表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
107/163

第百六話   太陽の都

 草原の広場、トランスポート石板前。


 「イーリス、それじゃあ頼む」


 石板の上に立ち、和也が言った。


 「はいです!」


 石板の上に立つのは、和也、優斗、そして、リーラの三名。

 和也と優斗は動きやすい旅装に、フード付きの外套という装い。

 リーラは相変わらず黒いコート。


 石板が輝き始める。


 和也は自身の指に嵌めた指輪の感触を確かめて、ライサンに言った。


 「ライサン、何かあったら指輪で連絡を」


 ライサンがネフェリオの部隊に参加することが決まり、和也はネフェリオに要望をだした。

 ライサンと連絡が取れるようにして欲しいと。

 ネフェリオはそれを了承。

 ネフェリオはライサンに呼び声の指輪を渡し、和也とライサンの間で連絡が取り合えるように整えた。


 これでライサンを通じてネフェリオの情報を入手することが出来る。


 ネフェリオはライサンの随行を認め、連絡手段も整えてくれた。

 流石に今回は騙されているとは考えたくないが、それでも油断できない。

 

 ライサンは力強く返事をする。


 「ああ! お互いに全力を尽くそう!」


 石板の輝きが強まる。


 イーリスが声を上げた。


 「あの!」


 声を掛けられたのはリーラだ。

 リーラは無表情でイーリスを見下ろす。


 「マスターとユウトさんをよろしく頼むのです!」


 リーラは返す言葉を迷うが、目の前の少女の強い意志にあてられ、自然と口から言葉が漏れた。


 「……分かりました」


 その返事を聞いて、イーリスは満面の笑みを浮かべる。

 更に石板の輝きが強まる。もう間もなく転送が完了する。

 イーリスは無表情で佇むリーラに尚も言葉を放った。


 「それから、絶対に帰ってきて欲しいのです! あたしは、もっとリーラさんとお話ししたいのです!」


 リーラは直ぐには返事をしなかった。

 

 何故、この少女は私のことを気にするのか。

 私のことを気にする必要はない。

 そう言おうとしたが、言葉が喉につっかえてしまう。


 この少女には、いつもペースを握られてしまう。


 そして、とうとうポツリと返事をした。


 「……分かりました」


 リーラの返事にイーリスは破顔。

 強く言い放つ。


 「約束です!」


 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 

 中央大陸南西の海に浮かぶ孤島、モルタニア島。


 気候は、一年を通して温暖だが雨季が存在する。

 大洪水が発生するほどの豪雨になることもあり、三十五年前に発生したその災害は、島に甚大な被害をもたらした。

 この島を襲った災害の爪痕は、今も深く残っている。


 大洪水による災害は人々の生活に直撃。生活のインフラは破壊される。

 それが切っ掛けとなり食糧難が発生。国力は低下。

 治安は乱れ、暴動が頻発。

 政情は不安定となり、支配者が度々入れ替わるという事態が続いた。

 一時的に権力を握った者達の求心力は弱く、各地で己の権利を主張する者達が現れる。


 そして今日に至るまで、統一的な支配者不在という状況が続く。


 現在は、有力な豪族や部族が各地域を支配している状態である。


 そんな状況の中、大きな発展を遂げている都市も存在する。

 ここもその一つ。この島で最も大きな都市、太陽の都バドラルード。


 人々は太陽に祈った。

 決して燃え尽きることのない永劫の星よ。

 何度闇に覆われようとも、必ず甦る不滅の星よ。

 我らを照らし、導きたまえ―――。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 和也達は、とある酒場に居た。

 広いホールには円形のテーブルと椅子。それから酒樽。

 

 カウンター席の奥の棚には、酒瓶がびっしりと並んでいる。


 雰囲気を重視する為か、魔石灯による照明は薄暗い。


 優斗はグラスに注がれた透明な液体をグイッと飲んだ。

 渋い顔をして感想を言う。


 「うーん、普通の水だね」


 優斗が注文したのは、イエローバレンシアと名が付いたソフトドリンク。

 この都市の名物というので頼んでみたが、味の感想は、ほんのりと柑橘類の香りのする水、といったところ。

 結果ただの水な訳だが、水の割には随分高いと思うのは、まだこの世界に馴染めていない証拠か。

 よく考えれば、蛇口を捻るだけで綺麗な水が飲めるというのはすごいことなのだ。

 この世界では綺麗な水は、金を払ってでも手に入れる価値のあるものなのだ。


 酒を飲むにはまだ早い時間だ。

 客入りは少ない。

 和也達を除けば、離れた席に座る数人の客と、カウンター席の奥でグラスを磨くバーテンダーのみ。

 

 和也も優斗と同じ物を一口飲み、優斗と同じ感想を言った。

 優斗は和也に「だよね」と言って、リーラに視線を映した。


 「リーラは何も頼まなくていいの?」

 

 リーラの前には何も置かれていない。

 何も頼まぬリーラに店員は苛立たし気な顔をしたが、リーラは気にしていない様子。

 

 「不要です」


 リーラは優斗にそう一言返し、口を噤んだ。

 分かっていたことだが、リーラの口数の少なさは筋金入りだ。

 放つ言葉は最低限のみ。雑談は皆無。


 何か尋ねれば一応は言葉を返してくれるので、任務に支障はないが少々扱いに困ってしまう。


 と考えて、和也は自問する。

 何でリーラのことを気にする。成り行きで行動を共にしているが、こいつは仲間って訳じゃない。

 

 だが、それでも気になっている自分が居ることも事実だった。

 磨き抜かれた曇りなき刃は、美しく完成されている。

 しかし、その刃は抜き身の刀身。

 触れる者すべてを切り裂く凶器であると同時に、脆く傷つきやすい面も持ち合わせている。

 そういった危うさがこの少女にはある。


 和也はイーリスがリーラのことを気にしていた理由を今更ながら理解したような気がした。


 そのように考えていると、背後から声が聞こえた。


 「これは驚いたな。話には聞いていたが、随分若い」


 声の方に目を向けると、長身の女がそこに居た。


 細身だが筋肉質な肉体。

 長くしなやかな四肢。


 アンバーの瞳にブラウンの髪。長く伸びた髪は、後ろで一房に纏められている。

 表情は乏しいが、目つきは鋭い。


 革鎧を纏っており、その顔面には強者の貫禄が漂っている。

 若く見えるが、年齢は不明。


 和也は女に訊いた。


 「あの……貴方が?」


 「私はリディ・ハルマー。お前たちがネフェリオの使いで間違いないな?」


 リディ・ハルマー。

 事前に聞いていた名前と一致する。

 

 この女は、ネフェリオが手配した協力者だ。

 ダンジョンへの案内とダンジョン攻略に協力してくれるらしい。


 和也はリディに返事をした。自分たちはネフェリオの関係者で、ダンジョン攻略に挑む者達だと。


 それを聞いてリディは鼻を鳴らした。


 「ハッ、ダンジョン攻略とは、物好きな者が居た者だ。まあ、事情は訊かないさ。興味もないが」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