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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
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第百二話   ネフェリオは語る

 天空の宮殿地下。


 リーラの背後から白い影が現れる。

 その白い影は、やがて形を取り始め、人の形を成した。


 白い影の男、ネフェリオが口を開いた。


 「皆様方、お待たせしました」


 障壁を挟んでネフェリオの対面に立つのは、和也、イーリス、ライサン。


 指輪でネフェリオから連絡を受けた和也は、皆をこの地下に集めた。


 ようやくネフェリオから話を聞くことが出来る。

 今までに溜まった鬱憤をぶつけるように、和也は強い口調でネフェリオに言った。


 「前置きはいい。洗いざらい話してもらうぞ」

 

 「ええ、そのつもりですのでご安心を」


 ネフェリオは笑顔でそう言ったのち、話し始めた。


 「まずは、すでに理解していらっしゃると思いますが、アネモス香を巡る騒動の件です。ジェノ海洋国家連合を中心とする周辺国で問題となっていた、精神に異常をきたす者の増加。これは帝国によって仕掛けられたものでした。その真実は、ミラージュなる人物が妖精の塔と共鳴し、精神汚染をもたらす波長を広範囲に飛ばしていた、ということです」


 淡々と話すネフェリオに和也は言う。


 「ああ、それは理解している。それで、あんたは何処まで知っていたんだ? 最初から全部知っていて、俺達を囮に使ったのか?」


 「アネモス香と妖精の塔のことについて、私には見抜けませんでした。私もまだまだです。そして、貴方達を利用したことについては―――」


 そこで言葉を切り、胸に手を当て頭を下げた。


 「弁解の言葉はありません。私は貴方達を利用した。ですから、貴方達には私を糾弾する権利がある」


 和也は拳を強く握りしめた。


 くそっ、必死こいて各地で奮闘した俺達が馬鹿みたいじゃないか。


 罵声を吐いてやりたい気持ちになったが、ぐっと、その気持ちを抑える。


 ライサンは和也の肩を軽く叩いた。


 「ライサン……」


 ライサンは和也に頷いたのち、ネフェリオに言った。


 「ネフェリオよ、言いたいことは山ほどあるが、今は止めておこう。結果的に、精神汚染の被害を食い止めることが出来たのだ。今はそれで良い」


 一呼吸し、真っ直ぐにネフェリオを見つめ言う。


 「今はそれよりも―――、お前達の目的についてだ。それを吐いてもらおう。この期に及んで、誤魔化しは許されんぞ」


 「ええ、勿論です。元より、言霊石の縛りがありますので、私は貴方達に話さなければなりません。過程はどうであれ、結果的にマカリステラは戦火を免れたのですから」


 和也は懐から言霊石を取り出して握りしめる。


 ネフェリオの言う通りだ。これがある限り、ネフェリオは喋らなければならない。


 「皆様方、覚悟はおありですか?」 


 ネフェリオは尋ねた。その顔には、いつもの笑みは消えていた。

 

 和也が尋ね返す。


 「覚悟? 何のだ?」

 

 「私が今からお話しすることは、この世界の真実についてです。それを聞いてしまったら、もう後戻りはできません。この世には知らない方が良いこともあるというもの。それでも、あえて、お聞きになりますか? 勿論、選ぶのは貴方達だ。さあ、ここが分水嶺です。くれぐれも、後悔なされぬように―――」


 ネフェリオはそう言って、頭を深く下げた。


 和也達は、お互いの顔を見合わせた。

 言葉は要らない。もう気持ちは通じている。


 イーリスが人差し指をビシッ突き出し、ネフェリへ返答した。


 「あたし達は、すでに覚悟出来ているのです! あたし達を舐めるな! です!」


 珍しく強気に言うイーリス。

 その顔には、強い意志が示されていた。


 和也は思う。


 イーリス……俺の上着の袖を掴んでさえいなければ、もっと様になったんだけどな……。


 イーリスは溢れ出る不安に押しつぶされぬよう、和也に縋りついていた。

 和也の服の袖はイーリスの小さな手に掴まれ、くしゃくしゃになっている。


 和也はイーリスの頭に手を乗せてネフェリオに言う。


 「今、イーリスが言った通りだ、ネフェリオ」


 「フフッ……。いいでしょう、貴方達の覚悟、しかと受け取りました」


 姿勢を正しネフェリオは言う。

 

