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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第二十八話  狼煙

その男のねっとりとした口調が癪に障ったが、和也は自分の疑問を晴らすことを優先させることにした。


 「一応、確認したいんだが、さっきの女性はあんた達の手先か?」


 「まあ、そうね」


 パルテノがそう答えた後、パルテノの影の一部が動きだした。

 それは意志を持った生物のように。パルテノの影から伸びた影は激しく蠢いた後、立体的な影を顕現させる。

 地面の平面の影から、立体の人型の影が生えて来たのだ。

 やがて、その影の輪郭がはっきりし、形を表す。

 それは先程の女であった。まぎれもなく先程の女と同一人物ではあったが、虚ろな目と、表情を失った空虚な相貌が、別人だと錯覚させる。


 「……お前、その女性に何をした?」


 和也が殺気を放つ。


 「あらやだ、怖いじゃない。でも、その顔、悪くないわね。アタシ的には、もう少し渋みがあった方が好みだけど」


 「だまれ! 答えろ!」


 「……はぁ。何を熱くなってるんだか。まったく……。アタシの特技『影喰(かげは)み』で、身体を影に乗っ取らせたわ」


 和也は拳を握りしめ、怒りを内側に内包した。

 もう語るべきことはない。和也の中で、すでにやることは決まっている。

 先ほどの影、あれはこの国を訪れて最初に戦った二体の影と同種のものだろう。

 そして、国王の裏で糸を引いているのもこいつらだ。

 聞いた話では、国王の正体は影の魔物だという。モディス教の総主教がそれを暴いたと聞いた。

 

 こいつらは内戦を起こそうと画策している張本人で、それはこの国に仕掛けられた大規模な術式と無関係ではないだろう。


 つまりはここに来た目的、夢幻の魔晶石に近付く為の大本命。

 ピンチではあるが逆にチャンスでもある。


 「……俺は殺されるのか?」


 「な~に~、急に弱気になっちゃって。まあ、残念だけど、その通りね。あんた達さ~、ちょーと目障りなのよね。ゴメンネ」


 「分かった。死ぬ前にタバコを一服してもいいか?」


 この世界にもタバコが存在する。元の世界の紙タバコと似ており、筒のような形状をしたものだ。

 滅多に流通しない嗜好品だが、和也はその存在を確認していた。


 「あら? タバコだって? なかなか渋い趣味をしているのね。いいわ。待ってあげる」


 和也は懐をまさぐる。外套の内側にある革袋に手を入れ、手の感触だけでソレを掴み取った。


 そして、手に掴んだ感触を確かめ、素早くソレを上に放り投げた。 

 その後、少し間を置いて同じ物を上空に投擲。


 大空に放たれたソレは、最高点に到達すると同時に、爆ぜた。

 目を焼く閃光と、鼓膜を震わす爆音を伴いながら。

 最初に一つの爆発、少し間を置いて二回目の爆発。


 パルテノとリーラは明らかに戸惑っている。パルテノが耳を抑えながら、大声で喚いた。


 「な、なによそれ!? ふざけるんじゃないわよ!!」


 「これは、閃響石。そして、俺達の中で取り決められた合図でもある!」


 その時、声が響いた。鈴のような、とても澄んだ声が。


 「多重式(マルチプル・)瞬間(トランス・)転移術(テレポーテーション)


 それはセリスの法術。複数を同時に転送することができる、転送(トランス)の上位法術だ。

 別たれし彗星の杖で増大された魔力と、神聖力のなせる業。今までのセリスでは為しえなかったその奇跡は、一日に一度だけ使用できる切り札である。


 空に十一の白く輝く円陣が出現。その円陣から十一の影が降り立つ。

 十は精鋭と言われる獣人の戦士達。一は狼人最強の戦士、ライサン・アルバトロン。


 戦士達は、高度の着地を物ともせず、着地と同時に戦闘態勢。

 相手の数は二、こちらは十二。あっという間に数的優位を作り上げた。


 パルテノは自身を囲んだ獣人達を見回して、和也に問いかける。


 「へー。ひょっとして、アタシ達の襲撃を読んでいた?」


 「まあ、そういうことだ」


 和也はそう言って、イーリスとの定時連絡を思い返す。




 「えっ、影の怪物に襲われた!? 大変じゃないですか! やはり、あたしも向かうべきかもしれないのです!」


 「い、いや。それには及ばないよ。心配してくれてありがとう。……ところでイーリス?」


 「はい、何でしょう?」

 

