このような状況にはなっていないだろう。

 それは為しえなかった。

 リーラに二対一で挑んで、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。戦士の誇りは粉々に壊された。

 更に、意識を失っている間に、父親が敵に捕らえられ安否不明。

 自分の不甲斐なさに打ちのめされているだろう。それは和也とて同じだ。


 完敗。もう一度やっても結果は同じだろう。今のところ、あの少女に勝てるイメージが湧いてこない。


 「やはり、リーラが最大の障害だと俺は思っている。こいつを倒す作戦を練らなければならない。みんな、意見はないか?」


 和也の問いかけに一同は沈黙。

 イーリスのみ「あたしには、難しいかもです~」と小さく唸っている。


 和也は円卓に集まる面々をぐるっと見回す。その視線が優斗で止まる。

 優斗は円卓に乗せた自分の拳を一点に見つめ黙っている。

 和也は優斗の気持ちも察することができた。

 セブナを助けることが出来なかったことを悔やんでいるだろう。自責の念に駆られている筈だ。

 優斗とエイナが天空に到着したとき、エイナの暴れようはすごかった。

 皆でエイナを抑えていなければ、地上へ飛び込んでいたかもしれない。

 エイナはそれ程の錯乱状態であった。

 セリスの魔術で鎮静化させ、どうにか少し落ち着いたが、その後は部屋に閉じこもって心を閉ざしている。

 先程ライサンに様子を見てもらったが、部屋で眠っていたという。

 

 優斗の気持ちは分かる。分かるが、それでも、優斗には呆けていてもらっては困る。

 優斗は俺の半身だ。半身を欠いては、戦うこと以前に、立ち上がることすら難しい。

 優斗が倒れるときは俺が倒れる時だ。


 和也は優斗に声を掛けた。


 「優斗」


 「……」

 

 優斗から返事がない。


 「優斗!」


 セリスとイーリスは和也の声にビクッ、と反応。


 和也の怒声に、ようやく優斗が顔を上げた。


 「あ、ああ……。すまない和也。僕は和也の作戦に従うさ」


 優斗は笑顔で答えた。

 

 優斗……お前。

 何という下手糞な笑顔だ。


 それは、明らかに作った笑顔。

 心を伴わず、顔に表情を張り付いているだけの下手な作り笑いは、見る者を不安にさせる。


 いつもの優斗なら、もっと上手く笑顔を作れる筈であった。

 器用な優斗ならそれが可能である。


 優斗は最早、表面を取り繕う事すら不可能な状態。


 そんな優斗に、和也はあえて活を入れる。


 「優斗……お前がそんな状態では、俺が困る。俺だって悔しい。正直、はらわたが煮えくり返ってる。……だけど、前に進まなくちゃいけないんだ。戻ってこい! 優斗!」


 しばらく静寂が流れた。


 永遠に続くかと思われた静寂が不意に止んだ。


 「…………分かってるよ」


 「なに?」


 「分かってるって言ってんだよ! お前に言われなくたって!」


 響き渡る優斗の怒声。

 和也は驚いていた。優斗から悪意を向けられるのは初めてだったからだ。


 和也は面食らったが、売り言葉に買い言葉。ふつふつと怒りが込み上げてくる。


 「分かってんなら、しっかりしやがれ! 今のお前じゃ、死人も同然だ! いつもの優斗に戻りやがれ!」


 「……いつもの僕だと? 和也に僕の何が分かる! 分かってたまるか! 僕自身にだって分からないんだ! もう自分がどうしたいのかも分からない! もう、分からないんだ! 自分の気持ちが!」


 「分からないだと? 何を言ってるんだお前は。悪党を倒し、皆を助けたい! 俺の今の気持ちはこうだ! お前は違うのか!? シンプルなことだろうが! 他に何があるって言うんだ!」


 「だから、それが分からないって言ってんだあッ!」


 和也は優斗の言っていることが理解出来なかった。分からない? 何が分からない?

 気持ちは皆一つだと思っていた。何が分からないのか、分からない。

 和也は言葉を失う。


 そして、また訪れる静寂。


 やがて、優斗がポツリと言葉をこぼした。


 「……すまない、和也、皆。今の僕では力になれないようだ」


 優斗はそう言うと、出口に向かって歩き出した。


 「おい! どこへ行く!? 待て!」


 優斗は和也の制止を無視して歩き続け、扉の取っ手に手を掛けて立ち止まった。

 そしてまた、ポツリと言葉を放った。

 

 「すまない」

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