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せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
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第百一話   普通とは違う者達

 ライサンは、斜め右向かいに座るドラコをしげしげと見つめる。


 視線を落とし、無言を貫いていたドラコはライサンの視線に気づき口を開いた。


 「あ、あの……」


 「ん? どうした?」


 「あ、いや、あの、広場での件ですけど……」


 「ああ、君はやるべきことをやったんだろうが、無関係の者を巻き込むのは良くない。次からは、気を付けるべきだ」


 「あ……はい……」


 そう返事をして、ドラコはまた視線を下に落とした。

 そして、また沈黙が流れる。


 ライサンは先程と同じようにドラコを見つめた。


 また視線が気になってドラコは口を開く。


 「あ、あの……」


 「ん?」


 「わ、私、何か……変……ですか?」


 ライサンは理解した。

 悪気があった訳ではない。

 無意識にドラコを観察していたことに気付く。 


 「ああ、すまない。いや、君の真意を測り兼ねていてな……」

 

 「真意?」

 

 「君は言ったな。結婚してください、と」


 「あっ!?」


 ドラコは慌てた様子で顔の前で両手を振る。


 「あ、あれは、忘れてください! わ、私、また勘違いしちゃったみたいで!」


 ドラコは自分を戒める。

 この思い込みが激しい性格のせいで、また勘違いしてしまった。

 目の前の彼が私を求めているのだと思い込んでしまった。


 少し冷静になって考えれば分かることだ。

 そんな筈はないと。


 「ほ、ほんまに! ごめんなさい!」


 顔を赤くして謝るドラコ。

 その後、ドラコは苦虫を嚙み潰したような顔をした。


 しまった。つい訛りが出てしまった。

 常日頃、訛りが出ないように気を付けているのだが、ふとした拍子に出てしまうことがある。


 弟のコルバスは全く気にしていなさそうだが、ドラコは他人から訛りを指摘されるのが嫌だった。

 何が問題なんや? と弟は不思議そうな顔をするが、ドラコには堪らなく嫌なことだった。

 異質な存在だと言われているような気がしたから。


 私は別に、普通なんだから。どこにでもいる普通の女。

 少し根暗だけど、少し自分に自信はないけど、普通の女なんだから。

 ドラコは、そう自分に言い聞かせた。


 ライサンが顎に手を添えて呟いた。

 

 「ふむ、勘違いか……」


 続けてライサンは言う。


 「時に、一つ訊いても良いだろうか?」


 「……何でしょうか?」


 「君は何をそんなに恐れているんだ?」


 「……はい?」


 「いや、すまない、そう感じたので……な」


 ドラコは考える。

 私は何かを恐れているのだろうか?

 まあ……恐れているといえばそうなのかもしれない。


 ドラコにとっては、あらゆることが怖かった。

 他者から向けられる奇異の視線も、他者の口から吐かれる罵声も、他者から向けられる悪意も。


 何故だろう。普通にしているつもりなのに、いつも他人とのズレを感じる。

 だからドラコは怖かった。理解できないから。理解できないものは怖いのだ。


 ドラコはライサンに返事をしようとした。

 そんなことはない、と。自分は皆と一緒だと。何も変わらない、普通の女だと。

 顔を上げ、ライサンの灰色の瞳と視線を合わせた。


 灰色の瞳がこちらを見ていた。強い意志が宿る透き通った瞳が。

 ドラコは全てを見透かされているような気がした。


 口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

 飲み込んだ言葉とは別の言葉が自然と口から出ていた。


 「私は……おかしいのでしょうか?」


 「おかしい?」


 「はい、普通にしているつもりなのですが、他人からはそうじゃないみたいで……」


 「ふむ……」


 ライサンは数秒間思案した後、意見を述べた。


 「おかしいかどうかは俺には分からない。どうやら、俺は普通ではないようだからな。普通じゃない俺には、判断できないさ」


 「……あなたも?」


 「ああ、実は俺も他人から正されることが多くてな。自分では普通にしているつもりなのだが……ハハッ、普通とは難しいものだな」


 そう言ってライサンは破顔する。


 ドラコは少し安堵感を覚える。

 こんなに強くて恰好いい人でも、私と同じ悩みを抱えているんだ、と。

 そう思うと自然と笑顔がこぼれた。


 「わ、私も同じです」


 控えめだが、確かに微笑を浮かべてライサンに言った。


 ドラコの笑みを見て、ライサンも笑顔を浮かべる。


 「普通とは何か、それは俺には分からん。だけど、君はそうやって笑っていた方が良いな」


 「……へ?」


 ドラコはライサンの言葉に瞠目する。

 そして、見る見るうちに顔と耳が赤くなっていく。


 それ以上ライサンの顔を直視できず、顔を俯けた。

 それでも気になって、薄紫の髪の隙間からチラッとライサンの様子を窺う。


 ライサンが、こちらを見つめている。

 また観察されている……。


 ドラコは思った。

 確かに、この人は普通じゃないかも。私から見ても、変わっている人だと思う。


 だけど……。

 この人が普通の人だったら、私はこんな気持ちになっていただろうか。


 普通じゃない。

 ひょっとしたら、それも悪くないのかもしれない。


 ドラコはそんな風に、珍しく前向きに考えた。

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