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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
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第百五話   誠意には証明を

 ソルランド王国、アルバトロン家にて。


 和也、優斗、セリス、イーリス、ライサン、エイナの六人は、長方形の机を囲み、話し合いを設けていた。


 セリスが真剣な口調で言う。

 

 「驚いたが、話は理解した。世界の危機に帝国の脅威。難問が立ち塞がっているな……」


 和也が返事をする。


 「うん、その通りだよ。まずは、帝国の方を対処しなければならない。帝国は話が通じるような奴らじゃなさそうだし、放っておけば不味いことになるだろう。俺はそう思っている」


 優斗が尋ねる。


 「つまり、ネフェリオ達と手を組むってことだね?」

  

 和也は優斗の問いに頷いて答える。

  

 「そうだ。一時的にではあるけどな」


 そう、あくまで一時的にだ。帝国の脅威を退けるまでの。


 それを為した暁にはどうするのか。

 それはまだ考えていない。

 引き続きネフェリオと手を組んで世界の救済に尽力するのか、それとも……。

 正直言って、話のスケールが大きすぎてまだピンときていない。

 これは一旦、保留だ。


 エイナが手を上げて、問いを投げ掛けた。


 「ねえ、何だかすごいことになってるけど、そのネフェリオって人のことを信じていいの? その人が嘘をついているって可能性はないのかな?」


 確かに、その可能性はある。

 言霊石の制約でネフェリオは嘘をつけない筈だが、何らかのトリックで謀られている可能性は否定できない。世界の危機だ何だと俺達を煽り、上手く誘導されている可能性だ。

 

 だが、ヴィクシャルン帝国の脅威は事実だ。

 魔力枯渇の問題が真っ赤な嘘だったとしても、帝国が脅威であることは厳然たる事実。


 元の世界で暮らしていた時には、他国の軍事戦略や政治に干渉しようなどと毛頭思わなかったし、その手段もなかった。だが、今は違う。

 

 出来ることをやる。そうしなければいけないような気がした。

 今、目の前には自分の出来ることを精一杯やっている者達がいる。

 その事実が和也を奮い立たせる。


 俺も、自分に出来ることを精一杯やろう。


 和也はエイナに自分の考えを伝えた。

 エイナは和也の言葉に一定の理解を示す。


 そして気を引き締め直し、和也は話を進める。


 「まずは、中央大陸の南の孤島、モルタニア島に行き、ダンジョン攻略を目指す。攻略メンバーは俺、ライサン、リーラ、それから……優斗にも来て欲しい」


 ダンジョンの最奥に待ち受けている狭き門。

 これを通過する資格の一つは、異世界の人間であること。

 ならば当然、優斗もその資格を持つ。


 狭き門の先に何が待ち受けているか分からない。

 一人より二人、それが優斗ならば、これ以上に心強いことはない。


 優斗はエイナと顔を見合わせた。

 エイナと優斗はお互いに頷きあう。


 「勿論、僕も行くさ」


 優斗は心の中で、その言葉を待っていた、と呟いた。


 元の世界への帰還理由が無くなったことと、エイナのサポートの為に、一時的に和也の元を離れていたが、常に引っ掛かりを覚えていた。和也のことが気になっていたのだ。


 事態は大きく変わってしまった。世界の危機を救う一助になれるならば、それを断る理由はない。

 大切な人がいる大切なこの世界を守れるならば、戦う理由がそこにはある。


 「エイナ、行ってくる」


 「うん。こっちのことは心配しなくていいから、気を付けて」


 二人はそう言って、視線を合わせて机の下で手を重ねた。


 なかなか見せつけてくれるな……。

 自分のことでもないのに照れ臭くなった和也はチラッとライサンの顔を窺った。

 ライサンは、エイナと優斗の関係をどう思っているんだろう。


 ライサンは難しい顔をして口を結んでいる。


 あれ? もしかして不満なんだろうか?

 意外に思った。

 てっきり二人を祝福しているものだと。


 和也はそんな風に思っていたが、ライサンの頭には別のことが浮かんでいた。

 ライサンは頭の中の思いを吐き出した。


 「考えたんだが、俺は今回はネフェリオの部隊に入ろうと思う」


 「え?」


 ライサンが喋った内容は和也には予想外だった。


 「えっ、兄さん、何でよ?」


 「ああ。俺達は一度ネフェリオに都合よく利用されている。エイナが懸念している通り、今回もそうじゃないとは言い切れない。誰かが奴に付いておく必要があると思う」


 確かにライサンの言う事も一理ある。

 奴の近くで奴をマークする者が必要、か。

 だがそれは、大きな危険を伴う。


 和也のその考えを、セリスが先に口にした。

 

 「だがそれは、大きなリスクを伴うぞ。仮にネフェリオに騙されているのだとしたら、奴に近付くほど、奴に後ろから刺される可能性は高くなる」


 「はい。それは承知の上です。ですがこれは、誰かがやらなければならないと事だと思っています。カズヤとユウトはダンジョン攻略に行かなければなりません。その二人にしか出来ないことですから。ならば、俺も俺に出来ることをやります」


