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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第二章   砂の国の争乱
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第二十一話  月輪

 獣人達の居住区のとある広場で、和也とライサンは対峙していた。


 草の一本も生えていない砂と土の大地。仕合には打ってつけの場所だ。


 広場の周りには、見物客が集まっている。

 人である和也と、獣人のライサンが仕合をすることを、何処かから聞きつけて来たようだ。


 見物客は、皆一様に熱に浮かされたように興奮していた。


 獣人達にとって、こういったイベントは数少ない娯楽だ。

 盛り上がるのは仕方がないとしても、完全にアウェーなのが和也には気になった。

 和也への声援が皆無であるのは分かるが、和也への罵詈雑言が予想以上に多い。

 それは、この国の人と獣人の関係を表しているかのように。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 広場が見渡せる丘の上で、優斗とエイナは仕合を観戦していた。

 しばらく気まずい空気が流れていたが、優斗が口を開いた。


 「それで、エイナはどっちが勝つと思う?」


 「…………」


 反応がなかった。エイナに問い掛けた優斗の言葉は空を漂う。

 

 「…………僕達が嫌いかい?」

 

 「…………そうよ」


 ようやく返ってきた言葉は、マイナスな感情を肯定するものだったが、言葉が返ってきただけ良いか、と優斗はプラス思考に考えた。


 「君達と人の確執について、今更僕から何も言うことはないけど、人を一括りに考えなくて良いんじゃないかな。僕と和也のことは何も知らないだろう?」


 エイナがそれを聞いて、優斗を鋭い目で睨む。


 「ちなみに、あんたのことは人がどうとか以前に嫌いよ。ヘラヘラした奴は好かないわ」


 エイナはぷいっ、とそっぽ向いた。取り付く島もないとはこのことだろう。


 優斗は嘆息し、仕合が始まろうとしている広場に目線をやる。

 しかたない、仕合に集中するとしよう。 



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 和也が手に握るのは、先程名付けたアストール―――ではなく、貸し出された摸擬刀。

 当然、真剣でやる訳にはいかないことは理解する。

 だが、対峙するライサンが無手であることだけは納得できない。


 「ほんとに素手で良いのか? ライサン」


 確かライサンは、獣人族に伝わる武術を体得していると聞いた。籠手(ガントレット)臑当(グリーヴ)を武器に戦うスタイルだった筈だ。


 「そちらが模擬刀であるならば、問題はない! さあ、どこからでも掛かってこい!」


 「分かった」


 直後、和也の体が消えた。脚に溜めた魔力を爆発させ、跳ねたのだ。

 数舜の後、ライサンの背後に音もなく出現し、模擬刀で斬りつける。


 ライサンはそれに反応した。しゃがみ込んで斬撃を躱す。

 そして、しゃがみ込んだ体勢から左拳による突きを繰り出した。


 大気が爆ぜる程の強烈な突きに、和也は咄嗟に模擬刀の刀身を合わせた。

 和也の身に衝撃が走る。突きの衝撃を逃がせず、体が後方に吹き飛ぶ。

 後方の石と泥の壁を突き破る。衝撃の勢いが落ち、ようやく和也の体が止まった。


 「―――くっ、ちくしょう、強いな……」


 和也はライサンとの数手の攻防で認識を改めた。ライサンの鍛え上げられた技は、武の極致と言える。

 更に、その反応速度と身体能力は和也を上回っていた。

 

 獣人は魔力操作が不得意である。だが、それは戦闘が不向きだということではないのだ。

 獣人の身体能力は人を上回る。ライサン程の強者ともなれば、魔力操作の適正等、些末なことなのだ。

 

 舐めていたのは俺の方だったか。


 和也は粉々になった石と泥の壁に埋もれながら、両手で頬を叩いた。

 よしっ、と声を出し、気合注入を完了。

 気が付けば、ギャラリーの歓声が大きくなっていた。場はすでに温まっている。


 和也は体に纏わりついた土を手で払いながら、ライサンと再び対峙する。

 

 「待ってくれてありがとう」


 「かまわんよ」


 ライサンが長い脚で大きく踏み出した。和也との間合いを詰める。


 和也は模擬刀の間合いに侵入したライサンを斬りつけた。

 だが、模擬刀は空を斬る。

 