 「不思議だとは思いませんか? 魔力についてです。その力の正体は何なのか、また、それはどこから湧き出て来るのか」


 確かに。魔力とは、この世界に溢れている力。空気のように身近でありふれたものであり、そして、なくてはならない存在。あまり深く考えてこなかったが、魔力の正体は謎に包まれている。


 和也はネフェリオに頷いた。


 「ああ、確かに不思議だ。それで、何が言いたい?」


 「魔力とは何なのか、その原理、成り立ちは神にしか分からぬでしょう。ですが、私は、一部の真実を解き明かしました」


 ライサンが問う。


 「その一部の真実……とは?」

 

 「異世界からの余剰エネルギー。それが、魔力の正体です」


 怪訝な顔でライサンが尋ねる。


 「……どういうことだ?」


 「異世界で生成されるエネルギーの余剰分が、次元の隙間を通って、この世界に流れ込んできている。そのエネルギーこそが、魔力の正体、ということです」


 ネフェリオが告げる真実を聞いて、和也が反応した。


 「異世界……つまり、俺が元いた世界の……?」

 

 「ええ、そうです。ですがこの場合、複数の異世界と言った方が正確でしょう。カズヤさんが元いた世界を含めた、複数の異世界です」


 異世界が複数あると伝えられ、和也はまた驚くが、一先ずそれは置いておくことにした。


 「それで……そのエネルギーとは具体的には何だ?」

 

 「それは難しい質問です。確証はありませんが、私はこう考えます。それは、あやふやで不確かなもの。人の意志、思念、精神、気力、そのようなものだと」


 和也はライサンとイーリスの様子をチラッと窺う。

 二人とも難しい顔をしていた。

 きっと自分も同じような顔をしていることだろう。

 和也は一旦、自分を納得させてネフェリに言う。


 「……とりあえずは分かった。話を進めてくれ」


 「はい。そして私は、長い期間の観測で気付いたのです。次元の隙間が塞がりつつあることに」


 和也達三人は息を呑んだ。

 その反応を確認し、ネフェリオは続ける。


 「次元の隙間が完全に塞がれば、当然、異世界からのエネルギーの供給はなくなります。この世界の魔力は枯渇し、未曾有の危機を迎えるでしょう」


 告げられる真実に和也達は衝撃を受ける。

 和也が尋ねた。


 「つまり、お前の目的は……魔力の枯渇を防ぐこと……?」


 「その通りです」


 「で、では! 夢幻の魔晶石はそのために必要、ということなのですね!」


 イーリスが右手を上げて声を張り上げた。


 「その通りです」


 間髪入れずライサンが尋ねる。


 「夢幻の魔晶石を使って、次元の隙間が塞がるのを止めるということか?」


 「いえ。確かに夢幻の魔晶石を使えば、隙間が塞がるのを止められるかもしれません。しかし、それは一時しのぎにしかならない可能性があります。塞がる原因が分からないのですから、一旦は止められても、再び塞がろうとするかもしれません」


 眉間に皺を寄せ、和也が尋ねた。


 「じゃあ、どうするっていうんだ?」


 「世界を創り変える」

 

 「なに?」


 「世界を創り変えるのです。永遠に魔力が枯渇することのない、一つで完結した世界に」


 「そんなことが……」


 「可能でしょう。夢幻の魔晶石ならば」


 「……だったら、何でそれをやらない? 夢幻の魔晶石は手に入れているんだろう?」


 「足りないのです。夢幻の魔晶石の魔力充足率は八割程度。残り二割足りないのです」


 残り二割……。

 和也は理解した。

 

 「その二割はもしかして……」


 「ええ、その二割はソルランド王国で回収出来る筈でした」


 ソルランド王国という単語を聞いて、ライサンも気付く。


 「では、ソルランド王国で仕掛けられていた大規模な術式というのは……」

 

 「そうです。術式は魔力の収集を目的としたものです」


 ライサンが続けて尋ねる。


 「具体的には、どうやって魔力を収集する?」


 「はい。大気中に漂う魔力を集めるのはとても難しい。そしてその方法は効率が悪すぎる。そこで私は見つけました。ある方法を」


 和也が尋ねる。


 「それは?」


 「血です」


 「血?」


 「仕掛けた術式で、血液に含まれる魔力を吸い上げるのです。それは、私が長い時をかけて創り上げた術式でした。ですから―――」


 和也がネフェリオの言葉を引き継ぐ。


 「大きな争いを起こして、人と獣人に多くの血を流させる必要があった」


 「……その通りです」


 セラフの言葉が和也の頭によぎった。


 この世に混じりけのない悪などない。ある視点から見れば、悪も善に変わる

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