表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
32/163

第三十一話  心に花を添えて

 エイナはすでに、頭がパンクしそうであった。

 今日は朝から過激派勢力に家を取り囲まれ、最悪の目覚め。

 父さんがなんとか彼らを宥め、荒事にはならなかったが、彼らは家の中を調べさせろと要求してきた。

 断る選択肢はないであろうが、父さんはそれを承諾。

 そして押し入った過激派勢力に家を散々に荒らされる。

 お気に入りの家具も、新調したばかりの服も、母さんとの思い出の品も。

 散々荒らしたら満足したのか、大人しく帰っていったが、家の中は無惨な有様であった。

 結局は、地下への通路が過激派勢力に見つかることはなかった。

 最悪だった。今日は人生の最悪度で言えば、五本の指に入るかもしれない。

 

 その後、家の片づけをしていたら、窓から見えた西の空に上がる狼煙。

 過激派勢力による可能性は低い。

 過激派勢力は、獣人の区画に駐留する人族の兵士達に向けて閃響石を使用することが多い。

 人族の駐屯地は東側。

 西側で閃響石が使用されることは、ほぼない。

 だからあの狼煙は、襲撃を受けたという合図の可能性が高い。

 兄さんは狼煙を確認し、「行ってくる」と一言。次の瞬間、兄さんの姿が消失。

 事前に取り決められた通りのメンバーが、転送されたのであろう。

 残りのメンバーは待機し、有事に備えろとのこと。


 そして巻き起こる、三つの爆音と閃光。プランE。敵を撃退することに失敗。

 エイナは聞かされていた。和也達の次は、和也達と関りが強い者が狙われる可能性が高いと。

 だから、敵の撃退に失敗した今、アルバトロン家も逃げなければならない。

 エイナは、父が影の襲撃を受けた時から覚悟していた。この国を出なければならないことを。

 悔しいが仕方がない。自分の武は未熟だ。兄さんには遠く及ばない。

 だから、自分には選ぶ権利はない。弱い者は選択肢が少ないのだ。

 だけど、諦めたわけではない。牙と爪を研ぎ澄まし、力を蓄えよう。

 その暁にはすべてを見返してやる。

 あの気に食わない過激派勢力達を、裏で悪事を働く悪党を、獣人をごみのような目で見てくる人間どもを。

 

 そう決意し、父と共に家を飛び出し西へ駆ける。


 しかし、事はスムーズに運ばなかった。

 

 西への逃走中、影の悪魔があちこちから湧きだし、妨害してきたのだ。

 どうやら敵は今日、決着をつけたいらしい。邪魔者を一斉排除するつもりだろう。

 影の悪魔を斃しながら、ひたすら西へ。

 

 しばらくすると、影の追跡が止んだ。

 諦めたのだろうか?

 エイナは首をふって、ポニーテールを大きく揺らした。

 いや、油断するな。気を引き締めろ。


 すると突然、並走する父が声を掛けてきた。


 

 「お前は、美しく成長したな。母さんそっくりだよ」


 「なっ、なに、突然」


 エイナは驚いた。

 父さんがこんなことを言うのは珍しい。

 どちらかと言うと口下手で無口。自分の本心を語ることは少ない。


 「ははっ、すまんな」

 

 セブナはそう短く返事をし、また口を閉じた。


 母さん……か。


 母さん。その単語を聞いて、エイナの頭に過去の記憶が蘇る。


 ミア・アルバトロン。エイナとライサンの母であり、セブナの妻である、その女性は、エイナが十歳の時に亡くなった。

 十年前、この国を襲った流行り病に倒れたのである。


 母さんは病の床にあっても、家族の事ばかり気にしてたっけな。

 エイナは母の言葉を思い返す。


 セブナは頑固なところがあるから、もし誤った道を歩むようなら正してあげて。

 ライサンは、少し抜けてるからしっかり支えてね。


 ははっ、母さんたら。十歳の娘には荷が重いって。

 ミアは少し危うげなところがあるアルバトロン家の男衆を、最年少だがしっかり者のエイナに託したのだ。


 そして、ミアは当然エイナのことも気に掛けていた。


 これから先、色々あるだろうけど、貴方の思うように生きなさい。身体にだけは気を付けるのよ。

 

 エイナがそれを思い出して苦笑した。

 思うように生きろ。

 私が本当に思うように生きるのだとしたら、面倒な男衆の事は放っておくけど、いいの?

 と、エイナは少し屁理屈を考える。

 だが、分かっている。母の深い優しさを。大きな愛を。

 他人からどう言われようが、結局は自分の人生の歩む道は、自分で決めるしかない。

 思うように生きろ、とはそういうことなのだろう。

 そして、道を踏み外した時に、正しい道に連れ戻してくれるのは、やはり家族だ。

 母さんが男衆のことを私に託したのは、結局は、家族と助け合いながら人生を歩めというメッセージ。

 エイナはそう理解している。


 そして、そこで思考が少し流れる。

 そういえば、父さんと母さんはどうやって出会ったのだろう。

 父さんは恥ずかしがって、そう言ったことを話さない。

 母さんからは結局、聞きそびれた。


 「ねえ、父さん。母さんとはどこで知り合ったの?」


 セブナは少し唸ったが、間を置いて口を開いた。


 「別に、よくあるような話だ。当時アガペウス教会に入信したばかりの私の教育係が、熱心な信徒であった彼女だった、と言うだけ。その縁でな」


 確かによくある話だ。どこにでもありそうな、ありふれた話し。

 エイナは少しがっかりしたが、思考がまた少し流れる。


 「そういえば、父さんの昔の渾名、『紫天(してん)』、あれってどういう意味なの?」

 

 紫天、それが何であるかは知っている。

 この乾燥した砂の国でも美しく咲き誇る、花の名称だ。その鮮やかな紫は、伝統、高貴、気品の象徴。

 王宮関係者や貴族達に親しまれている花だ。

 だが、それと父が結びつくイメージが全く湧かない。何故なら父は貴族ではないし、ましてや王の血筋なんかでも当然無い。ただの平民。


 セブナはエイナの質問を受け、今度はしきりに唸っていた。


 「いいじゃない。この際だから教えてよ」


 「…………ハァ。そうだな」


 セブナは観念して話し出した。


 「紫天の花はな、私がお前の母さん、ミアに、私が婚約する時に送ったものだ。あの時は私も若かった。逸る気持ちを抑えきれず、皆が集まっている教会でミアに気持ちを伝えてしまったのだ。そのことが広まり、巡り巡って、私の渾名となってしまった。まあ、……皆の悪ノリ、というやつだろう」


 渋々ながら話すセブナの言葉を聞いて、エイナは笑いが込み上げてきた。

 確かに、それは恥ずかしいかもしれない。道理で誰も教えてくれないわけだ。父さんが口止めしていたのだろう。

 不器用な父さんらしい。恥ずかしいなら、わざわざ皆の前でそんなことしなくても良いのに。


 「……アハハハハハハッ!!」


 「お、おい。そんなに笑うことなかろう」


 このセブナの話は、今後のエイナの人生に於いては決して重要ではない。

 もし聞かなかったとしても、人生の設計図が何ら変わることはないだろう。

 だけどエイナは思った。少し良いことが聞けたな、と。

 きっと自分は、この話を時折思い出しながら生きていくんだろうなと。

 

 この最悪な状況にありながら、ほんの少しだけ、エイナの心に花が添えられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