第百八話 岩喰いの巣
和也達は遺跡の入り口に立っていた。
太陽の都バドラルードの外縁。
乾いた大地にポツリと立つ、石を積み上げて造られた遺跡。
周囲に人の気配はない。
現地の者はここには近付かないのだという。
ダンジョン内には凶悪な怪物が蠢いている。
ダンジョンから怪物が出て来ることはないようだが、それでも、好き好んでこの場所に近づく者はいないのだろう。
四角形の遺跡の入り口をくぐり抜ける。
中にあるのは、地下へと続く階段のみ。
人が一人通過できるほどの、狭い階段を一列に並んで降りる。
しばらく進むと広い空間に辿り着いた。
横幅、高さ共に三十メートルはあるだろうか。
これほど大規模な坑道が地下に広がっていることに驚く。
広い坑道の壁には、魔石の粒子が含まれている。
魔石の粒子が坑道内を照らし闇を祓う。
明るさは十分とは言えないが、探索に支障が出るほどではない。
それよりも、気にしなければならない物がある。
和也が声を発した。
「あの穴が……そうなんですね?」
和也の質問にリディが答える。
「ああ、そうだ。あれが、岩喰いの怪物の通り道だ」
岩喰いの怪物。
その名の通り岩を喰う怪物。
このダンジョンに生息するのは主に岩喰いの怪物。
壁にあいた複数の穴は、岩喰いの怪物の食事の跡、という訳だ。
ここから先は、いつ何時、怪物が飛び出してくるか分からない。
慎重に歩を進める。
だが、このダンジョンに蔓延る怪物の目を逃れるのは、無理な話だった。
微かな振動。
岩が擦れる音。
振動と音は次第に大きくなり、やがて壁の穴からソレは飛び出した。
岩の肌に、ミミズのような形状。
口元には鉤爪のような牙が左右に五本づつ並ぶ。
目は退化しているため判別しづらいが、牙の少し上に付いている黒い点がそうなのだろう。
全長約二十メートル。
巨大なミミズの怪物が和也達の前に立ち塞がる。
「さっそくお出ましだよ!」
リディはそう叫んだ後、背中に背負った武器を手に取る。
手に取ったのは巨大な戦槌。
戦槌を手に、踏み出そうとしたその時。
「光柱の印」
一本の光の柱が現れた。
その柱は、怪物の口元に衝突。
怪物の牙が砕け散る。
怪物は痛みに耐えきれず、甲高い叫び声を上げた。
続けざまに光柱が出現。
光柱は怪物の頭部に勢いよくぶつかり、怪物は大きく仰け反った。
怪物の隙を突いて和也は走り出した。
剣を抜き、怪物の体を斬りつける。
鉄を叩いたような甲高い音が響く。
「硬い!」
「OK! 任せて!」
優斗はそう言って、和也が斬った箇所に光柱をぶつける。
一発、二発とぶつけ、やがて、岩肌の一部が剥がれる。
それを見て、和也が駆けだした。
「流石だ、優斗!」
和也は、岩肌が剥がれた部分に手を添えて唱える。
「輝く矢」
ゼロ距離で打ち出される魔術。
和也の魔力を込めたその魔術は、怪物の内部を破壊する。
怪物は、あまりの痛みに暴れまくる。
こうなれば、もう怪物に勝機はない。
和也と優斗は怪物から距離を取り、回避に専念。
やがて怪物は疲れ果て、動きが鈍くなる。
優斗は怪物の傷ついた箇所を光柱で集中攻撃。
数回光柱を打ち付けると、岩肌が大きく剥がれ、柔らかい肌が露出する。
そこを和也が一刀両断。
上から剣を振り下ろし、怪物の体を真っ二つに叩き斬った。
大量に怪物の血が飛び散るが、和也は素早く後ろに飛び退き、返り血を回避。
両断された後も怪物はしばらく動いていたが、やがて動きは緩慢になり、ついには動かなくなった。
リディは後方から戦いを見ていた。
何もせず、ただ見ていた。
和也と優斗の強さに呆気に取られていた。
そして、ポツリと言う。
「おいおい、何だこいつら……」
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聞こえてくる壁を這いずる音。
