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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
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第百七話   酒場にて

 冷たく言い放つリディの台詞を聞いて、和也は思う。

 このリディという女は、ネフェリオの使徒ではない。

 ネフェリオ曰く、金で雇った傭兵らしい。


 報酬さえ貰えれば、依頼主の事情など関係がない。

 和也達に協力するのは、あくまでビジネス。馴れ合うつもりはない。

 恐らく、リディの頭にはそんな言葉が浮かんでいるのではないだろうか。


 リディの登場で空気が変わる。

 優斗は場を和まそうと、リディに笑顔で言う。


 「リディさん、まあ、まずは座ってください。どうぞ、何か頼んでください」


 ネフェリオからある程度の金貨は渡されている。

 この店で奢るぐらいは全く問題ない。


 「いいのか? それじゃあ―――」


 そう言ってリディが注文した物は、アルコール度数四十五度の蒸留酒。

 ボトルのラベルには、グランマという酒の名称とアルコール度数を示す数字が書かれている。

 

 リディはボトルに口を付け、琥珀色の液体を飲み始めた。

 水で割ることも氷もなし。

 まるで水でも飲むかの如く、グビグビと喉に流し込んでいる。


 和也は目を見張った。

 おいおい、嘘だろ……。

 そんなことしたら、ぶっ倒れるぞ……。

 

 「あ、あの、大丈夫なんですか?」


 和也の問いにリディは首を傾げる。


 「何がだ?」


 「い、いや、何がって……そんな物を一気飲みして大丈夫なんですか?」


 「ああ、そんなことか。問題ない。逆にこれぐらいじゃないと酒とは言えんな」


 「そ、そうですか……」


 並みの人間ならぶっ倒れている。

 だけど、ここは異世界。元の世界の常識など通じない。

 和也は深く考えることを止めた。


 「そんなに気になるか?」


 「はい?」


 唐突なリディの質問に、和也の声が裏返る。


 「まあ、お前は若いからな。だが、私を気にするあまり、足を掬われては敵わん」


 頭に疑問符を浮かべる和也にリディは言う。


 「悪いが、子供には興味がないのでな。私のことは諦めろ」


 何なんだ? 何も言っていないのに、勝手にフラれたぞ。

 いや、それ以前に、そういった感情はリディに対して一切抱いていない。


 そもそも俺は子供ではない。俺が子供だというのなら、リディだって子供だろうに。

 確かに大人びて見えるが、そこまで歳が離れているとは思えない。

 

 と、そうやってごちゃごちゃと考えているところが、子供なんだろうか。

 そんな風に色々考えたあげく、和也の口からは「はあ……そうですか」と気の抜けた返事しか出てこなかった。


 沈黙が訪れ、この場に妙な空気が流れだす。

 優斗がそんな空気を変えようと、手を叩き話を切り出した。


 「それじゃあ、ダンジョン攻略の段取りを詰めましょうか」


 それから一時間ほど、話し合いが行われた。

 話し合いといっても、ダンジョンに関する情報を持っているのはリディのみ。

 和也達はリディの話をよく聞いた。

 

 ダンジョン最奥に存在する狭き門。

 あると伝えられてはいるが、それを実際に見たという者の存在をリディは知らないのだという。

 協力はするが、最奥に到達できる可能性は低い。

 和也達の行動を不可解に思いつつも、その意味や意義は自分には関係がない。

 和也達が飽きるまでは付き合う。そういったスタンス。

 良く言えばビジネスライク。悪く言えば薄情。

 

 ひとしきり和也達に説明し、ボトルに残った琥珀色の液体を飲み干した。

 リディはそれで満足したのか「それじゃあ、また」と言ってこの場を去っていった。


 優斗が大きく息を吐いた。


 「なんだか、すごく疲れたね」


 「ああ、そうだな」

 

