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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第二十二話  獣人達の酒宴

 ライサンは名乗りを上げた後、和也との距離を詰める為に動き出した。


 和也は居合の構えを取り、迎撃の体勢を取る。

 よく視ろ、相手の目線、足運び、力んでいる箇所、次の攻撃を予測しろ。


 だが、ライサンは剣の間合いに入ることはなかった。


 ライサンは飛び上がったのだ。今度は和也にもその動きが目で追えた。


 十メートル程、高く飛び上がり、ライサンは右脚を九十度上げた。

 

 「また踵落としか!?」


 否、それは踵落としではなかった。


 ライサンは右脚を上げた姿勢のまま、身体ごと縦に回転を始めた。目にも止まらぬ高速の回転。


 回転の速度は上がり続ける。その様は宙に浮かぶ(リング)


 ―――なるほど、月輪とはこのことか。


 月輪が上空から和也を襲う。


 まともに受ければ、致命傷は避けられないだろう。だが、技が大味すぎる。


 躱すは容易だ。

 

 和也は後方に飛んで、月輪を躱す。月輪が和也の前方の地面を抉る。


 和也は即座に反撃に転じようと動いた。だが、見込みが甘かった。

 月輪は尚も回転の速度を落とさず、地を抉りながら走りだした。さながら地を駆ける車輪。


 車輪が和也を追いかけ、和也の目の前に迫る。

 和也は真横に飛んでそれを躱す。


 車輪は速度を落とさず、派手な砂煙を上げて壁を破壊。


 砂煙で視界が奪われる。和也は砂煙の中、必死で目を凝らした。

 

 「来るっ!」


 ライサンは和也の隙をついて、上空に飛び上がっていた。

 再び宙に月輪が現れる。


 「本気だな……ライサン! 受けて立ってやる!」


 和也は神意(シンイ)を発動する覚悟を決めた。アスクレピオスに語り掛ける。

 お互いヒートアップし、もうこれは只の仕合ではない。

 決して殺し合いではない。だが、ここで負けたら何かを失ってしまう予感がある。大切な何かを。

 人生に於いてのここが分岐点。負けるわけにはいかない。


 これは、お互いの魂を懸けた、意地と意地のぶつかり合いであった。


 和也の体が淡い碧の輝きに包まれる。常時神意(シンイ)を発動しておけば、あの月輪に真向から打ち合える。

 

 月輪も和也の覚悟に呼応したのか、回転数を上げる。


 そして、お互いの意地がぶつかる―――




 「―――そこまで!!」


 低く太い声が広場に響き渡る。


 「お前達! 加減をしれええええいいいいッ!」

 

 ベナンテスの怒鳴り声が、どこまでも木霊した。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 「まったくお前達は、暴れすぎじゃ! 馬鹿者!」


 またかよ……。


 和也は今日、何度目かになる、ベナンテスの叱責を受けていた。


 「まったく若者共は、これだから……ったく」


 目の焦点が合っていない。だいぶ、酔ってるなぁ。おっさん。


 ここは獣人達の居住区にある酒場『西風停』。

 酒場と言っても普段は閉められており、特別な記念日にだけ、店を開けてくれるそうだ。

 

 では、今日は何が特別なのか。今日は新たな神の使いと、それに連なる神行者の歓迎会ということらしい。

 この場にいる人数は三十人ぐらいであろうか。皆、飲んで騒いでのお祭り騒ぎであった。

 歓迎会は建前で、騒ぎたいだけということか。

 と、元の世界であれば少し穿った見方をしていただろう。だが今は、そんな気持ちは微塵も湧かなかった。

 獣人達にとっては、酒も食料も貴重な物の筈だ。日々、食べる者に苦労している者もいると聞く。

 今、並べられている食べ物も酒も、各人が持ち寄った物だ。

 和也は心からありがたいと思った。

 騒ぎたいだけと言えばそうなのだろう。この国に来て、かなり獣人達のことが分かってきた。

 皆、戦いとお祭りが大好きで、陽気な者達だ。そんな者達が日々抑圧された生活を送っているのだ、今日ぐらい良いではないか。それが和也の純粋な気持ちだった。


 「よう、兄ちゃん! あんたの戦いには痺れたぜえ!」


 真っ赤な顔をして、話しかけて来たのは獣人のボントスさん。今日の俺とライサンの仕合を見て、俺のファンになってくれたらしい。


 「人は好きじゃねえが、あんたとあんたの仲間は気に入った!」


 ここに集まったのは、ベナンテスやセブナと所縁のある者達であると聞く。

 ということは、穏健派な者達な訳で、比較的ではあるが、人への憎悪が弱い者達だ。

 それでも、このボントスさんのように「好きではない」が根底にあるという事が人と獣人の溝の深さを窺わせる。


 「ボントスさん。ありがとうございます。でも、今日は少し熱くなりすぎました。お恥ずかしい限りです」


 これは本心だ。一歩間違えれば、俺もライサンも大怪我を負っていたかもしれない。

 神意がある限りその心配はない訳だが、これは心の在り方の話である。

 仕合の後、俺とライサンは散々に叱責を受けてしまった。

 だけど、何であんなに熱くなってしまったんだろう。というか、俺はそんなに熱い性格だっただろうか。

 

 「いやいや、若い内はそうでなくちゃいけねえ! 遠征の前に良い物を見せてもらった」


 遠征……か。和也はその単語を聞いて言葉に詰まる。

 遠征とは、魔石採掘の仕事の為に、この国の採掘場へ遠征に行くこと。

 つまるところ強制労働だ。

 聞いた話では、今の時期は採掘場に生息する岩喰いの怪物(ロック・イーター)という、巨大なミミズ型の怪物の活動が活発になる為、休暇期間らしい。

 そして、その休暇期間の終わりは近いようだ。

 

 「ん? なんだよ兄ちゃん。そんな顔するなって。次に会うのは半年後か一年後か、場合によっちゃあ…………ワハハッ。とにかく楽しくいこうぜ!」


 しまった。ボントスさんに気を使わせてしまった。遠征は長期間の大仕事だ。

 約半年間、採掘場と近くの野営地での往復生活らしい。  

 そして、和也はボントスの言葉を聞き逃さなかった。

 岩喰いの怪物(ロック・イーター)の活動が大人しくなる時期を狙って採掘が始まるが、あくまで大人しくなるだけ。

 活動がゼロになる訳ではない。岩喰いの怪物(ロック・イーター)の主食はその名の通り岩だが、本来雑食で、人も獣人も怪物にとっては単なる餌にすぎない。

 毎年、岩喰いの怪物(ロック・イーター)の被害が出ているようで、死者が出なかった年はないそうだ。

 そんな状況でも、強制労働を強硬する現政権は正気とは思えない。

 この歪みを正す為にも、頑張らないといけない。和也は、そう決意した。

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