穴から伝わる振動。
振動の激しさが増す。
「来るよ!」
優斗が叫んだ。
直後、ロックイーターが出現。
今日何度目かになる怪物との邂逅。
ダンジョンに踏み入って出会った怪物は、今のところロックイーターのみ。
このダンジョンは、ロックイーター巣といってよいだろう。
和也と優斗は、対ロックイーターの最適解を見つけていた。
優斗の光柱で一か所を集中攻撃。
岩肌が剥がれたところに、和也が剣と魔術で内部にダメージを与える。
そしてまた、光柱で集中攻撃し、岩肌が大きく剥がれたところに、あるいは怪物が弱ったとこで、和也が渾身の一撃を叩き込む。
この二人の活躍により、リーラとリディは殆どすることがない状態。
そしてまた、優斗の光柱で怪物の岩肌が大きく剥がれ、和也が駆けだした。
動き出す和也を見て、リディが叫ぶ。
「待て! カズヤ!」
「えっ!?」
和也は立ち止まり、視線をリディに向ける。
リディは戦槌を担いで駆けだした。
和也の横を通り過ぎ、怪物に接近。
戦槌を振りかぶり、思いっきり怪物に叩きつけた。
「爆ぜろ!」
巻き起こる衝撃。鋼の甲高い音が鳴り響いた直後、耳をつんざく爆音。
炎と煙が発生し、怪物は絶叫。
爆発の衝撃で怪物は吹き飛び、戦槌で叩かれた箇所は大きく破損。
大量に血が噴き出し、怪物は力尽き絶命した。
「ったく、私にも戦わせろ。でなければ、私が怠けているみたいじゃないか。ただ働きは嫌いだが、報酬に見合った働きが出来ないのも気にいらない」
キッパリと言い放つリディの台詞を聞いて、和也は反省した。
確かに、ちょっと俺達だけで突っ走りすぎていたな。
「すみません、リディさん。確かに、ちょっとパーティーの陣形を乱してますね」
「まあ、分かればいい」
リディから許しが降りて一安心。
それから和也は、沈黙を貫くリーラの方へ視線を向ける。
「リーラもすまない」
「……問題ありません」
相変わらず淡白な反応だったが、それは和也には予想出来た反応。
和也はこれ以上言葉を交わす必要はないと判断。
和也は前を向き進み出そうとするが、その後のリーラの行動は、和也の予想範囲を飛び出していた。
リーラが突然動き出した。
それと同時に、壁の穴から再びロックイーターが顔を出す。
リーラは迫りくる怪物の牙を躱し、跳躍。
刀を抜き、怪物の右目に突き刺す。
怪物のけたたましい絶叫が響き渡り、怪物は怒りのボルテージを上げる。
リーラを噛み砕こうと殺意を爆発させるが、リーラの姿が見当たらない。
リーラの姿が捕捉出来ない。
リーラはその隙に怪物の体に斬撃を当てるが、硬質の肌に刀が弾かれる。
「リーラ! 僕がやるよ!」
優斗が光柱を顕現させ、怪物に叩き込む。
そして、岩肌が剥がれた部分に、和也、リーラ、リディが集中攻撃。
圧倒的な力の前に怪物は為す術がない。
ありったけの斬撃と打撃を叩き込まれ、耐久を超えるダメージを受ける。
そして何も出来ぬまま、怪物は死亡した。
怪物の死体に目をやりながら、和也は考える。
今のリーラの行動は何だろう。
何故、急に積極的に動いたのだろう。
あり得ないと思ったが、ある考えが頭によぎる。
リーラが動いたのは、リディが怪物にとどめを刺した後だ。
まさか……自分だけ活躍出来ていないことを気にして……?
和也には、リーラがそんなことを気にする人物には思えなかった。
思えなかったが、よく考えれば、リーラのことを何も知らない自分に気が付く。
リーラ、君は何を考えているんだ……。
リーラの方に目を向ける。
リーラは相変わらず、無表情で佇んでいた。
いつも通り変化はない。和也には何も読み取れなかった。
ここにパルテノが居れば気付いたのかもしれない。
リーラの黒曜の瞳が、僅かに揺れ動いていることを。