 言いたいことを遠慮なく言うリディに心を疲弊させられた。

 だが、和也は寧ろありがたいと思っていた。

 これから挑むのは危険なダンジョンだ。

 妙なおためごかしなど必要ない。欲しいのは確かな情報のみ。

 友人関係を築くのは難しいかもしれないが、ビジネスパートナーとしては最良かもしれない。


 優斗も同じような考えのようで感想を口にする。


 「ああいうのがプロってやつなんだろうね。リーラはどう思う?」


 ダンジョン攻略の打ち合わせ中、結局、リーラは口を開かなかった。

 黙って、和也達の話を聞くのみ。


 「……私には何とも」


 と、素っ気なく一言。

 その返事に優斗は苦笑を浮かべる。


 話し合いも済み「今日は宿に戻ろう」と優斗が提案。

 和也とリーラはそれに同意し、席から立ち上がろうと椅子を引く。


 「お前さん達、気を付けた方がいいぞ」


 唐突に声を掛けられた。

 声の方に目を向けると、男が居た。


 長い髭を一つ結びで垂らしている、初老の男。

 背は低く、屈強な体躯。鋼のヘルムに鋼の胸当て。


 一目見て分かった。

 この男は鎚人族(ドワーフ)だ。

 かつてセリスから聞いた特徴と一致する。


 和也が尋ねた。


 「気を付けた方がいい、というのは?」


 男は顎髭を擦りながら答えた。


 「やっぱり知らんかったか。あの女さ、リディ・ハルマー。あの女には気を付けた方がいい」


 次に優斗が尋ねる。

 

 「えっ、どうしてです?」


 「ああ。昔、二つの部族の間で大きな抗争があってな。両部族、昔からの因縁でお互いを憎しみ合っていた。血を血で洗う抗争は、もう後に引けないところまで発展した。だがそれも、ある日、唐突に終わった」


 男は顎髭から手を放し、神妙な顔で言う。


 「両部族、全滅という形でな」


 男が語る話は衝撃的な内容だったが、和也には男の意図が読めなかった。

 それで一体、何が言いたい?


 「それがリディさんと何か関係が?」


 「さっき全滅と言ったがな。一人だけ生き残りが居たのだ。それがリディ・ハルマーだ」


 和也は質問する。


 「それは……それだけリディさんが強いというだけなのでは?」


 「まあ、そうだな。それは間違いない。だがな、部族の者達の死体には、不審な点があった。頭が潰されていた死体が山ほどあったのさ。リディはそういう殺し方をする。そして、そんな風に殺された死体はリディの敵対部族だけでなく、リディの仲間の部族にも沢山見られた」


 和也は理解する。

 リディが敵対部族だけでなく、仲間の部族含め皆殺しにしたと、この男は言いたいのだろう。


 「リディさんが敵も仲間も皆殺しにしたって言いたいんですよね? でも、それだけじゃあ根拠が弱くないですか?」


 和也の反論を受け、男はまた顎髭を触った。

 何か反論を返してくるかと思ったが、意外にもそうではなかった。


 「まあ……そうかもな。どう考えようがお前さんたちの自由さ。俺はただ、忠告してやっただけ」


 男はそう言った後、口を閉じた。

 そして、立ったまま動かず和也達を見ている。


 不審に思い、優斗が訊いた。


 「あの……まだ何か?」


 男は溜息をつき、やれやれ、といった感じで優斗に返事をする。


 「これだから、よそ者は……。普通、情報をくれた相手には、一杯おごるものだろうが」


 はあ? そんな普通は知らんぞ。

 それに、そっちが勝手にベラベラと喋ったんだ。頼んだ覚えはない。

 そう憤る和也だったが、優斗はこの場を穏便に済まそうと努める。


 「そ、そうなんですね! じゃあ、一杯おごらせてもらいます!」


 優斗がそう言うと、男は満足そうに頷き酒を注文する。


 リディが飲んでいた物と同じ酒を頼み、ボトルに口を付ける。

 グビッと一杯飲み、熱い息を吐いた。


 これ以上は付き合っていられないと思い、和也は優斗とリーラに声を掛け、この場から退散するよう促す。


 和也達は立ち上がり歩き出した。


 退出する和也達の背中に男が言う。


 「ああ、そうだ。さっきは、お前さん達の自由だと言ったが、心に留めておくことだな。奴はこう呼ばれている。血染めの(ブラッディ)リディと。ただ一人生き残った奴の血塗れの姿からそう呼ばれている。その血には味方の分も含まれているかもな、ハハッ」


 嘲るような男の笑い声が、和也の耳に残った。

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