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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
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第百四話   一振りの刀

 天空の大地、草原の広場一角。


 広い草原にポツリと長方形の石碑が設置されている。

 少しだけ歪な形をしているが、艶やかな表面のそれは、墓石の役割を果たしている。


 黒衣を纏う少女は、墓石の前に立ち、墓石の下で眠る者の名を呟いた。


 「パルテノ……」


 風が強く吹き抜け、長い黒髪を揺らした。

 顔に纏わりついた髪を指で払い、視界を確保する。

 黒曜の瞳で、ただ一点、墓石を見つめる。


 天空の宮殿地下での話し合いの結果、これからの行動が決まった。

 ネフェリオの部隊は引き続き、ヴィクシャルン帝国への警戒と情報収集。

 そして、和也の部隊はダンジョン攻略に挑む。


 ネフェリオからの依頼に、和也は渋い顔を見せたが、結局は依頼を受理した。

 どういった心境で依頼を受理したのか、それは分からない。興味もない。


 私は私の任務を全うするだけ。

 長かった待機期間が明けた。

 ネフェリオから指令が下った。


 リーラは和也の部隊に参加し、ダンジョン攻略をサポートせよ、とのこと。

 リーラの参加に和也は難色を示したが、ある人物がリーラの参加を後押しした。

 リーラは小さな少女の言葉を思い出す。


 あたしは賛成です!


 どういうつもりなのかは分からない。

 とにかく小さな少女は、強く賛成を示したのだ。

 強く懇願する少女に和也は根負けした。

 渋い顔をしながらもリーラの参加を認めた。


 それを思い出しながらリーラは、ただ風に吹かれ続けた。


 墓石の前に佇むリーラの背に、声が掛けられた。


 「リーラさん!」


 後ろを振り返ると、小さな少女が居た。

 リーラは小さな少女に尋ねる。


 「何でしょう?」


 感情の籠っていないリーラの問いに、イーリスは答えを返す。


 「はい! マスターが呼んでいるのです! 今後の作戦を詰めたいとのことです!」


 マスターとは、黒髪、黒瞳の青年のことだ。

 詳しい事情は知らないが、この少女は彼のことをマスターと呼ぶ。


 リーラはイーリスに頷いた。


 「分かりました。向かいます」


 ネフェリオからの指示は、和也の下につき、和也をサポートすること。

 ならば、一時的とはいえ、和也はリーラの上司にあたる立場となる。

 疑問を抱くことなどない。異論を唱えることもない。

 自分は命令に従うのみ。

 例えそれが、かつての相棒を殺した人物の下につけという命令だとしても。


 リーラは歩き出した。

 少女の横を通り過ぎ、宮殿へ進む。


 そして、また少女から声が掛けられた。


 「あ、あの!」


 後ろを振り返ると、少女は不安げな顔でこちらを見ていた。

 それでもリーラは、声に感情を乗せず、静かに尋ねる。


 「……なにか?」


 「許してあげて欲しいのです!」


 「……何をでしょうか?」


 「マスターのことを許してあげて欲しいのです!」


 許す? 私があの青年を?


 リーラには理解できなかった。

 許すも何も、自分はあの青年を恨んでなどいない。

 確かに、一般的な感覚でいえば、あの青年は憎むべき相手なのだろう。

 だが、そんな憎いと思う気持ちも、復讐心も、自分の中にはない。


 返す言葉を決めかね、黙るリーラにイーリスは言う。


 「マスターだって、すごく悩んだ筈なのです! すごく、苦しんだ筈なのです! マスターは、あたし達を守るために、自分の手を汚したのです! だから、恨むのだとしたら、悪いのだとしたら、それは、このあたしなのです! あたしがもっと強ければ、マスターは人を殺さずに済んだのですから!」


 イーリスの瞳から涙がこぼれた。

 

 リーラは黙って見ていた。

 目の前の少女のことが不思議だった。


 何故、他人のために、そんな風に感情的になれるのだろう。

 何故、そんな風に涙を流せるのだろう。


 私は……そんな風には……。


 そこでリーラは、はっと気づかされた。

 パルテノは死ぬ間際に言った。

 

 ……そういう顔も出来るようになったのね。


 あの時は、自分を見失っていたように思う。

 自分自身でも、湧き上がる感情に驚いた記憶がある。

 そういう顔とは、どういう顔だったんだろう。


 パルテノ亡き今、それは結局分からずじまい。

 だけど、もしかすると、自分も目の前の少女と同じような顔をしていたんだろうか。


 だとすれば、それは、正常な状態とは言えない。

 何故なら、私は任務を遂行するために生まれて来たのだから。

 

 私はただ、一振りの刀であればいい。

 余計な物はいらない。余計な感情は斬れ味を損なわせる。


 だからリーラは、涙をこぼす少女に言葉を返す。


 「私は誰も恨んでなどいません」


 それを聞いてイーリスは、少しだけ笑った。


 「本当に?」


 「ええ」


 その後、イーリスは涙を服の袖で拭い、ある物を差し出した。

 それは、一冊の本だった。獣の革で装丁されており、その傷み具合から、古ぼけた印象を受ける。

 リーラはそれを見て尋ねる。


 「これは?」


 「これは、あたしの一番のお気に入りの物語なのです! 精霊と勇者の恋の物語なのですけど、悪い魔法使いに囚われた精霊を勇者が助け出すところなんて、もう言葉にできないぐらい、いいですよ! ―――って、すみませんです、ネタバレしちゃったのです」


 えへへ、と笑う少女にリーラは何も反応することが出来なかった。

 だが、それでも、差し出された本をいつのまにか握っていた。


 自分でも何故そうしたのか分からない。

 自分はこの本を読みたいのだろうか?

 物語に興味などない。

 では何故?


 考えても無駄だと悟り「それでは」と言って歩き出した。

 本をコートの内側に仕舞う。


 そしてまた、かつての相棒の言葉を思い出した。


 もう! 楽しまなきゃ駄目じゃない。

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