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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第二十四話  背けていた闇

 モディス教会大聖堂。

 この国の国教である、モディス教の大聖堂。

 この大聖堂の外観は豪華の一言につきる。

 天高く聳える二つの塔は見る者に畏敬の念を抱かせ、砦のように堅牢な造りは、そのままこの教会の力を示している。


 そのような栄えあるモディス教会でありながら、総主教エリオ・サルマンドの顔は曇っていた。

 

 この大聖堂に設けられた自室で、エリオは手元にある業務資料に目を通しながら、ある事に頭を埋め尽くされていたのだ。


 国王アドラは闇の住人である。エリオの中でそれは確定事項。もはや、疑いようもない。

 闇の住人というのは例え話ではない。見てしまったのだ、国王アドラの真の姿を。

 

 「どうしてこうなったのだ」


 エリオは一人呟く。国王アドラが狂ったのは、今から約十年前。突如として獣人の排斥を訴えだしたのだ。

 それまで人と獣人は、問題を抱えつつも良好な関係を築けていたといえる。

 アドラの父、つまりは先代のレニス国王は人と獣人の融和政策を実施し、それは功を奏していた。

 それに賛同し、共に尽力していたのはエリオであり、アドラもそうだった筈だ。

 アドラは先代の意志を受け継ぎ、人と獣人が共に歩む国づくりを進めると言っていた。


 エリオは、横暴な政治を行う国王アドラに異を唱えた。

 だが、国からの資金援助の廃止、武力によるモディス教の排斥をチラつかされては、手も足もでなかった。

 エリオは思う。今となっては、最後まで戦う選択もあったのではないかと。

 勝てる戦いではないが、皆に示すことができる。決して悪には屈しない姿を。


 しかし、エリオには宿願があったのだ。父から受け継いだこのモディス教を大きくして見せると、父に誓ったのだ。

 そして、それは叶った。闇から目を背けることで。

 

 「何やら、浮かない顔してるじゃない」


 突然この部屋の扉が開かれ、二人組が入ってきた。

 一人は褐色肌の男、もう一人は黒衣の少女。


 「なっ、なんだ、お前たちは! 表の者達はどうした!」


 「ん~。まあ、邪魔だったから、ね」


 エリオはこの部屋の守護をしていた兵士達が殺されたことを理解する。

 

 「目的はなんだ?」


 「それは、分かってるでしょ」


 それは私の命か。エリオは驚いてこそいたが理解していた。この者達の目的、そして、朧気ながらその正体も。


 「ふん、存外遅かったではないか。いつでも殺せたのであろう?」


 「それはまあそうなんだけど、あんたはイイ感じに過激派達を煽ってくれるから、都合が良かったのよ。あんたと、ベナンテスね」


 ベナンテス。その名前が上がった時、エリオは褐色肌の男を睨んだ。

 ベナンテスはエリオの大恩人。

 なにせ、父が小さいころから世話になっているのだ。エリオがもっとも信頼の置ける一人である。

 そして、ベナンテスに王の正体を告げたのもエリオだ。


 「でもね~、知りすぎたのよ。あんた達は。だけど、ベナンテスの暗殺は失敗しちゃった。だからさ、欲しいのよ。情報がさ」


 情報。恐らくはベナンテスの元を訪れた神の使いと、それに連なる者達のことか。

 エリオは鼻で笑う。


 「私は何も吐かんぞ。ここまで、嫌と言うほど汚いことに手を染めた。最後の最後は、私の意地を貫き通させてもらう」


 エリオは覚悟を決めていた。この場から逃げる事は不可能。だが、何の巡り合わせだろう。最後の最後に、闇と戦う機会が訪れた。今まで逃げ続けてきた闇にだ。エリオは最後まで戦う覚悟だった。


 だが、闇はその覚悟を嘲笑う。 

 

 「あ~、そういうのイイから。さくっ、とやっちゃうからさ」


 エリオの体が闇に包まれた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 この国にはモディス教の他に、もう一つ信仰されている宗教がある。

 その名はアガペウス教会。ベナンテスが興し、かつてはこの国で広く信仰されていた宗教である。


 弱者救済を教義とし、神のもとでは皆平等であるというその教えは、多くの人、獣人の生活に根差していたのだ。


 その宗教は徐々に広がっていき、この国で一番の宗教になる予定だった。

 十年前までは。

 突如として王政府による迫害、信徒の強制連行。

 アガペウス教会は異端とし、断罪されたのだ。


 これにより、アガペウス教会は縮小の一途を辿る。それでも、獣人への迫害が増すにつれて、それに比例するように、水面下で獣人の信者が増えて行った。

 人々は無常で不合理なこの世界に、神の救いを求めたのである。


 そして、ここはこの国で唯一のアガペウス教の教会である。

 大聖堂と各地の教会は取り壊された為、唯一となる教会ではあるが、表向きは普通の民家となっている。


 表向き活動することが出来ない為、カモフラージュする必要があったのだ。

 この教会はベナンテスの所有する一軒家であり、信徒達の間ではアガペウス教の聖地でもあった。


 その唯一の教会の地下で、数人の男女が集まっていた。


 ベナンテスは周囲の者達をゆっくりと見回し、口を開いた。


 「この地下の部屋に先程、秘匿結界を張った。故に、ここでしゃべることが漏れたときは、ここにいる者を疑うことになる。皆、覚悟せよ」


 ベナンテスのその言葉に、皆、一様に頷く。

 頷いたのは、セリス達一行、ベナンテスに連なる従者、アルバトロン家、獣人の戦士達だ。


 集まった目的は当然、秘密の話し合い。

 国王の捕縛の算段を付けるために、この部屋に集まっていた。


 セブナがベナンテスを見て口を開いた。


 「ベナンテス様。私の知る限りの精鋭を集めました。しかしながら、王宮の警護は強固。忍び込むとしても、こちらの犠牲は覚悟しなければなりませぬ」


 「その通りだ。犠牲は覚悟せねばならん。今一度、問う。この場には、その覚悟がある者達のみだと思っておるが、どうじゃ?」


 ベナンテスは、ここにいる者たちを再度見回した。

 そして、誰も異を唱える者は出なかった。

 当然であろう。ベナンテスと獣人達にとっては、ようやく見えてきた一筋の光。

 

 もし不服を唱える者がいるとしたら、この国と馴染の薄いセリス達一行だが、セリスはとうに覚悟を決めており、それは和也と優斗も同様であった。  


 「皆の覚悟は、しかと受け取った。ならばこそ、必ず成功させねばならんな」


 ベナンテスは少し表情を崩し、懐からある物を取り出した。


 「これはアーティファクト、幻燈(げんとう)羅針(らしん)。一定期間、対象者と、この世界との位相をズラし、対象者の存在をこの世界から半歩踏み出させることが出来る、奇跡の秘宝だ」

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