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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第二十三話  夜風と共に

 西風停で酒宴は続いてる。


 「お兄さん、飲んでる?」


 「やだ、結構カッコイイ!」


 「ねえ、今度どこか案内してあげようか?」


 「あ、私も案内する-!」


 なんだなんだ。急に獣人の若い女性達に取り囲まれてしまった。

 好感を抱いてくれるのは嬉しいが、やはり今日の仕合で目立ちすぎたか。

 

 こういうのは苦手だ……。


 ん?


 通路の向こう側の、長机の席に座っていたセリスと目が合った。

 目が合った瞬間、セリスはプイッと目を背ける。なんだ? 何か怒っている?


 和也はこれ幸いとばかりに、お姉さま方に、「ちょっと、すみません。他の方へ挨拶に」と断りを入れ、自席から離脱。


 駆け足でセリスが座る長机に移動。ちょうど、セリスの横の席が空いていので着席した。


 「なんだ? 他の方へ挨拶に、ではなかったのか」

 

 と、セリスは少し険がある言い方をした。


 「だから、こうやって挨拶に来たじゃないか」


 嘘ではない、別にいいだろう。それに、セリスと話したいと思ったから来たのだ。とは勿論、言えなかった。

 セリスは「詭弁を言うな」と言って小さく嘆息した。


 「カズヤ、この国をどう思う?」


 「どうって、良い国だよ……って言うのは少し軽率な言葉だな。でも、問題を抱えながらも、強く生きる人々は逞しくて、眩しい……って思うかな」


 「フッ、私も同意見だよ。そしてその感想は、私がお前とユウトに感じているものと同じでもある」


 「えっ、俺と優斗にも?」


 「ああ、だってそうだろう。お前とユウトは国どころか、世界を越えてきたのだ。慣れぬこともあるだろう。戸惑うことも多いだろう。そのような状況にありながら、進み続けている。改めて尊敬いたそう。私の契約者よ」


 驚いたな……。セリスがこんな風に、正面から褒めてくるとは思わなかった。

 セリスは自分に厳しいが人にも厳しい。自分をしっかりと持っていて、いつも冷静で、強くて、格好良い。

 そして……。


 和也はセリスを見つめた。


 セリスも和也を見つめ返す。その薄い唇が開いた。


 「カ、カズ―――」


 「セリス、かなり酔ってるな?」


 「は?」

 

 「だって、可笑しいじゃないか。セリスがそんなこと言う訳ないさ。そういえば顔も赤い―――」


 「酔ってない!」


 セリスが両腕を机に叩きつけ、グラスが盛大に揺れた。

 なっ、なんだよ急に。そんな怒らなくったって……。


 と、和也がセリスを諫めようとしたが、セリスは立ち上がり、酒場から出て行ってしまった。


 「なーんでそうなるかなー、和也」


 優斗か。見ていたんなら、セリスを止めてくれよ。

 

 「俺が聞きたいよ」


 「ハッ~、和也、ここは追いかけるべきだね。絶対に」


 「む、むう。まあ優斗が言うなら」


 和也は立ち上がり、セリスを追いかけることにした。


 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 


 この国の夜はそれなりに冷える。昼間は日が照り付け、ジリジリと肌を焼くが、夜は薄着で出歩けば、寒さに震えてしまう。


 セリスはそんな冷える夜に、月を見ていた。今宵は満月だ。


 屋上で一人、月を見上げていたセリスに和也が声を掛ける。


 「セリス……、セリス、すまない」


 「何を謝っているのか自分で理解していなければ、謝罪にはならないぞ」


 「うっ」


 「……ハハッ。冗談だよ。怒ってなどないさ。お前は律儀な奴だな」


 良かった。そこまで怒ってないようだ。律儀と言うが、それは優斗のフォローのお陰だ。

 そのことは黙っておくことにしよう。


 「セリス、さっきは褒めてくれてありがとう。その……俺も、セリスのことは尊敬している。本当だ」


 「そうなのか?」


 「うん、出会いは最悪だったけど、セリスが居なければ、きっと野垂れ死んでたよ。セリスは俺達がここまで導いたと言うけど、それは逆だよ。セリスの強い意志に、俺達は導かれている。これからも俺達を導く灯であってくれ」


 「フッ、ずいぶん臭いことを言うじゃないか、私の契約者様は」


 月を背に笑うセリスの白銀の髪が、月夜に照らされ輝いていた。

 いつにも増して、セリスは神秘的な美しさを放っている。

 それは、まさに幻想的な絵画の一枚のように。


 「綺麗だ……」


 「えっ?」


 しまった。つい口から言葉が出てしまった。


 「あっ、い、いや、月が―――、ね」


 「そ、そうだな。今宵は満月が美しい」


 月が綺麗ですね。と言ったのは誰だったであろうか。そんな意味で言った訳ではないのに、余計に意識してしまうではないか。


 和也は、もう一度チラッとセリスを覗き見る。

 

 「………………」


 その美しさに和也は観念した。


 「ああ、もう! 綺麗だよ! セリスは! とても! これでいいか! 文句ないだろ!」


 「なっ、なっ、何を言うカズヤ! からかっているのか!?」


 「本気だ馬鹿! こんなこと恥ずかしくて冗談で言う訳ないだろ!」


 「なっ!」


 ここで、二人の会話は途切れた。だが、二人の意志はしっかりと繋がれている。

 お互いの目を合わせる。和也がゆっくりとセリスに近づいた。その目線は外さない。

 そして、お互いが触れ合える距離まで近づく。


 動悸が激しい。こんなにも冷えるのに顔が熱い。


 そして、二人の距離は更に近づき―――




 「マ・ス・タ・ア―――! 約束の定時連絡の時間は過ぎてるのです! あたしを置いて、何やってるですか!」


 和也の頭に、イーリスの高い声が鳴り響く。 

 しまった。時間を過ぎていたか。


 「イーリス、すまない! 俺が悪かった! 許してくれ!」


 和也は心の底から謝った。イーリスは一人で待ってくれているのだ。本当に悪いことをした。


 「セリス、すまい! イーリスとの定時連絡がある!」


 「あ、ああ!? そうか、そうだな! しっかり頼むぞ」


 和也はセリスに頷いたあと、この場を足早に去っていった。





 和也が去った後、再び月を見上げる。

 今宵はこんなにも寒いのに、まだ身体が熱い。もう少し夜風にあたっていよう。


 身体の中心で燻るこの炎は、夜風と共に、消えてくれるだろうか。

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