 ライサンが突然消えた。和也はライサンの動きを目で追えなかった。

 ふと地面に、動く影が見えた。


 「上か!?」


 和也が上を見上げる。


 ライサンの踵落としが和也に迫る。


 和也はそれを紙一重で躱した。数舜後、大地が揺れる。

 

 ライサンの必殺の踵落としが、大地を揺らしたのだ。ライサンの踵が大地にめり込み、大地がひび割れる。


 「くそっ、殺す気か!」


 ライサンの影を視認した後、体の反応が少しでも遅れていたら、直撃していただろう。


 和也はライサンから距離を取り、深呼吸して呼吸を整えた。


 ここまでの攻防を思い返す。ライサンの技と武は自分より数段上のステージにある。


 だからこそ学ぶべきことは多い。和也は頭の中で思い返す。

 ライサンの足運び、体の捌き方、力の入れ方、目線、呼吸を。


 今度はこちらからだ。


 和也が地を駆けた。再びライサンの背後を取る。

 ライサンは和也の動きを読んでいた。ライサンは背後に身を捻り、回し蹴りを繰り出す。

 和也が背後に現れるタイミングと、ほぼ同時に放たれる回し蹴り。和也にこれを躱す術はない。

 だが、ライサンのその目論見は外れた。蹴りが空を切る。


 「なに!?」


 和也が消えた。

 ライサンは、この仕合で初めて動揺した。

 

 和也が再び背後に現れる気配を察知したが、今度は大きく距離を取る。


 着地と同時に目の前に和也が現れる。


 「―――速い!?」


 模擬刀がライサンの左首の付け根を狙う。これは左拳でガードする他ない。

 

 ライサンは左拳でガードの構えを取るが、模擬刀が消え去った。

 和也が剣の軌道を途中で止め、逆方向に三百六十度身を捻り、模擬刀の軌道を変えたのだ。

 次に模擬刀が現れたのは右の脇腹。これには流石のライサンも反応が間に合わない。


 模擬刀と言えど、和也の膂力で振るわれれば、それは凶悪な凶器と化す。

 ガード出来なければ、ダメージは絶大。

 

 ライサンは神速とも言える反応速度で咄嗟に後ろに退いたが、躱しきれなかった。

 

 模擬刀が右脇腹にヒットし、ライサンの体が吹き飛ぶ。


 奇しくも和也と同じように、壁を突き破って体が止まる。

 

 ライサンは土と泥に埋もれたまま空を見上げ、少し息を吐く。右の脇腹が痛むが、まだ戦える。

 驚いた。いや、これは本当に驚いた。カズヤ、お前―――、戦いの中で成長しているのか。


 ライサンの顔に笑みがこぼれた。強者とまみえるは獣人族戦士の誇り。

 世界にはまだ、これ程の強者がいるのだな。

 

 ライサンは立ち上がり、仕合開始時と同じように和也と対峙した。


「カズヤ、すまなかった」


 「なにがだ?」


 「俺は君を見誤ていた。()()()()()()の素人だと。だから―――、すまない」 

 

 ライサンは一呼吸し、また口を開いた。


 「ここからは、戦士として相手をさせてもらおう」



 ライサンが構えを取り、名乗りを上げた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 

 強い風が吹き荒れ、砂が舞い、優斗が鬱陶しそうに顔をしかめる。

 風が弱まった後、優斗は感想を口にした。


 「いやー、すごいな。ライサンってあんなに強かったんだ。和也をあそこまで追いつめるとは」


 「いや、違うわ。逆よ」


 「逆?」


 「兄さんは、ああ見えて当代狼人(ウェアウルフ)最強の戦士よ。そんな兄さんと戦えている、あのカズヤって人が異常なのよ」


 「最強? それは……すごいな」


 「そして、伝統的に、優れた戦士には渾名が与えられる。兄さんに付いた渾名は、月輪(げつりん)。ここからよ、兄さんの本領が発揮されるのは」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 「月輪(げつりん) ライサン・アルバトロン! ―――参る!」

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