 どうやら、ライサンの決意は固いようだ。


 そんなライサンにイーリスは声を大にして言う。


 「その決意、あっぱれなのです! でも、もし不安ならイーリスにこっそり言うのですよ」


 「ハハッ、ありがとうな、ちび―――イーリス」


 ちび助、と言おうとしたらイーリスにキッと睨まれたので、ライサンは瞬時に言葉を変更。

 そして、イーリスの桃色の髪をぐしゃぐしゃに撫でまわした。


 「や、やめるのです!」


 イーリスが抗議の声を上げると、ライサンは手を止め、ポンポンと軽くイーリスの頭を叩いた。

 

 優しい目をするライサンに、セリスが言った。


 「気を付けるのだぞ、ライサン」


 「はい。ありがとうございます、セリス様」


 セリスに続き、他の面々もライサンを慮り、言葉を送った。

 

 ライサンは「皆、ありがとう」と言ったのち、和也と優斗に言う。


 「二人とも、こっちは任せてくれ。そっちは頼んだぞ」


 和也と優斗はその言葉に頷く。


 そして、その後もしばらく話し合いは続いた。



 話し合いが終わって数時間後、和也とセリスは二人っきりでアルバトロン家に居た。

 他の面々は食料の買い出しや、ちょっとした雑用で外出している。


 和也とセリスは机を挟んで対面に座り、顔を突き合わせていた。


 和也は唾をごくりと飲み込んだ。

 それから、意を決してセリスに喋りかけた。


 「話しておきたいことがあるんだ」


 真剣な様子の和也にセリスは疑問を投げる。


 「どうした? そんなに改まって……」


 「うん……」


 和也は話をした。それは、ジェノ海洋国家連合の大王の娘、カヤのことだ。

 カヤと出会った経緯から別れまで、全て洗いざらい話した。

 それには、カヤから口付けをされたことも含まれる。


 ある者に言わせれば、それは言わなくても良いことなのかもしれない。

 それでも、和也は話をした。


 今から和也が挑むのは、怪物が蠢く危険なダンジョン。

 決して投げやりになっている訳ではないが、正直言って帰ってこれない可能性もある。

 だから、悔いを残さぬようにしたかった。


 それに、セリスに対してだけは、誠実でいたかった。そうしなければいけないと思った。


 セリスは和也の言う事を黙って聞いていた。

 その表情からは感情が読み取れなかった。


 怒っているのだろうか。悲しんでいるのだろうか。それとも、どうも思っていないのだろうか。


 和也はセリスの反応を待った。


 やがてセリスはポツリと言った。


 「これが、そうなのか……」


 和也はセリスの反応を色々と予想していたが、すべて外れた。

 予想外であったその言葉の真意を和也は尋ねた。


 「それは、どういう……?」


 セリスは軽く咳払いして答えた。


 「お前に全く非はないとは言わないが、お前が不義を働いた訳ではないことは分かってるさ」


 セリスのその言葉を聞いて和也は安堵した。


 「そ、そうか……それは良かった」


 「ただ……」


 セリスは言葉を詰まらせ、ソワソワと落ち着かない様子。


 「どうした?」


 セリスは息を吸って、顔を赤くしながら和也に告げる。


 「恥ずかしい話だが、私は……その、今まで恋愛というものをまともにしたことがなくてだな……。だから……驚いた。こんな気持ちになった自分に。これが、そうなのかって……」


 「そうなのか?」


 「嫉妬だ」


 「え?」


 「嫉妬だよ。私は、お前の話を聞いて嫉妬したんだ。自分の中に、こんな気持ちがあることに驚いた。どうしようもなく歯がゆくて、心臓が苦しくて、黒い感情が湧き上がってきて……。これが……そうなんだな……」


 和也は顔を赤くするセリスを見て微笑んだ。

 どうしようもなく、目の前の女性が愛おしく思えた。


 「セリスは……可愛いな……」


 「なっ―――!?」


 ガタッと音を立て、セリスは反射的に立ち上がった。

 顔も耳も真っ赤になっている。


 和也も立ち上がりセリスに近付いた。そして言った。


 「セリス、愛してる」


 「……か」


 セリスが何か呟いたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。


 「ん?」


 「馬鹿! カズヤの馬鹿!」


 「いや、馬鹿って……」


 照れ隠しなのは分かっている。語彙力を弱らせるぐらい恥ずかしかったようだ。


 「馬鹿だよ、カズヤは。バカバカバカ! 私だって、カズヤを愛している!」


 そう叫んだのち、セリスは両腕を和也の首に回した。

 そして、つま先を伸ばす。


 セリスの薄い唇が、和也の唇と重なった。


 目を見張る和也にセリスは言う。


 「これで分かったか! そのカヤとかいう女より、私の方がカズヤを愛している! どうだ! 上書きしやったぞ!」


 恥ずかしさが許容を越え、テンションがハイになるセリス。


 そんなセリスを見て和也は思う。


 やっぱり、可愛いよ。


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