 「この国の人々から、悪意を抽出できないか?」


 「悪意を抽出……ですか。集合的意識からある程度は読み取れるかもですが、どうしてです?」


 「俺達が戦った影、あれは多分、何者かの技だろう。そして、国王の正体は影の魔物だとも聞いた。何らかの繋がりがあると思う。もし、俺が影の怪物を操っている術者だったとしたら、突然現れた俺達を警戒し、情報を集め、身辺を探るはずだ」


 「……なるほどです。ですが、その国の悪意を読み取れても、それは大雑把なものです。個人を特定するような緻密な作業はできないのです」


 イーリスは幼い外見と破天荒な性格から勘違いされるかもしれないが、頭の切れる子である。

 和也の言いたいことを汲み取り、即座に自分の意見を伝えた。

 和也はイーリスに返答する。


 「ああ、この国すべての意識を読み取る必要はないさ。俺の周辺にだけ意識を集中すればいい。俺へ向けられる悪意だけであれば、それなりに絞れるんじゃないか?」


 「なるほど、なるほどです。確かに、ごく狭い範囲でなら可能なのです。それに、マスターとのパスが出来ているですから、マスターの周囲だけであれば、その精度を上げることが出来る筈なのです」


 そしてそれを実行し、作戦は上手くいった。確かにあったのだ、和也に向けられる二つの強い悪意。

 その悪意の強さ、頻度、時間帯から、イーリスは凡その襲撃日を割り出した。


 だから、和也は準備していたのだ。皆に事情を説明し、逆に敵を捕らえる作戦を提案した。

 そしてそれは受け入れられた。和也は閃響石の存在を知った時、思いついたのだ。

 これを狼煙にすることを。一つ目と、僅かに間を置いて二回目の閃光と爆音。

 これが和也達の間で取り決められた、敵からの襲撃の合図。

 後は作戦通り、セリスが遠隔で多重転送を発動し、獣人達をここに転送した。そして今に至る。


 

 パチパチパチパチ。

 乾いた拍手の音が聞こえた。その拍手の主はパルテノだ。


 「いや~、や―――るじゃない。可愛い顔して、なかなかエグイことするわね」


 一呼吸し、妖しく笑う。


 「でも―――、ここから先は、上手くいくかしら?」


 パルテノの影が広がり、膨れ上がった。

 膨れ上がった影から、影が産声を上げる。複数の影の柱が出現し、人の姿を形どる。

 巨大な図体、凶悪な爪をもつ影の怪物。その数、三十。


 「これが、アタシの影の悪魔(シャドウ・デーモン)ちゃん達よ」


 数的優位を覆された。その数の多さに、獣人達に動揺が走る。


 「アタシは獣人ちゃん達をやる。リーラ、あなたは、そっちの黒髪の坊やと、灰色の狼ちゃんを頼んだわ」


 「承知」


 和也とライサンがリーラと対面し、リーラの背後では、パルテノ率いる影の軍団と獣人の戦士達が対峙する構図。


 「ライサン、あの少女をさっさと組み伏せて、あちらの援護に回ろう」

 

 「ああ!」


 和也とライサンの会話を聞いた後、リーラは静かに動いた。

 静かでゆったりとした足運びだが、体幹にまったくブレがなく、隙の無い動き。

 和也はこの少女から強者の匂いを感じ取った。


 かなり出来るな……。だけど、ライサンとなら。


 そして、リーラはゆっくりとした動作から、正確で機械じみた動きで腰の得物を抜き放つ。


 「あれは……刀?」


 反り返った片刃の刀身を持つその刀は、陽光に照らされ銀色に輝いた。

 刀身に浮きでた波紋は、繊細で芸術的な美しさを誇っている。


 美しい刀身が再び瞬いた。それを合図に戦闘が始まる。

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